決別
第4話アップしました。
話の全体とメインの登場人物紹介がやっと終わったかな?
評価・感想・ブクマも是非。
短編の方もお待ちしております。
ルシエルに溶け込んでいた意識が戻ってくる・・・
俺は唇から伝わってくる柔らかく温かい感触が、ゆっくりと離れて行くのを感じなから目を覚ました。
目の前には悲しそうな瞳で俺を見つめるルシエル。
もう一人、眠っていた筈のリリットが俺を睨み付けている。
「一人で戦おうなんて、どういう事なの?アタシは必要無いの?!!アタシはトーマの何なの?」
これから俺がする事を何故かは分からないが、リリットは知っている様だ。
怒るのも仕方ないだろうとは思うが、危険すぎる戦いだ。
そんな事をする馬鹿は俺一人で構わない。
「最後になるかもしれないんだ。大切なリリットを巻き込みたっ!?」
突然、バチンッ!!と音が聞こえ、俺の左頬に激痛が走った。
「だったら尚更側に居たいと思うに決まってるでしょ!」
涙声で叫びながら俺の頬を叩いたリリットの覚悟が俺に伝わってくる。
正直いって巻き込みたくない。
リリットはもう、俺にとって大切な存在だ。失いたく無い。
ましてや勝つ見込みの見えない相手だ。
なのにリリットは俺に付いて来ようとしてくる。
だからこそそんな彼女に惹かれたのかもしれない。
巻き込みたくは無かったが決断する時だ。
「そうだよな。俺がリリットの立場なら同じ事をしていただろうな・・・すまなかった。一緒に付いて来てくれるか?」
「当たり前でしょ。それでこそアタシのトーマね!!頑張ろう!」
そう言うと、可愛らしい笑顔で右手を俺に差し出した。
そして、俺はリリットに出逢えた事を嬉しく思いながら、差し出された手を優しく握った。
「黙っててごめんねー。リリットちゃんの事ー。」
どうやらルシエルが俺とのやり取りを同時にリリットに見せていたらしい。
俺は軽く頷き流した。
「魔王と戦うわ、創造神と戦うわ、挙げ句仲間同士で戦う事になるとは・・・俺達の人生イベント盛り沢山だな。」
「トーマと一緒だと色々あって楽しいよ。『これから』も宜しくね!」
元気そうに答えるリリットではあるが、声は震えている。
俺も正直怖い。
勝ち目の見えない戦いの先に、俺達の『これから』が存在する可能性を考えると心が潰されそうだ。
それでも俺達は、『現在の俺達』として成さなせればならない、仲間としてのケジメをつけようと心を奮い立たせた。
「私、何も出来なくて、ご免なさい。」
ルシエルは先の戦闘で力の大半を失ってしまったので、戦う事は出来ない。
「俺の戦いだ。気にするな。」
「アタシ達でしょ!」
「そうだったな。すまなかった。」
俺はリリットの頭を撫でながらルシエルを見つめた。
覚悟は出来た。迷いは無い。
「ルシエル、現在の俺達の戦いをしっかり見届けてくれ!!」
と、ルシエルに伝え、俺達は運命の場所へ向かっていった・・・
時は少し前に遡る・・・
「どうして創造神が俺達を・・・」
トーマがルシエルに問い掛けている。
そんな様子を横目に眺めながら動き出した四人の勇者達。
その向かう先には、ルシエルとの戦いで大きく引き裂かれた漆黒の空間がポッカリと口を空けていた。
「フフフ、思った通りだわ。」
満足そうに漆黒の空間を見つめる女性。
見た目は二十代前半といったところだろうか。
腰まで真っ直ぐ伸びた銀髪と切れ長の銀色の瞳、整った顔立ちの知的な美女の名はウィンフリー。
勇者の一人である。
「ほう、アレが異世界の入り口か。」
筋肉質の太い腕で身の丈程の大剣を肩の上に乗せながら、まじまじと空間を見つめる。
彼の名はアサルト。
筋骨隆々の大男で赤髪と鋭い眼光を放つ赤い瞳は見た者を威圧する。
三十歳らしいが、それ以上に見える程の風格をもっている。
「割と楽勝だったな。」
この世界では珍しい刀という武器を左脇に差した十八歳のイケメン。
彼の名はシグマ。
青い髪を後ろで束ねた容姿は、鋭い切れ長の黒い瞳と相まって女性と間違われるほどの美形である。
「ここはもう面白く無いからとっとといこー。」
他の勇者より幼く見えてしまう十五歳の少年の名はウイルバ。
背がまだ低いブラウンのオカッパ頭の少し生意気な少年である。
「さあ、始めましょ。」
ウィンフリーは漆黒の空間にてを伸ばし、魔力を注ぎ始めた。
他の三人も同様に魔力を空間に注ぎ始めた。
漆黒の空間は魔力に反応しているかの様に脈動を始めた。
「そういえば、皆見たー?トーマ達を。ルシエルと戦いながら何で?って顔してたよねー。僕可笑しくってさー、途中で笑いそうになっちゃったよー。」
ウイルバは皆に笑いながら語りかけた。
