血塗れピエロはそれでも微笑む。
サーカスが都にやって来た。
人々が夢中になって観ているという。
「姫様も観たいですか?」
うずうずとしている私を見て侍女が微笑む。
「ええ!だってとっても素晴らしいんでしょう?」
観に行った侍女が興奮しながら話してくれた。
それはとても素晴らしかった、と。
「まるでこの世のものではないようだと」
だから私も観てみたいと思った。
末の姫である私に父王は甘い。
私がサーカスが観たいと言ったら王宮へと招いてくれた。
初めて観るサーカスは圧巻の一言で、ただただ呆然と観ていた。
本当になんて素晴らしいのだろう。
大きな動物を操る男も、人間ピラミッドの男女も、空中ブランコを操る美女も。
とてもとても素晴らしかった。
「ご招待ありがとうございます」
ピエロが王の前に出て挨拶をする。
「今日は我がサーカスにとって記念日となりましょう」
そう言うとピエロは頭を下げた。
同時に王が崩れ落ちる。
何が起こったのか分からなかった。
やがて王の体から赤い血が流れているのが見えた。
慌てた家臣がピエロを拘束しようとするが無駄だった。
動物を操っていた男が家臣を次々と殺していく。
人間ピラミッドの男女が逃げ惑う侍女を殺していく。
空中ブランコの美女が踊るように家族を殺していく。
それは夢のような光景だった。
気がつくと私一人になっていた。
傍で守っていた侍女も血まみれで倒れている。
「愚かで可愛い姫君のおかげで仕事が楽に片付きました」
ピエロが目の前に立ってお礼を言っている。
優雅な仕種だが、体は血まみれだ。
まだ呆然としている私を見てピエロが微笑む。
「さようなら。王国最後の姫君」
冷たい痛みが首筋を伝う。
私の血を浴びたピエロが微笑む。
その微笑を美しいと思ったのを最後に私の意識は途絶えた。
全ては一瞬のことだった。