第3話 〜怪路の行方(1)〜
中々執筆が進まなかったので今回は短めです、大変お待たせいたしました。
怪路の行方(1) お楽しみ下さい。
奇々怪界な一時の中に放られた宇賀神 翔は、針を見失った小舟のように、フラフラとした足取りで街をただ徘徊していた。
陽気な屋台の射す明かりが翔の眼にはひどく眩しく、無力で頼りもない自身の姿をより鮮明な陰に掘り起こしている。
『あらあらあら、随分とまた陰気になってるねぇ。一体どうしたよ。』
一つの屋台から姿を露わにしてみせたのは、先程までのような受け容れ難い異形の者達とは違い、今まで当然と見慣れていた人間のソレであった。
自分と同じ姿形が見れた事に、思いもよらず彼の口元が解ける。
『すみません、ここは……ここは、一体どこなんですか?』
まるで力のない掠れ声で訊ねる翔を目の当たりにした男は、キョトン。とした表情を見せた
が、何かを瞬時に悟ったようで平静に応える。
『ここか?【桃源郷】さ。』
『とう………げん…きょう??』
翔は耳を疑ぐると同時に、とてつもない不安に駆られた。
『じ、じゃあ……僕はどうなったんですか?死んだんですかっ?だとしたらいつ?どうやって?』
しかし男はそれに対し、呆けた顔で言葉を返す。
男『まぁ〜、お前が確かに死んでるかどうかは知らんが、俺には生きてるように見えるけどな。』
翔『ほんとに!?何かおかしな部分とかありませんか!?どこか欠けてたりとか!!生きてる証拠なんてないじゃないですか!!』
押し潰されそうなほどの恐怖と密かに戦ってくれていた翔の心も、そろそろ限界が来ているようだった。
だがそんな彼を全く気にも留めぬ様子で男が返事をする。
男『足、あるだろ。なら生きてるんじゃねぇの?』
男『まぁよかったじゃないの、五体満足!それどころか身ぐるみ1つ盗られていないんだしさ。顔だけは一丁前に浮浪者だが、身なりはまだ立派なもんだ。』
これほど深く降り注ぐ言葉を不意にもらった翔の眼からはポロポロと大粒の涙が溢れた。
安堵の喜びを味わう翔に、男が続けて話しかける。
男『こんなとこで大の男が泣くもんじゃねぇ。とりあえず歩こう、な。近くに休める場所もあるし、そこには俺なんかよりよっぽどいい話し相手も沢山いるだろうさ。』
翔『何からなにまで……ほんと…すみません。なんと言ったらいいか…。ありがとうございます。』
ひとまず涙を抑え、深くお辞儀をする。
男『まぁそう畏るなよ。お礼なんてあとでもらえばいいからさ。ほら、歩こうぜ。』
男は励ましの言葉と共に、肩に1つだけ ポンッと優しく手を置いた。
そのあっけらかんと笑う男の姿を道しるべにしながら、翔はついて行くことにした。
しばらく異様な街中を歩く道中も、男は様々な案内をして翔の気を慰めてくれた。
男『結局、お前がどこの誰かってことは分かりはしなかったが、さっきも言ったようにここは 桃源郷 。その中でもここいらは街の外れでね。
ここの連中は”鬼”とも区別もつかねぇ見てくれだが、案外危険はねぇもんよ。
だけどな、こいつらモノの考えなんて何ももっちゃあいない、脱け殻のようなやつばっかでな。
ただただ足らん何かの穴埋めをしたくて、こうして夜のゴミ溜めを見つめながらたむろしてるってわけだ。』
翔『 ははっ……クズですね。』
ごまかしの虚言を漏らしつつも、耳が痛むことは確かだ。
以前までの翔と変わりもない、何よりこんな出来事でも起こらなかった限り、今もまさに彼らと同じ生活を送っていたことだったろうから。
しかし、気になるのはそこではなく彼の言った中にまた異質な言葉が入っていたことであったが、あえて聞くのはやめた。
そうこうしているうちに、また賑やかさを感じさせる道へと抜け出た。
翔『随分と派手な場所に出てきましたね。』
街の様子を少しだけ不安そうに確認しながら男に訊ねてみる。
先刻、橋の上で見かけた雰囲気とはまた一つ違い、大人の色香が滲むネオンが、あちらこちらとぼやけた夜の盛り場に入り込んだのだ。
男『あぁ、俺達の庭さ。』
そう男がいいながら手招きをした。
少し急ぎ足で男のもとに近づくと、赤紫のネオンが妖しく誘う店先に辿り着いた。