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緋龍の尾  作者: ざぐる
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生活2

少々恥ずかしい思いをしながらお手洗いを済ませ部屋に帰ったラルは、二人に城の案内を頼むことにした。


この城はかつて大きく四つに分けられていたらしい。

北側は資料館、南は住居館、西は政治に使われ東は主に娯楽のための部屋が多かったという。

今はというと、北側の資料館を除き、国王夫妻の部屋や謁見の間すら含めたほぼすべての部屋を定期的に入れ替えているとのことだ。


「暗殺が何件か起こったのです。」


エルナが楽しそうにそう言うと、横にいたシャナが彼女を小突いた。


「だ、だれか死んだのか・・・?」


物騒な城だなと思いながら問うと、シャナが答える。


「いえ、だれも。すべて未遂で終わりました。」


狙われたのは国王。

それ以来身の危険を感じるたびに、他の者の都合も考えずに部屋替えをしたがるらしい。

下っ端の使用人に本来貴族の客が寝泊まりする部屋が割り当てられることもあったようだ。

また逆もしかり。


「大変だな・・・。前に部屋を変えたのはいつなんだ。」


「二週間ほど前です。」


「その前が、その三週間前です。」


ずいぶんと頻繁に部屋替えをするものだな、とラルは思う。


「そのたびに部屋を覚えなおすのは大変だろう。地図はあるのか?」


「ありません。私共わたくしどもが覚えるのです。」


シャナが得意になって眼鏡をかけなおしながらいった。

曰く、他の者の手に渡るのを恐れているのだとか。また中には字が読めないものもいるらしい。


「そいつはすごいや・・・。あなたたちなしでは貴族やあたしはどこへも行けないな。」


そういうと侍女二人はきょとんとした顔で互いを見つめあった。


「そう言っていただけると、覚えたかいがあるというものです。」


「誰よりも早く覚えます。」


二人にじっと見つめられ、少し照れくさくなったラルは


「あたしも自分の部屋くらいは覚えないとな。」


と言ってみせると、急に気まずそうな顔でその必要はないと返される。


ああそうかなるほど、とすぐに納得がいった。

先日まで田舎の村娘をやっていたわけで、狙われるような身分でも惜しまれるような命でもない。

ましてやあの国王からの嫌われようだ、間違えて暗殺されたほうがよっぽど役に立つのだろう。

どうやらほかにもいくつか部屋替えの対象にならない部屋があるようだ。

驚くべきことにエルゲスの部屋も移動しなという。


「なぜだ?奴は貴族だろう?」


その上第一王子だ、狙われて当然のはずなのに。


「それはその・・・。」


二人に問いよると気まずそうに視線をかわされる。

急に込み入った質問をしすぎたようだ。


「あ、いや、話しにくいのなら無理には聞かない。・・・今日は庭があれば散歩してみたいのだが。」


「「お連れします。」」


話をすり替えて一瞬気まずくなった空気を何とかした。

本来貴族や王族が外へ出るときは外出用の服に着替えなければならないが、ラルの場合は到着が突然だったこと(今着せられている服も取り急ぎそろえられたものなので少し大きかった)、もともとの身分が低くあまり歓迎されていなかったため、外出用の服は準備されていなかった。

もちろんそのことに本人が気付くのはだいぶ後のはなしである。


移動しながら二人の説明を聞いていた。

庭はラルが想像していたものよりもずっと大きく、庭園はもちろん、狩りを楽しむための森や使用人の子供の遊び場、貴族の遊び場にチャペル、ダンスホールから畑、中には珍しい動植物を集めた建物まであるそうだ。


山の中で育ち、緑に囲まれていたラルにとっては魅力的な場所だ。

心を弾ませながら歩いていると、前方からきらびやかな格好をした女性が十二人もの侍女を引き連れて歩いてくるのが目に入った。

後ろからシャナが


「胸を張ってそのまままっすぐお進みください。すれ違う時に軽く会釈を。」


と耳打ちし、エルナが


「第二王子セルバ様のお相手、アデリーヌ様です。」


と教えてくれた。

軽くうなずいて進んでいるときつい香水の匂いが鼻を刺激し、思わず眉をひそめてしまった。

アデリーヌ様、と呼ばれた女性はたいそう美しい。

輝かんばかりの金髪を美しく結い上げ、大きな青い目に高い鼻、真っ赤な唇が女を際立たせている。

露出の高いドレスに身を包み、耳や首や指に、ラルが一生働いても手に入らないような宝石を多くつけていた。

一方ラルはというと、かさついて擦り傷だらけの指、すっぴんの平たい顔に赤いくせ毛が思い思いの方向にのびている。

装飾品もつけていないどころか服も少しいいところの町娘が着るような質素なもので、貧相な体がなお貧相に見えてしまう。

ラルが思わずほうと見惚れていると、シャナに堂々としろと注意されてしまった。

すれ違い際、アデリーヌは洗練された動きで礼をしたあと、侍女たちがそれにならう。

美しすぎるそれらの動きにラルはぎこちなく応じた。

礼の形をとられているので彼女の表情こそ見えていないが、形のいい口元がいびつに歪められているのであろうことは想像に難くない。

最後の侍女たちの横を通り過ぎるとき


「二人だわ。」

「二人ですって。」


と小さく笑う声が聞こえた。

どうやら地位はどうであれ、そのものの権力に応じて従える侍女や従者の数は増えるらしいということを感じ取った。

たったの十数秒でこれといった会話もしていないが、城がラルのことをどのように思っているのかよくわかる出来事だった。

同時に後ろで凛とした表情でついてくるエルナとシャナに対し、少し申し訳ない気持ちになる。

エルゲスの奴が勝手に連れてきただけで、彼女たちはただの巻き添えを食らっているだけだ。

通り過ぎてアデリーヌの一行の気配が消えたところで


「すまないな。」


と謝ると、エルナは困ったように


「お気になさらず。」


と言い、一方シャナは案の定


「侍女に対して気軽に謝ってはなりません。」


と言いった。


それもそうだと思い、苦笑した。

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