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第2話 嫌猿の仲

むかしむかし。

あるところに、おばあさんとももたろうが、幸せに暮らしていました。

めでたし、めでたし。

これはそんな、とりたてて何も起こらなかった、ももたろうの人生という物語の。

とある青春の1ページに記された、なんてことないエピソードです。


「ももたろうや。ももたろうや。カレー、ここに置いておくから。ちゃんと、食べるんだよ。」

ふるえる声で、おばあさんが。

閉めきられたままの、ももたろうの部屋のふすまに向かって、語りかけます。

「ももたろうや、お前ももう、26になるのだから。そろそろ部屋から出てきて。ほら、炭焼き小屋の伍作さん。覚えているだろう?よく、お小遣いくれた。昔みたいにお手伝いしてくれないかって、言ってくれているんだよ。いきなりお勤めは無理でも、伍作さんのお手伝いくらいなら、ねえ。」

ももたろうの部屋の中から、ダンッ!と床を踏み鳴らす音が響きます。おばあさんは、ビクッとすくみあがり、あわてて続けました。

「そ、そうよねえ。ももたろうは、都に行って。立派なおさむらい様になるんだものねえ。覚えてるかい、ももたろう。あんた小さい頃、いつも、おさむらいになって。おかあさんをお屋敷に住ませてくれるんだって…。」

ダンッ!今度は部屋の中から、ふすまを蹴り飛ばす音がします。

勢い余って、はずれたふすまがパッタリと、外側へ倒れます。

チッ!と舌打ちして、いそいそとふすまをはめ直しに出てきたももたろうが、おばあさんをすごい目で睨み付けました。

こういうのは簡単そうで、意外になかなか、元通りになりません。イライラとふすまを上に下に揺すってはめ直そうとしているももたろうを、おばあさんは手伝ったものかどうか、オロオロしながら見ています。

「ババァのくせに母親面すんじゃねぇ!たまにはカレー以外のモノ作れ!クソババァ!」

ももたろうは吐き捨てると、ようやくはまったふすまを勢いよく、バーンと閉めてしまいます。

勢い余ってふすまがまたはずれ、パッタリ倒れました。

ももたろうが「あぁん!?」と言葉にならない怒声をあげます。

おばあさんはあわててふすまをはめ直し、なかったことにしました。

「ももたろう。そうよねえ。毎日カレーじゃ、嫌よねえ。」

足元のカレーを見るおばあさんの目から、涙があふれます。

「ごめんねぇ。おかあさん、カレーしか、作れなくて。ごめんねぇ。おかあさんのせいで、ごめんねぇ。」

おばあさんはぶるぶるふるえながら、おいおいと泣き崩れます。

部屋の中から、ももたろうの返事はありませんでした。




ところで。


バイク屋さんに、おや。ひよこさんが訪ねてきましたよ。

「やあ、いらっしゃい。。コイツぁステキなお客さんだ。」

バイク屋の親切なおじさんが、ひよこさんに話しかけます。

「バイクを、とりにきました。」

ひよこさんが言います。おじさんは、おお、と合点のいった様子で。

「おい、ひよこさんのバイクをお出ししてさしあげろ。」

「へい。」

職人のお兄さんが、てきぱきとバイクを運んできます。先日、都で暴れていたお()ぃさんたちをこらしめて、もらったバイクです。

バイクはすばらしく手入れされて、ぴかぴかに光っています。ウデの良い職人の仕事というのは、見ていてとても気持ちのよいものですね。ひよこさんも、じっとバイクを見上げています。

「いすが、たかいですね。」

ひよこさんが言いました。おじさんは、おお、と合点のいった様子で。

「おい、ひよこさんをバイクに乗せて差し上げろ。」

「へい。」

職人のお兄さんが、てきぱきとひよこさんをバイクに乗せてくれました。

「けしきが、いいですね。」

ひよこさんは、バイクの座席から珍しげに、あたりを見渡しています。

「ハンドルが、たかいですね。」

ひよこさんが言いました。おじさんは、おお、と合点のいった様子で。

「おい、ひよこさんを送って差し上げろ。」

「へい。」

職人のお兄さんが、てきぱきとバイクに股がります。

ひよこさんをふところに入れたお兄さんは、バリバリと爆音を立ててバイクを走らせました。


「都で鬼を倒したと思ったら。お()ぃさんだった。」

いぬたろうは、ネコさんに話しかけます。

「知らん。」

ネコさんは寝てしまいます。

そこへ、バリバリと爆音を立てて、バイクが走ってきました。

ネコさんはびっくりして、ピャッと走っていってしまいます。

「こんにちは。いぬたろうさん。」

職人のお兄さんのふところから、ひよこさんが顔を出します。

「鬼を倒したい。」

いぬたろうが言いました。

「サルをなかまにするべきでは、ないでしょうか。」

ひよこさんが言いました。

「サルは嫌いだから、イヤだ。」

いぬたろうが言いました。


その頃。

港では、かにが暴れていました。かにはハチや栗やウスや、うんこ等の子分をひきつれて。

サルを刺したり跳ねたり潰したり、転ばせたりとやりたい放題です。

怒った一匹のサルが柿を投げたところ、不幸な偶然でそれが、かにのお母さんに当たってしまい。

よほど当たりどころが悪かったのか、かにのお母さんはみるみる青くなって、しんでしまいました。

非戦闘員を殺害されたかに軍団の怒りはすさまじく。

手当たり次第、サルをハサミではさんで処刑し、その様子をインターネットで公開し始めました。

こうなっては、サル側も徹底抗戦あるのみ。

どちらかが滅びるか。滅ぼされるか。最後の一匹になるまで続く凄惨な戦いが、港を炎に包みました。

港の人々は怯え、逃げ惑うのみです。

「長老。このまま戦いが続けば。我々が勝つにせよ、港が滅びてしまいます。」

サルの若者が、サルの長老に訴えました。

「犬を仲間に入れたら、どうだろう。」

サルの長老は言いました。

「犬は嫌いだから、イヤです。」

サルの若者は反抗します。

そこへ。バリバリと爆音を立てて、バイクといぬたろうが走ってきました。

「おお、犬がきたか。ありがたい。」

サルの長老は、いぬたろうに歩みよります。

「犬からうまれた、いぬたろう。天に代わりて、成敗いたす。」

いぬたろうは得意の台詞を言いました。

「ふつうだのう。」

サルの長老は、言いました。



バリバリと爆音を立てて、いぬたろうとバイクが走ります。

「サルをたおしてしまって、よかったのでしょうか。」

ひよこさんが言いました。

「サルは嫌いだから。いいんだ。」

いぬたろうが言いました。

サルがいぬたろうに倒されてしまったので、港はかにに支配されてしまいました。

すっかり冷めてしまったおばあさんのカレーを、まずいまずいと文句を垂れながら、ももたろうは今日も残さずに食べました。










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