四話 呪縛
いいサブタイトル思いつかなかったので、あとで変えるかもしれないです。
「僕は、レイ……さんの、いわゆる幼馴染、でした。もっとも、幼馴染といっても……そんなに、仲は良くなくて、一緒に遊んだり、するようなことは、なかったんです」
「仲悪かったの?」
「いえ……その、仲が悪かった……わけではなくて、良く、なかったんです。お互いに、人見知りというか……まあ、そんな感じで」
レイが人見知り。俺と初めて会った時に、そんな感じはしなかったけれど。まあフレンドリーな感じはしなかったな、と思い出す。
チーズドリアはまだ来ない。
他の客のざわめきに紛れて、リョウがつぶやく。
「レイさんは、僕のことを……覚えて、ないみたいだけど、僕たちは、たぶん、似た者……どうしだったんだと、……思います」
「似た者同士」
ただ反芻する。そうかもしれない。だって、二人とも悪魔になったんだから。
だけどリョウ君はその先を話すのをためらっているようだ。
コップに付いた水滴がスーッとテーブルに落ちるのを見ながら俺は口を開く。
「リョウ君はさ、どういう人、どういう死者が天使とか悪魔になるのか知ってる?」
「え、いえ」
唐突に変わった話題にリョウ君は戸惑いながら答える。だけどこれは関係ない話じゃない。
「とりあえず、リョウ君がそうだったように、天使も悪魔も死者がなるもの」
「はい」
「どういう死者かというと、地獄も、天国も無かった人」
地獄も天国も無かった人だけが天使や悪魔になれる。そういう意味では、俺も、リョウ君も、レイもみんな似た者同士だ。
「地獄や天国が人それぞれに存在するっていうのはレイから聞いた?」
「あ、はい……」
「じゃあ話が速い。人それぞれに違う形で天国地獄が存在するってことは、どういうことだと思う?」
俺はレイが悪魔になったときにも同じ質問をした。
本来、俺たちには何の関わりもないはずだった。偶然街で仲良くなったり、そういうことがなければ基本的に天使と悪魔は関わりを持たない。仲が悪いわけではなく、お互いに興味がない。
俺とレイはイレギュラーだ。俺は「おじいさん」に頼まれたから。レイの支えになってくれと、彼に頼まれたから俺とレイは知り合った。
今では知り合ってよかったと思っている。「おじいさん」がレイを支える人物として俺を選んでくれたことも誇りだ。本当に例の支えになれているかはわからないが。
「えっ……と、その人がその人……の、天国とか、地獄とかを造っている……?」
「そういうこと。要するに天国も地獄も、その人の想像だ。」
「つまり……、天国も地獄も……想像でき、なかった、人が僕たちみたいに、天使とか悪魔になる……」
リョウ君は自分で答えを出した。
「正解。基本的には、天使のところを訪れた死者は天使に、悪魔のところを訪れた死者は悪魔になる。だからリョウ君もほんとは天使になるはずだったんだけど」
「僕が、悪魔……に、なりたいって言った」
俺は頷き、水を一口飲んだ。
そう、リョウ君があのまま天使になっていれば、レイとリョウ君が出会う──再会することはなかった。ただレイの知り合いだったというだけなら何も問題はない。だが幼馴染ときた。
ちょっと、勝てる気がしないなあ。
「ねえ、リョウ君。君はどうして悪魔を希望したの?」
「え、あ……いや、えっと」
「ああ、言いたくないなら言わなくていいよ。ちょっと気になっただけだし」
「あ……じゃあ、はい。……すみません」
リョウ君が悪魔を選んだのは、レイがいるからじゃないのか。つい、そう訊きたくなってしまう。悪魔に誰がいるかなんて、事前に知ることはできないと思うけど。
気持ちを切り替えるために話を強引に戻す。
「まあそういうわけで、リョウ君がどういう想いでレイと似た者同士だって言ったのかは知らないけど、天国も地獄も描けなかった点から見ても、二人は似た者同士なんじゃないかなあって話。ごめん、話途中で切っちゃって」
「あ、いえ……」
「で、リョウ君の話はどこへ進むの?」
「お待たせ―! はい、チーズドリア二つ」
元気な声とともに出来立ての料理の皿が置かれる。
「もー、お二人さんえらい真剣な顔して話してるからさー! いつ運ぼうかってずっと悩んでたんだよー!」
「そんなの気にしないでって言ってるじゃん。別に聞かれちゃまずいような話してないし」
「そーんなこと言われてもねー! 私は気にする。だってやじゃん、自分が料理持ってったせいで楽しそうな話が途切れたり、険悪なムードがこっちに向けられたりしたら」
そういうものなのだろうか。俺はレストランで働いたことがないからよくわからない。
ベージュのエプロンを着ているマスターは、お盆を胸に抱えると興味津々といった様子で身を乗り出した。
「そんなことよりさ、君誰? 新人君だよね。翼がないってことはまだ研修中かあ。若いなー。何歳? 中学生くらいかな。ソウと一緒にいるってことはソウんとこの新入り? 今日は何をしに来たの?」
「あ、えっと、その……」
「いや、俺んとこじゃない」
マスターのテンションに付いていけなかったリョウ君の代わりに俺が答える。
「リョウ君は、レイのとこの新入り。悪魔になる予定。レイに買い物に連れて行ってやってくれって頼まれたんだよ。そういえば、リョウ君って何歳? マスターの言うとおり中学生くらい?」
