六話
「……」
ジュウジュウと、金網で肉が焼ける音が聞こえる。俺にはおなじみの音だ。
昔から叔父さんは俺と友人達とアウトドアでバーベキューに年一回ほど連れて行ってくれた。
俺の親父は真面目と根暗を患った様な飲み友人も碌に居ない仕事人間だったため、そういった機会は俺の社交性を磨くのに役に立ってくれた。
厚さ1、5センチくらいのヒレステーキ肉を、金網の◇模様に焦げ付いたのを専用のタレでご飯と一緒に味わうのは俺のバーベキューにおいての楽しみだった。
「おい、ノブオ…食えよ」
「今は食いたくねぇんだよ」
しかし、あんな目に遭って溺れかけてしまったいまの俺には腹に何かを押し込むなんて作業は只の負担でしかない。
いくつか皿に取っておいて、腹が減ってから後で食うつもりだった。今食うのが一番美味いんだけどなぁ…
「でもさ、さっきまでお前ぐったりしてたじゃん。食べないと身体に損だぜ」
「うるせぇなあ…タカノリの奴に持っていってやれよ」
「お前の叔父さんにさっきの事話すか?」
「……泳がなければ良いんだろ。余計な心配だよ」
確かにさっき溺れかけたのは危なかったかもしれない。しかし、帰るほどの事ではないはずだ。
とにかく、俺は大丈夫だ。海でもう泳がなければいい話だし、それにさっきの女の子も気になる。
そして、ここから見える水平線上の景色は格別にいいのだ。まるで吸い込まれてしまうようだった。
「ここに盛り付けた皿置いとくから好きなときに食べろよ。肉、多めにしといたから」
「…ダイキは」
「あいつは先輩とどっか遊びに行くって。ナンパじゃねーの?」
「ふーん」
あいつは俺が大変な目に遭ってるときに、ナンパで引っ掛けた女とお楽しみかよって思うと次第に腹が立ってきた。
いや、今の俺は例えどんな事があっても何かに対して八つ当たりの感情を押さえ込む事はできないだろう。
「俺、とりあえずタカノリの様子見てくるわ」
俺はあいつの様子が気になっていた。俺が見たモノがあいつと一緒ならあいつが脅えるのも無理は無いのかって…
だが、タカノリの脅え方は尋常ではなかった。あいつは洞窟はいる前から何かを感じていたようだった。
そして、俺の見たものは本当に幽霊の類のモノなのだろうか? 自分で勝手に見たものをそう思い込んでるだけじゃないのかって。
もしかしたらあいつがびびったから俺まで変に影響を受けて、勝手に霊を見た気になっているんじゃないか?
(とにかく、あいつに何か持って言ってやらないとな…)
俺は決心した。昼過ぎに見たものの事もあいつに聞けば何か分かるかもしれないと思ったからだ。