プロローグ
昨今発表される最強系主人公の小説を読んで、最強じゃなくて最速の主人公が居ても良いじゃない、と思い執筆しました。
多少俺TUEEEが入ってるかもですが、それはそれ。
生暖かい目で見てくれると作者が布団の上でランバダ踊ります。
人間は理解の範疇を越えた事象に遭遇すると、思考を停止してしまうという。
人間は脆い。自然界全般で見れば力も弱い上に耐久力もない。亀のように堅い甲羅を持っているわけでもないし、チーターのように猛スピードで走るわけでもない。
そう、自然界に存在する動物の中では、下位に存在する生物なのだ。
だがそんな弱小種族たる人類が、今まで繁栄の一途を辿ってこられたのは何故か。
それ即ち、思考する事が出来るからだろう。
一概に思考する事と言っても、ただ考える事だけではない。
経験し、失敗し、反復し、また失敗し、また反復し、大成する。
そのサイクルを繰り返す事で人類は文明を築き上げた。
だが、人間は経験した事のない事象にぶつかると、思考を止めてしまう。それが生命の危機に瀕していた場合なら尚更だ。その原因は脳の防衛機能なんだとか。思考する機能をシャットダウンする事で、自己を保全しようとするらしい。
何故こんな事を考えているのか?
それは今まさに己の目の前で起こっている事象に起因している為だ。
青く広がる空。
何処までも続く平原。
地平に佇む山々。
人類が築き上げた文明の影さえ見えない世界が目の前にあった。
「……Why?」
〜〜〜
我輩は人間である。
名前は無い、と言うか忘れた。
この見慣れない世界で目覚めて早3日。近場の森で集めた枝と葉、川で捕った魚で焚火と焼魚を作り、それを眺めながら思考を巡らせた。自分が誰なのか、何故色々な知識を持っているのか。
思考回路をフル回転させても、全く答えが出てこない。
そもそも此処は何処なのだろうか。
今は日が沈み、まるで宝石をぶちまけたかのような満点の星空を眺めながら、昼間散々眺めた景色を瞼の裏に描きながら考えた。
森に生えていた木々やそこに住んでいた鳥や虫、捕った魚、気候から、恐らくは日本以外の何処かでは無いかと思う。
六分儀や天測暦、アナログ時計があればより正確な緯度経度を調べられるが、そんな文明の利器は此処には無い。
「……っと、火が消えちまう」
傍に置いてある枝を焚火に放り込み、また思考の海に身を沈めた。
根本的な話、自分は誰なのか。
名前も、出身も、何も覚えていない。だが、自分が使っている言語と、川の水面に映った顔立ちなどから日本人である可能性は高い。
格好はと言えば、日本の和装ホームウェアである甚平。下ズボンがあるタイプなので、少なくとも昭和40年以降から現代の人間である可能性が高い。
とは言っても、服装がそのタイプであるだけで俺自身が現代人であるかは分からない。
「だぁあああッ‼︎ 考えても分からんッ‼︎」
分かっているのは、自分がこの世界において〝異常〟であるという事だけ。
自分が誰なのか分からず、見知らぬ場所に放り出されたにも関わらず、不安や恐怖など負の感情を一切抱いていない。これは正常な人間ではあり得ないだろう。
まともな人間なら取り乱す位する筈。にも関わらず、自分はと言えば今の状況や心情を客観的に判断するだけの余裕がある。
もう寝よう。
考えるのは明日にも出来る。今は何が起きても良いように休息を取るべきだ。
俺はその場に寝転び、瞼を閉じた。
そよ風に揺れる草花と虫達の鳴き声に包まれながら、意識を手放した。
明日はどんな日になるだろう。
そんな事を考えながら。




