石ころとダイヤモンド
気が付けばもう十話になってました。
まだまだ続きます。
短編シリーズの方も意外に読んでくれている方々がいて励みになります。
短編だから100人位読んでくれればいいなと思ってけど、もうすぐユニークが500人になるタイトルもあってビックリです。
宜しければ覗いてやって下さい。
あとがきの下から飛べますよー。
「ウィンフリーか。残りはお前だけだな。」
「そうね。三人倒したらという約束だったし相手になってあげるけど・・・私に勝てるのかしら?」
俺の問いに微笑みを浮かべたまま、普通に答えを返すウィンフリー。
アサルト達が倒されたというのに焦っていないばかりか、逆にプレッシャーをかけてきた。
「あっ、そうそう。さっきの戦闘で貴方達が結構頑張ってくれたお陰で私の作業が予定より早く終わったわ。二人共かなりの力を放出してくれたんで本当に助かったのよ。だから、手加減してあげるわね。」
あくまでも上から目線で話すウィンフリーだったが、俺達と普通に話しているだけなのに、物凄い威圧感を放っていた。
これは単なる強がりではなさそうだ。
「手加減か・・・それなら、もう一度考え直してみないか?お前もこの世界を救おうとして魔王と戦ったじゃないか?あれは嘘だったのか?」
俺は僅かながらの希望を託してウィンフリーに問いかけた。
「答えはどちらもノーね。考え直す気は無いわ。それと、あの時は魔王を倒して世界を救おうと本当に考えていたわよ。でもね・・・」
微笑みを浮かべたまま答えていたウィンフリーだったが、突然雰囲気が変化し、氷の様な冷めた瞳で俺を睨んだ。
「全て思い出したの。争いばかりの世界に存在価値なんて無いわ。だから私が世界を消滅させてあげるのよ。このルシエル・グランデもどれだけ争いが起こっているのか貴方達はもう知ってるんでしょ?」
俺を睨み付けた瞳が更に鋭くなり、ウィンフリーからのプレッシャーが増大する。
かなりのプレッシャーにリリットは両耳を畳んで身構えていた。
「だからといって世界を消滅させても後には何も残らないだろ?」
「何を残すのというの?敵という存在が居なくても人間は互いに争い始め、意味の無い殺戮を繰り返すわ。でも、魔王や魔物等の敵となる存在には滅ぼされるのは嫌だと・・・一体何がしたいのかしら?結局誰もが争いを嫌がっていても、最後には争いが起こってしまうような醜い世界に残すものなんて無いわね。」
プレッシャーの中で聞くと、思わず同意してしまいそうになってしまうが、実際はウィンフリー視点での意見であって、他の視点でも同じ意見とは限らない。
「確かに醜い世界かもしれない。でも、そんな中でも俺達は平和を夢見て進んできたんだ。そうして掴み取った平和な時代も過去に何度もあったんだ。それが価値の無い事なのか?俺達から見ればウインフリー、お前こそ争いの種を蒔いている当人じゃないか。」
色々な考え方があり、正解は存在しないのかもしれない。
それでも俺なりに考えて進んできた道程に価値が無いとは思えないし、それは他者が決めていい事では無い。
だからこその反論だ。
「トーマ。貴方には分からないかもしれないけど、私がこのルシエル・グランデを今消滅させて奪う魂の数よりも、今後ここで何度も起こる争いで失われる魂の方が遥かに多いのよ。だったら最小限の犠牲の方が幸せじゃないかしら?」
「ウィンフリー。だとしても、幸せな人生を送れる魂の数も後者の方が多くなる筈だ。」
残念だが溝が埋まることは無く、完全に決裂してしまった。
「なら、好きにしなさい。そして、絶望しなさい。トーマ。」
ウィンフリーが右手を真っ直ぐに突き出し俺達の方へ向けた。
魔法を撃つようには見えないが、宣言通り、手加減するつもりで素手で相手をするという事なのだろうか。
「まさか、素手で戦うつもりか?」
