三話
「うわっ!」
不意にまぶしい光が目の前から炸裂した。俺だけではなくみんな身構えてしまう。
まさか霊障? 誰しもそう思ったが実際は違った。そこにあったのはペンライトの光を反射した鏡だった。
「鏡…?」
「おい、ここで行き止まりのようだぜ」
洞窟は行き止まりのようだった。というより前にあるものが道を塞いでいたからだ。
そこにあるのは何らかの祭壇を模したもののようだった。小さな鳥居に何か規則正しく並べられている。
鏡といってもそれほど大きいものではない。手鏡程度の大きさの丸く古いものであった。
「おい…なんだよこれ……」
あるものを見たユースケが震える声で呟いた。あいつが見た方向に俺達四人全員が目を向ける。
鏡は一枚だけではなかった。1、2、3、4…合計七枚の鏡が何かを取り囲むようにして並べられていた。
その真ん中にあったものを見たとき。俺は思わず言葉を失った。他の奴らも同様だった。
そんなものを見てしまえば俺達だけではなく誰しもそう思うのは仕方ないのだろう。そこにあったのは…
「何で日本人形がここにあるんだよ…」
「…俺に聞くなよ」
そこには日本人形があった。それだけじゃない、その人形は釘で下の小さな木の棺のようなもので固定されていたのだ。
「これ…ヤバくね? 引き返した方がいいんじゃ…」
ぽつりとユースケが呟く、俺も同意だった。
ヤバイ。そんな空気がいつの間にか洞窟内に充満している。俺はそしてあることに気付いた。やけに静かになっているのだ。
いつの間にか遠くで聞こえてくるかもめの鳴き声も、海水が波打つ音も聞こえないのだ。
俺達四人の声だけがこの洞窟の中で音として存在を許されていた。
「たかが人形だろ? 何ビビってんだよ!」
ダイキは強い口調で言った。一瞬ヤツの語尾が震えたような気がしたが指摘はしない。
この中で一番立場が強いのがダイキだったからだ。
「人形ってさ、なんか魂が宿るっていうじゃん。それに鏡って魔を封じるのにも使うって」
「ンなモン迷信に決まってんだろ? なに高校にもなってオカルトなんて信じてんだよ」
「神社とかでも鏡って祭壇の真ん中に配置されてるじゃん。それに七枚もあるなんて普通じゃ…」
「……」
俺はようやく気が付いた。おぼろげな光しか公言が無かったので察しにくかったのだが。
タカノリの細長い顔が青ざめるってのを通り越して白くなっているってことに…
そして奴は人形も、鏡も、俺達の方すら向いていなかった。祠の奥の洞窟の隅の海水が溜まっている場所に顔を向けているようだった。
あいつはその場所を凝視するように見つめて、そこから目が離せない様だった。
このときの俺はタカノリが洞窟の陰気な空気に触れて気分を悪くしていたのだと思っていたのだ。だからダイキに言った。
「もういいだろ。こんな辛気臭い場所に居たくないし。タカノリだって気分悪いみたいだし」
「チッ、どいつもこいつもホント根性ねぇよな! こんなんがどうしたってんだよ!!」
「おい! お前…」
ダイキは苛立たしげに言うと、人形を掴みそれを岩陰に放り投げた。
カタン、カタンと音を立てて、岩陰の隙間に人形が隠れる。そして次の瞬間に俺達は
「う、うわあああぁぁぁぁッ!!」
瞬間、タカノリの奴が悲鳴を上げた。それは普段気が弱くオドオドしたあいつの様子からは考えられなかった。
俺とユースケは互いに顔を見合わせて、タカノリの後に続くようにそそくさとその場を立ち去る。
ダイキは自分が悪いのかといわんばかりに不貞腐れつつも、最後に人形の祭壇を後にした。
結局、投げ捨てられた人形はそのままだったのだがこの様子でそこまで気がまわるはずも無かった。