「まぁ、ヤツ等はこの計画も、ウィンフリーから貰ったこの力にも気付かなかったのだから、仕方なかろう。俺はまだまだ暴れたいからこちら側に居るがな。ガハハハハ!!」
豪快に笑うアサルト。
「しかし、俺達の力の解放に直ぐ気が付いたルシエルの力は気に入らないな。ああいう奴は世界ごと消してしまえばいい。」
力を持っているルシエルに憎悪の念を向けるシグマ。
「駄目よシグマ。異世界を繋いでおくのにこの世界は必要なのだから。」
ウィンフリーが鋭い眼光でシグマを睨み付けた。
彼等に世界を救った勇者の面影はもはや無かった。
四人が魔力を注いでいる漆黒の空間に変化が起こる。
「ようやく安定したようね。」
ウィンフリーが表情を和らげた。
脈動していた漆黒の空間はその動きを止め、三つに分かれ、それぞれその先に広がる世界の姿を現し始める。
空間の中には近くに幾つかの光の輪の様なボヤけた球体と、遠くに無数の光が見えている。
「あの二つの異世界が丁度良さそうね。」
ウィンフリーが、右と左の空間で比較的大きめな光の球体を順番に指差し、仲間達に目配せをした。
「真ん中の空間はどうするのさー?」
ウイルバが問いかけた。
「あそこはもう必要無いから放っておきましょう。そんな事はいいから集中しなさい。」
「へいへい。」
ウイルバはつまらなそうに返事をして、ウィンフリーの指示に従った。
ウィンフリーとアサルトが左側の光の球体へ、ウイルバとシグマが右側の光の球体へと魔力を注ぎ込む。
魔力を注ぎ込まれた光の球体が少しずつ大きくなる。
空間魔法と転移魔法と重力魔法を応用して、引き寄せているのだ。
勿論、物理的に引き寄せている訳では無い。
次元と空中の座標を調節していると言うべきだろうか、ボヤけていた球体がまるで焦点が合っていくかの様に鮮明になって行く・・・
「気を抜くと貴方達の方が向こう側へ持って行かれるわよ!」
ウィンフリー以外の三人が額に汗を浮かべ、全身に力込め、真剣な顔で魔力を注いでいる。
瞬く間に三人の身体を黒い瘴気が包み込んだ。
理の力を越える禁忌の行為だ、その反動は計り知れない。
三人の眼が虚ろになっていく。
「折角、私の力を与えたのにもう限界なんて・・・」
ウィンフリーは溜息を付くと、三人に向けて光を放った。
三人の身体を光が包み込むと黒い瘴気が薄れ、虚ろだった眼に光が宿っていった。
限界を越えていた筈の三人は、ウィンフリーの魔力の援護で救われた事に気が付くと、済まなそうな顔をしながら作業を続けた。
近付いて来た光の球体が空間の入り口まで来ると、その中心部に存在する異世界が正体を現し、接近が止まった。
「成功のようね。」
ウィンフリーは空間の入り口から見える二つの異世界を見つめ、微笑んだ。
現れた二つの異世界は半透明ながら、空間の先にはまるで窓の外でも眺めているかの様な風景が広がっていた。
「シグマ!!でっかい木が見えるよー!!すげー!!」
「興味無いな。」
初めて見る異世界にはしゃぐウイルバと無反応なシグマ。
「あの遠くに輝いているのは塔か?城か?」
「アサルトはどうせ壊すつもりでしょ。」
「当たり前だ!!」
「おー!!光ってる!!こっちもすげー!!」
二人の間に割り込みはしゃぐウイルバ。
感動してるのはウイルバ一人だけの様だ。
「落ち着きなさい!!ウイルバ!!」
ウイルバを睨み付け、ウィンフリーが叫んだ。
「ご、ごめん。悪かったよー。」
「判ればいいわよ。気を付けなさい。」
ウィンフリーは溜め息混じりに言い放ち、改めて三人を見渡した。
「後は私が準備するわ。その後は分かってるわね。」
ウィンフリーが三人に確認する。
「ウィンフリーがくっつけた所を安定するように、僕達が中に居て、中から外の世界に色々やっとけばいいんだよね。どうせならあの二つの異世界の中がいいな。」
ウイルバが手を挙げて答えた。
ウィンフリーは、はいはいと言わんばかりに頷き流した。
「俺は早く外で暴れたいんだが、千年も待てんぞ!!」
アサルトは不満そうにウィンフリーに漏らす。
「なるべく早めに終わらせる予定よ。だから途中で出てきたりしたら容赦しないわよ。」
ウィンフリーは微笑みながら答えた。
「俺達三人でも相手にすらならないんだぞ。誰が逆らうものか。」
呆れた様にシグマが答えた。
「それならいいわ。頼んだわよ・・・あら?」
「世界をお前達の好き勝手にはさせないぞ!!」
いつの間にか近付いて来たトーマとリリットがウィンフリー達の後方から四人を睨み付けていた。
最後までお読み頂き有り難う御座います。
読んでくれる人が居るのは有り難い事ですね。
評価・感想とかも参考に出来たら尚良いでしょうね。
という事で、応援宜しくお願いします。