「戦う?貴方達の攻撃なら素手で受けても問題無いからそうしてるだけよ。勿論、私からは攻撃しないから遠慮しないで良いわよ。」
まるで自分が負ける事などあり得ないと言わんばかりの笑顔になっているウィンフリーだったが、俺達は先程のアサルト達との戦いで消耗しており遠慮をしてる場合ではなかった。
「ならば遠慮しないで行かせて貰うぞ。ウィンフリー。」
「アタシも行くよー。」
俺達はウィンフリーに向かって飛び出した・・・
「どうしたの?私を倒して世界を救うのでしょ?」
微笑みを浮かべたまま、涼しい顔で俺達の攻撃全てを素手で受け止めているのに、全くダメージの無いウィンフリー・・・
「なっ、何故だ?」
「嘘でしょ?」
状況が理解出来ていない俺達に対してウィンフリーが語る。
「これが現実よ。私と貴方達では格が違い過ぎるのよ。簡単に説明すると、貴方達はただの石ころで、私がダイヤモンドみたいな感じかしらね。だから、どんなに頑張ったとしても、石ころでダイヤモンドに傷を付ける事は出来ないの・・・ダイヤモンドが熱や衝撃に弱いとかは考えないで頂戴ね。単純にダイヤモンドに傷を付けられるのは同格のダイヤモンドかそれ以上の物で無くてはならないという事を伝えたいだけだから。理解出来たかしら?」
アサルト達には何とか勝利はしたものの、最後のウィンフリーは今の俺達には手が届かない存在だったのだ・・・
「くっ・・・」
「・・・」
俺とリリットは返す言葉が浮かばなかった。
俺達は攻撃の手を止め、黙ってしまう・・・
「どうやらやっと現実が理解出来たようね。今度は私が聞くわね。考え直して二人とも私の仲間になってみない?貴方達なら歓迎するわよ。」
ウィンフリーが嬉しそうだ。
俺が先程、ウィンフリーに『考え直してみないか?』と言った台詞をそのまま返してきた。
「答えはノーだ。」
「アタシも嫌だよ。」
俺とリリットは仲間としてウィンフリー達の行いを認める訳にはいかない。
結果としてここで敗北しても、俺は自分に嘘は付けない・・・
リリットもきっと同じ意見だろう。
現在の俺達がただの石ころだったとしても、いつか必ずダイヤモンド以上に辿り着いてみせるさ。
その為の理の力なのだから後悔は無い・・・
「残念ね。まあ、いいわ。」
ウィンフリーが俺達に呪文を唱え始めた。
「これで全快の筈よ。後悔の無いように貴方達の全てを私にぶつけて来なさい。これが最後のサービスよ。次は無いから覚悟しなさい。」
ウィンフリーが俺達を完全回復してくれた。
最後は俺達に全力で来いと・・・これはウィンフリーなりの決別という事なのかもしれない・・・
「これが現在の俺の全力だからな。驚くなよ。」
「アタシも居るんだからねー。」
俺とリリットは互いに見つめ合い、頷いた、
覚悟が出来ているせいだろうか?
今は晴れやかな気分だ・・・
「楽しみにしているわよ。がっかりさせないでね。」
ウィンフリーも昔のような優しい笑顔をしていた。
『トーマ・・・リリット・・・貴方達を選んで正解だったわ。創造神の初めての仲間として思い切り行って来なさい。』
振り返るとルシエルが涙を浮かべながら俺達を見つめていたが、あれが女神の微笑みというのだろうか?
魂が洗われるような気分で心が洗練されていく・・・
俺とリリットは究極奥義のチャージを開始した。
ウィンフリーは俺達を見つめているだけで何かしてくる気配はなく、待っていてくれるようだ。
そして、準備は整った。
「女神様のお墨付きだ。行くぞ!ウィンフリー!」
「天刃千撃斬。」
「聖撃。」
俺達の『究極奥義』が炸裂した・・・
最後まで読んで頂き有難うございます。
クライマックスっぽいけど続きますからね。
引き続き応援宜しくお願いします。
短編シリーズも下から飛べますので、そちらも是非。