「ええと、一応、高一です……」
「あーそうなの! ごめんごめん、まあどっちにしろ若いねー」
「マス、ターさん? は、何歳……なんですか?」
その質問に答えるのは難しい。
俺たちの年の数え方は三つあるからだ。数え方というか、どこから数えはじめるかというか。
死んだときに何歳だったか、死んでから何年目か、あるいはその二つの合計。どれも俺たちの年齢だ。
「んーと、リョウ君の感覚で言うと十五歳」
「僕より年下、じゃないですか……」
「生きてる年数と死んでる年数を合わせると、まあ二十歳は越してるわよ」
よくわからないという顔をするリョウ君に説明してやる。聞いたリョウはなるほどと頷いた。
まあそんなことはいいとして、とマスターが改めてリョウ君と目を合わせる。
「レイのところにいるっていうと、いろいろ言われるだろうけど。多分実際に今日さんざん言われたでしょ? でも別にレイ悪い人じゃないし。てかむしろいい人だし。リョウ君が嫌にならない限りは、レイのところにいてほしいな。レイは、危なっかしいから」
「はい、あの……」
「じゃあ私はそろそろ失礼するわ! まだ話残ってるでしょ? ていうかドリア全然手付けてないじゃない、せっかく作ったのにー! 冷めないうちに食べてね」
言い残してマスターは立ち去って行く。
言われた通りドリアを食べながら、リョウ君は言った。
「僕と、レイさんは、多分似た者同士……で。だから、レイさんの、思ってることも、なんとなく……わかってる、つもりなんです。だから、呪いを、解きたい……んです」
「なるほどね。じゃあ今度は俺の番か。レイは呪いでさ、絶対に生き続けることを課されたんだ」
生き続ける。もう、死んでるのに。それはつまり、悪魔として生き続けなければならないということだ。誰が考え出したのか、どうしてレイがかかったのかもわからない呪いは、それをレイに課した。
「先に少し説明しておくと、天使と悪魔は幸せか不幸を感じたら消えるんだ。理由は、わかるね?」
「幸せか、不幸……が、そのまま、思い描く……天国と地獄、だから……ですか?」
「そう。幸せと不幸は、天国と地獄そのものだから。だから幸せか不幸を感じた時点で、天国も地獄も想像できるんだ。天使か悪魔になるのは、想像できない人。つまり前提が崩れる。想像できるんなら天使か悪魔でいる必要はない。そうなったら文字通り、消える」
話を真剣に聞いているリョウ君に、食べながらでいいよ、と仕草で促す。
俺自身も食べながら話を続けた。
「ここから先は、『おじいさん』から聞いた話。『おじいさん』っていうのは、悪魔の古参。『おじいさん』が言うには、その呪いは彼が悪魔になったばかりの頃にもかかっている人がいたらしい。なぜそんなものが存在するのか、そして誰がそれにかかってしまうのかはわからないって言ってた。
呪いを解く条件はただ一つ。自身と同じ者を見つけること。俺が知ってるのはそのくらいかな」
「その、呪いにかかっていた人は……どう、なったんですか? あと、生きることを課された、ことが呪いって……」
「その人は、消えたらしい。『おじいさん』も、それ以上のことはわからないと言っていた。
呪いについて、これは言った通り。みんな消えていく中で、自分だけは生き続けなければならない。幸せや不幸を感じても消えないからね。それに、レイが散々言ってたでしょ? 悪魔は残酷な仕事だって。なのに生き続けなけるなんて、ね」
レイが残酷な仕事って言った本意が俺には分からないんだけどね、と付け加える。嫌な仕事、とかでいいはずだ。それをわざわざ、残酷な仕事と言った。その言葉を選んだ訳が分からない。
リョウ君はさらに質問を重ねる。
「じゃあ……呪いを解くとどうなる……んですか?」
「さあ。……消えるんじゃないかな」
「自身と同じ者……っていうのは、同じように呪いに、かかった人……?」
「多分。……だから俺は、絶対にレイの呪いを解けないんだ」
もう白い翼を持ってしまっているから。それでも。
「でも、これだけは言っておきたい。俺はレイのことが、好きだよ」
まっすぐにリョウ君を見る。お互いの視線がちょうど真ん中でぶつかった。
「そう、ですか。……仲間、ですね」
「そうだね。幼馴染の君には勝てないかもしれないけど」
それでも俺は、レイが悪魔になってからのことはよく知っている。
二人とも食べ終わったので会計をして外に出る。これからリョウ君の買い物をしないと。
「あの」
「ん?」
「その、『おじいさん』って、……何者、なんですか?」
「そうだな。いうなれば、俺とレイを出会わせてくれた恋のキューピッドだよ」
おじいさんが、恋のキューピッド。自分で言っておいてアレだがちょっと笑ってしまう。でも間違いなく、おじいさんはキューピッドだ。
「行こう。早く帰らないと、レイが心配するかもしれない」
マスターは、天使でも悪魔でもなくレストランで働いている人です。後々多分ちょっと書きます。
今回はそこまで必要ないと思ったので省きました。
先に知りたいよって人がもしいたら言ってください、マスターそんなに重要な立ち位置じゃない(多分)ので書けない設定も説明します。




