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覚醒、逃亡



俺は二重転生者で、しかもあの、“大罪人ローグ”の生まれ変わり。


人生17年で一番驚いたな。


間違いない。


とにかく、驚いてても仕方ないので、サクラさんに目線で話を促した。


サクラさんは軽く頷くと話し出した。


「しかし貴方は完全に大英雄様の魂を引き継いだ訳ではありません。完全に引き継いでいれば、常界でもローグ・リューテルギスの姿になるはずです。貴方に引き継がれたのは、大英雄様の魂の“半分”です。残り半分は、“悪夢の魔釜”という釜の中に閉じ込められてしまっています。貴方の役割は、その残り半分を何としても回収し、ローグ・リューテルギスの魂を完全な形にすることです。」


「俺の役割…、ですか……?」


「ええ。私達はそのために居、貴方はそのために殺されたのです。」


サクラさんが言い終えたタイミングで、この部屋唯一のドアがガチャリと開いた。


俺も、黙っていたカロンもサクラさんもそちらに目を向ける。


「遅くなりましたぁ。捲くのに手間取ってしまって……」


妙に甘ったるく延ばされた敬語に聞き覚えがあった。

ここに来てからずっと、俺が会いたかった相手が、今やっと何かを終えてここに帰ってきたようだ。


「神崎さん、おはようございます。」


「よう。お前に聞きたいことが山ほどあるぜ。」



春日谷文歌が現れた。







春日谷も交えて4人でテーブルを囲んだ。


椅子はちょうど4脚。これ以上はここには来ないということか。


春日谷はいつも通り俺と同じ学校の学生服姿で、俺に軽く会釈をした。


サクラさんの話が終わったらお前に問いただす番だからな。

とちょっとジト目を向けておく。


年長者はカロンだが、実質のリーダーはサクラさんなのだろう。サクラさんがまたも口を開いた。


「揃いましたね。フミカ、お疲れ様でした。これで、“ログス”は無事結成ですね。」


「ログス?」


「ええ、ローグ様が率いるのだからログスよ。何か?」


「え、でもローグは魔釜にいるんじゃ……」


ここで俺はハッと気付く。

こいつらはそういえば俺=ローグのことを“様”付けで呼んでいた。


もしかして、このチームのリーダーは…


「俺?」


自分を指さしながら問うと、


3人の少女達は揃って、意味深で複雑な表情を浮かべた。肯定、なのか?


「……俺に、一体何をさせるつもりなんです…!?」


「よろしい、私達の目的を話しましょう。」


息を飲む。


「私達は無償で貴方に協力している訳ではありません。この年、この時を狙って、この目的の為だけに貴方を殺しました。つまり、貴方を利用しようとする者の集まりです。」


「俺を…利用するだって?」


「ええ、ローグ様の片割れが閉じ込められている魔釜には、願いを現実にする力があります。その力に私達はあやかりたい。そしてそれを使えるのは完全なローグ様だけなのです。」


俺はその為だけに殺された…?

そんなのちっとも受け入れられないではないか。何の支障もなく送っていた向こうでの日常を突然断ち切られて、これからわけも分からぬ世界で“大罪人”の魂を完全にする?


これだけ見たらこの人達は完全に、俺にとっての…


「極悪人じゃないか!」


思わず立ち上がる。


「俺の意見は!?思想は!?意思は!?夢は!?未来は!?そんなの一切お構い無しに殺されて、あんた達の願いを叶えろだ!?ふざけんなよ!!そんな魔釜なんてのに関わったら絶対変なことになるに決まってる!無駄に引っ掻き回さなくても、平和にここで暮らしたり、嫌になったら転生でもなんでもすりゃいいだろうが!!俺はそんな事手伝わないからな!今すぐ転生して霊都なんざオサラバしてやる!!」


言っているうちにどんどんヒートアップして、ここに来てから溜まっていた色々なものを吐き出す。


そしてこの部屋のドアの存在を思い出してから振り返り、大股でドアへ歩き出す。


すると、


「フミカ」


「はい」


というやり取りが背中で聞こえ、何かが足首に張り付いた感覚がしたあと、俺の足は痺れたように突然硬直した!


