戦いの果てに
短編シリーズの【帰還勇者の孫】が、何故かユニーク500超えを達成したので、お礼を兼ねて来週分を投稿します。
短編シリーズもこちらも感想お待ちしています。
今後も宜しくお願い致します。
「えっ?嘘でしょ?どうして?」
リリットがウィンフリーを見つめながら愕然としていた・・・
実は俺も全く同じ意見であり、現実を受け入れられなかった。
「何を言ってるのかしら?まさか、私を倒せたかもしれないなんて思っていたのかしら?」
ウィンフリーが呆れ顔で語りかけた。
「そうだ。悪いか?俺達の全身全霊の渾身の一撃だったんだ。」
「確かに凄かったわよ。貴方達にあんな力が眠っていたなんて私も思っていなかったわ。それは認めてあげるわ。」
ウィンフリーがそのまま話を続ける。
「それでも私に届かなかった。それだけの事よ。絶望させちゃったかしら。トーマ?」
「絶望?そこまで自惚れては無いさ。だけど、あれだけの攻撃だぞ?お前が無傷なのが残念なんだよ。」
俺達だって勝てるなんて考えていない。
それでも現在の俺達として、仲間の暴走を黙って見逃す事は出来なかったんだ。
せめて未来に繋がる希望の欠片位は見つけたかったが・・・
「流石トーマね。絶望的な状況でも前を向けるなんて素晴らしい事よね。素敵よ。だ・か・ら、良い事教えてあげるわ。」
そう言うと、ウィンフリーは右手の掌を俺に向けるのだった。
「一体何を・・・って。まさか。」
「トーマ。アレって・・・」
俺もリリットも思わず立ち上がり、俺達に向けられたウィンフリーの掌を凝視した。
掌から流れ出ていたのは一筋の赤い血だった・・・
「貴方達の攻撃で受けた傷よ。この意味が分かるかしら?」
「俺達がダイヤモンドに傷を・・・」
「アタシ達の攻撃が届くなら・・・倒せるね。」
今まで全く届かなかったウィンフリーの背中に手が届いた。
一瞬かもしれないが、同格に並べた事は大きく、未来への希望が見えたのだ。
この戦いは無駄では無かった。
その事が何よりも嬉しかった。
「倒せる?可能性はゼロじゃないだけね。本当なら貴方達の攻撃を待つ必要は無いし、私なら躱す事も反撃する事も出来るわよ。良く考えなさい。リリット。」
「うー・・・」
リリットがウィンフリーに論破されていた。
ちょっと前なら、いつも見かける光景であり、俺も微笑ましく見ていた筈だ。
パーティー内では、ウィンフリーが面倒見の良い姉で、リリットが世話の掛かる妹という感じで仲良くしていたのだ。
もう戻ることの無い閉ざされた道だ・・・
「希望が見えたかしら?トーマ?」
ウィンフリーの瞳が冷たく光った気がした・・・
「俺達を喜ばせる為では無いだろ?一体何を考えているんだ?」
「勘の良い男は長生きしないわよ。覚えておくことね。」
「どういう事だ?」
俺がウィンフリーに問い掛けた時だった。
「えっ?あれっ?」
リリットの声が聞こえた・・・
「どうした?リリット。って、おいっ。」
「がっ・・・トーマ・・・」
口から吐血しながら倒れていくリリットが見える・・・
その胸には十字架の傷痕が刻まれ、体を貫かれていた・・・
「リリットー!」
俺はリリットを支えようと必死に手を伸ばし、リリットの手を掴もうとした。
「っ・・・?」
俺の胸に激痛が走った・・・
「がはっ・・・」
俺の胸も十字架状に貫かれていた・・・
それでも俺はリリットの手を掴み、抱き締めた。
「えへへ・・・恥ずかしいよ・・・トーマ・・・がはっ。」
「ぐっ・・・それ以上喋るな・・・傷に響くぞ。」
間違いない。これはウィンフリーの仕業だ。
この傷はウィンフリーが得意とする魔法『鎮魂歌』だ。
気付いたところで手遅れか・・・致命傷だ・・・力が出ない。
「次は無いと言ったでしょう。トーマ、リリット。」
「そ、そうだったな。だが、アサルト達も倒したし・・・お、お前に傷を付ける事が出来た・・・し、収穫はあったさ・・・がはっ。」
「残念ねぇ。アサルト達なら・・・ほら。」
ウィンフリーが右手を上げてパチンと指を鳴らすと、アサルト達が倒れたままフワリと浮き上がり、ウィンフリーの近くに集まってきた。
そして・・・
「なっ?起き上がった?」
