第1話 犬も歩けば暴に当たる
むかしむかし、あるところに。
おじいさんとおばあさんが住んでいました。
めでたし、めでたし。
このままでは、なにも起こらない。
ある日、おじいさんは山へ、しばかれに。
おじいさんはドMでした。
おじいさんがしばかれてしまい、帰ってこないので。
おばあさんは、川でひろってきたももたろうに、しばカレーを食わせて、女手1つで大切に、大切に育てました。
おばあさんはカレーしか作れない、駄目な主婦でしたが、ももたろうは毎日カレーを食べて、すくすくと育ち。
平凡ではありましたが、それなりに幸福な人生を送りました。
めでたし、めでたし。
ところで。
「鬼を倒したい。」
いぬたろうは思いました。
鬼というのは、都の人に意地悪をしたり、詐欺の電話をかけたり。
若い娘にいろいろしたりと、それはそれは、ひどい連中なのだそうです。
いぬたろうはふつうに犬なので、なんとなく、むかえに来てくれるのを待っていたのですが。
どこかでなにかが間違ったらしく、どうも、来ない気がしてきました。
「鬼を倒したい。」
いぬたろうは、ネコさんに言ってみます。
「めんどいのでイヤだ、サルに頼め。」
ネコさんは言いました。
「サルは嫌いだから、イヤだ。」
いぬたろうは言いました。
「キジに頼め。」
ネコさんは寝てしまいます。
「キジか。」
とりあえずいぬたろうはキジを探しに、都へとたったか、駆けて行きました。
「みやこへ、いきたいです。」
おや、ひよこさん。
「よござんす。都まで乗っけていってあげますよ。」
親切なおじさんが、トラックに乗せてくれました。
「おにを、たおしたいです。」
ひよこさんが言いました。
「おや、そいつぁご立派だ。頑張ってくだせぇよ。」
おじさんが言いました。
都につくと、おじさんはひよこさんを降ろし、エアコンを積んで、高速道路で島根へ向かいます。
ひよこさんはパタパタとハネを振って、おじさんのトラックを見送りました。
「おにを、たおしたいです。」
ひよこさんは、高速道路をたったか駆けてきたいぬたろうを見つけ、言いました。
「キジでないと、ダメだ。」
いぬたろうは答えます。
「キジでないと、いけませんか。」
ひよこさんが訊きました。
「キジでなくても、いいか。」
いぬたろうは思いました。
その頃。
都では、暴走族のお兄ぃさんたちが暴れていました。
お兄ぃさんたちは都の人に意地悪をしたり、詐欺の電話をかけたり。
若い娘にいろいろしたりと、それはそれは、ひどい連中です。
今夜も、バイクで都を走り回り。迷惑行為を繰り返していましたが。
お兄ぃさんたちの前に、いぬたろうとひよこさんが、立ちふさがります。
「犬からうまれた、いぬたろう。天に代わりて、成敗いたす。」
月明かりを背中に、いぬたろうが得意の台詞を言います。
「ふつうですね。」
ひよこさんは言いました。
「俺たちを、せいばいするって!!」
お兄ぃさんたちは、ヒャッハーと笑います。
「俺たちは、バイクに乗ってるんだぞぅ。お前ら、バイクに乗れんのかよぉ?犬は、免許取れねーだろう!」
お兄ぃさんたちが尋ねました。
「走るのに、誰かの許しが必要か。」
いぬたろうが答えます。
「こいつ、無免許だぜ。」
「とんでもねえ悪だ。」
お兄ぃさんたちに動揺が走ります。
「俺たちは、金髪に染めてるんだぞぅ。どうだ、ビビっただろう!」
お兄ぃさんたちは、ふたりをビビらせようとしてきました。
「もとから、きいろです。」
ひよこさんが答えます。
「こいつらまじパねぇ。」
「パねぇ。」
お兄ぃさんたちは、すっかりビビってしまったようです。
そんな雰囲気を切り裂くように。
パパパパーンと、一台のバイクがクラクションを鳴らしました。
「お前ら、ビビってんじゃねえ。いいか、犬。俺たちはなぁ、走りに命賭けてんだ。いい気になるのは、走りで俺に勝ってからにしやがれ。」
暴走族の総長です、お兄ぃさんたちを叱ります。
「いいだろう。犬からうまれた、いぬたろう。いざ尋常に、勝負。」
総長と、いぬたろうが一対一で競争することになりました。
タイマンというやつです。
京都タワーまで行って、先に帰ってきた方の勝ちです。
スタート。
ゴール。
いぬたろうだけが、たったか駆けて帰ってきました。
「はやいですね。」
ひよこさんが言います。
「バイクはタイヤが、2個。犬は足が、4つ。2倍、速い。」
いぬたろうが答えました。
お兄ぃさんたちは、パねぇ。こいつらまじパねぇ。と、口々に敗けを認めます。
都は平和になりました。
ひよこさんは暴走族の総長にもらったバイクと一緒に、高速道路の入口に立っています。
「ようがす、バイクを乗せて差し上げますよ。」
エアコンを島根まで運んできた親切なおじさんが、ひよこさんをトラックに乗せてくれました。
いぬたろうは朝焼けの中を、たったか駆けて、帰ってゆきました。