「うわっ!ぐっ!」


突然固まった足にバランスを崩してうつ伏せに転げる。


すると地面に着いた両手ともう片方の足首にも何かが張り付き、四肢が完全に痺れて身動きが取れなくなった。


唯一動かすことの出来る頭を何とか上げて、這いつくばって視線も上げると、申し訳なさそうな顔をした春日谷が何か、符…?ゲームとかで見たことがある呪符の様なものを腰のホルスターに閉まっている所だった。


悔しくて奥歯がギリリと鳴ったが少し冷静になった俺は、そういえば聞いていなかった事を思い出し、呟いた。


「アンタらのその力、一体何なんだよ…ッ!」


いつの間にか立ち上がって近くまで来ていたサクラさんが、


「後で教えましょう。フミカ、拘束を。」


「はい」


くそったれ、コイツらは絶対ろくでもないことをしようとしている。しかも俺を利用し、巻き込んで。


なのに俺には抵抗する力も逃げ出すことも出来ない。


大人しく拘束されて、常界の未来まで潰されて、こっちでも潰れていくなんて、


「嫌だ……ッ!」


それは、フミカが俺の四肢の呪符を回収し終えた瞬間…、

俺がもう抵抗しないだろうと思って、新しい拘束用の呪符に切り替える、つまり、俺の身体全てが俺の思い通りに動かせるその一瞬だった。




『では、あなたのやりたいように…』




「……!?」


俺の頭の中に柔らかく響く女性の声が聞こえると、俺の身体は、熱く、熱く、マグマの血が流れたかのように、熱く、そして…、


バッ!


「…!!」


突然飛び起きた俺を見つめるログスの3人。


俺の身体は、この熱く流れる血によって、“内側から動かされている”…!!


「フミカ!」


「……!」


サクラさんの声にフミカが動くよりも早く、たったの一蹴りで、


ダッッ!


ドアまで跳躍し、荒々しくドアを開け、身体を通すとバン!と閉める。


閉まったのを確認するより前に全力で振り返り駆け出す。


初めて見るドアの先は、真っ直ぐの廊下だった。


左右には2つずつ扉があり、突き当たりには両開きの大きいドア、その周りにだけ一段低くなって、石畳のようになっている。


100%、あれは玄関だ…!


日本人が2人もいるんだ、絶対靴は脱ぐはず……!


あの部屋であの人達の足がどうなってたのかは思い出せないが、今はあそこに賭ける……ッ!


ダッッ!とまたも一蹴りで半分位の距離まで跳ぶと、後ろからバァーン!とドアが開けられる音がし、「待て!話を!!」という声も掛けられた。


しかし!


今はこの熱く滾る血に身を任せ、行ける所まで…ッ!!


着地した足で床を蹴りつけ、ドアまで行って振り返ると、3人はもう目の前まで迫っていた。


やっぱり、圧倒的にこの人達は力を持っている…!


すぐさまノブを回し身を滑り込ませ、そのまま、扉に目を向けたまま、つまり全く外など見ずに、後ろ飛びに大きく飛んだ。


賭けだった。


見ず知らずの霊都。初めて出る外。


それなのに俺の身体はたぶん、俺に最適手を教えてくれている。


飛んで、着地した所は、何処かの大通りだった。


商店や民家などが並ぶ、どこか古風な、少なくともモデルが日本ではないのは確かな、レンガ造りの建物たち。


人がごった返し行き来するレンガ道に、突然出てきた人が後ろ飛びに出てきて、人混みの中に着地。なんて向こうの世界でやったら驚かれる事間違いなしだが、こちらではそんなに珍しく無いらしく、チラリと一瞥されて、何事も無かったかのように通り過ぎていく。


そのあとすぐさま開いた扉から3人が飛びたして来、周りを伺うが、人混みに紛れ離れていく俺をうまく見つけられないようだった。


視覚までもが異常に強化されていた俺はそんな3人を視界の端に留めながら、人混みの先の、暗い路地裏へと逃げ消えていくのだった。






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