「嘘・・・」
アサルト・シグマ・ウイルバが立ち上がり、こちらを見た。
アサルトが、
「トーマ。力こそが全て。ウィンフリーとならそれが可能なのだ。」
シグマが、
「トーマ。結局俺と戦わなかったな。俺には何時でも勝てるとでも?その透かした態度がムカつくんだよ。」
ウイルバが、
「僕が全力出してないのを知っていて、本気出すなんてね。ズルいよねー。だから弱い奴は嫌いなんだよ。」
「「・・・」」
俺もリリットも返答する気は起きなかった。
俺達が知っているアサルト・シグマ・ウイルバはもう居ないのかもしれない。
ここに居るのは【暴食】、【嫉妬】、【傲慢】の権化であり、仲間とは呼べない存在に成り下がっていた。
「アサルト・シグマ・ウイルバ。貴方達は自分の役割を果たしなさい。」
ウィンフリーが二つの黒い球体を取り出し、扉のように変化させた。
「トーマとリリットの力を利用できたからこんなに早く異世界と繋がる座標を固定できたのよ。異世界と繋がる空間の安定は何百年も掛かるけど、貴方達にはしっかりやってもらいたいものね。」
アサルト達がウィンフリーに睨まれながら、アサルトとウイルバが一緒に、シグマが別の黒い扉のような所に入って行った・・・
「御免なさいね。黙っていた訳じゃ無かったんだけど、アサルト達を倒したいのなら、肉片一つ残さない位にしないと駄目よ。折角頑張ったのに残念ね。」
「がはっ・・・お、俺達は利用されていたって事か・・・く、くそっ・・・つ、次こそは・・・」
「あっ、その事なんだけど・・・次は無いわよ。」
「「「???」」」
ウィンフリーの発言に俺もリリットもルシエルも首を傾けた。
「理の力で転生するんでしょ。正しい選択ね。でもね、私が自分に傷を付ける存在をこのままにしておく訳がないでしょう?」
そう言いながら後ろの真っ暗な空間を指差した。
「この空間って私が融合しようとした異世界空間以外、つまり、私が融合する世界とは全く関係の無い第三の異世界空間、別の理の空間なのよね。この意味が分かるかしら?」
気が付いた時には、俺とリリットの足元まで空間が広がっていた。
このまま絶命すれば、俺とリリットの魂は全く関係の無い異世界空間を漂い続けるか、知らない異世界に転生する事になるだろう。
そして、ルシエル・グランデに戻る事は無いのだ。
「そういう事かよ。」
俺はリリットを抱き締めたまま最後の力を振り絞り、この空間からの脱出を計る。
「そうはさせないわ。『究極奥義』、『楽園』。」
俺とリリットの目の前に現れた真っ白に輝く美しい天使が優しく微笑みかける・・・
そして、俺達に祈りを捧げるかのように瞳を閉じて胸の前で両手の掌を組んだ・・・
すると、何処からなのか分からないが凄まじいエネルギー量の『極光』が、俺とリリットに降り注いだ。
「ぐがああぁぁぁーっ。」
「きゃぁぁぁぁぁーっ。」
『極光』は次第にそのエネルギーを失い、ゆっくりと消えていった・・・
そして、俺とリリットは抱き合ったまま、空間の中へと堕ちていったのだった・・・
「さてと、私もそろそろ行かないと・・・あら?」
ウィンフリーの横をすり抜け、空間の中へと飛び込んで行ったルシエル。
「自分の力も回復していないのにどうするのかしら?まあ、いいわ。」
そう言ってウィンフリーは黒い扉のような所に入って行った・・・
やがて扉のような物は姿を消し、口を大きく開けていた真っ暗な空間も、ゆっくりと口を閉じていったのだった。
そして、何事も無かったかのような爽やかな風がルシエル・グランデを吹き抜けていたのだった・・・
最後までお付き合い頂き有難うございます。
実はここまでの話ってプロローグの一部でさらりと流す予定だったんですよー。
序章は読み切りの予定だったのですが、試しに連載ベースで執筆したら、まだ冒頭なのに12話になってしまいました。
一体何話になったら序章が終わるのか分からなくなってきましたが、チマチマ連載でやっていきますので応援宜しくお願い致します。
短編シリーズも皆さんの評価・感想やレビュー次第ですが、連載と繋がる可能性も残してあったりします。
連載共々引き続き応援宜しくお願い致します。