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緋龍の尾  作者: ざぐる
13/15

生活

亀更新ですが書ききる予定です。

久しぶりにぐっすり眠れた気がする。

目を開けると太陽はとっくの昔にのぼっていた。

雲の上って、こんなところかしら、と思うほど柔らかいベッドの上で眠っていたようだ。

昨晩ベッドに入った記憶もなければ、抱かれた記憶もない。

エルゲスの姿も、ない。


また抱き枕代わりに使っていたしわくちゃの見覚えのある黒いマントを見て、そういうことなのだろうとため息をつく。

口の周りにこびりついた唾液の跡を手でこすっていると、扉の向こうから


「お目覚めですか。」


と、女の無機質な声がした。


「あ、ええ。」


遠慮がちに答えると、待ってましたと言わんばかりの勢いで扉が開かれ、食べ物や湯の入った桶を持った女たちが三人入ってきた。


「おはようございます、エル様。わたくしは侍女長を務めさせていただいております。代々王族の方々の身の回りのお世話をさせていただいております、エンガル国の古き良き血筋、ハガル家の四女、ヨゼと申します。そちらのそばかすが姪のエルナ、メガネが娘のシャナでございます。エル様の身の回りの世話は主にこの二人がいたしますので、なにとぞよろしくお願いいたします。ハガル家の一族はほかにもおります。例えば厨房で働く・・・」


ヨゼと名乗る中年の灰色の髪の女性が話している間にも、ラルは顔を拭かれ服を着替えさせられ、朝食はどうかと尋ねられている。食べる気が起こらなかったので断った。


「・・・というわけですので、ラル様はお気の向くままに、ごゆるりとお過ごしくださいませ。」


侍女長のヨゼはそう言い残して、かくんと腰を折り、足音一つ立てずに部屋から出て行った。

ラルはため息をついた。

つまるところ、何もするな、表に出るなということだ。

残された侍女二人も手際よく後片付けを済ませると、扉の横に一人ずつ人形のように立った。

二人とも視線を一点に定めているが、視界の片隅でラルの様子をじっとうかがっているようだ。

二人とも年齢はラルとそう変わらないだろう。

エルナ、と呼ばれた娘は明るい茶色の髪に同じ色の目をしており、頬にはなるほどそばかすが散っている。髪は後ろで団子にしている。

シャナ、と呼ばれた娘は黒に近い茶色の目と髪をもち、メガネをかけている。おさげにしており、ヨゼの面影が見られた。


正直気まずい。

いい扱いを受けるわけがないだろうということは承知していたが、想定していたのは陰湿な女のいじめ、もしくは放置だ。

だがここでは一応それなりの地位のあるものとして扱われ、あとは無言の監獄に閉じ込められている。


(まいったなあ。)


これでは思いついた「名案」の実行が難しい。

名案は、いたって簡単。

こっそり抜け出して使用人の服でも失敬し、働き始めで何もわからない新人になりきる、というものだった。

きっちり仕事をこなしそうな侍女がいるがあきらめたわけではない。

が、今日はだめだろう。

さてどうするかと考えたところで、まず城の案内くらいはしてもらおうと考えた。


(だがその前に。)


「あのう、」


「「はい」」


遠慮がちに二人のほうへ視線を向けると、二人が同時に感情のこもらない声で答えてきた。

内心焦りつつも、


「お手洗いに、行きたい、のだ。案内を頼んでもよかろうか。」


と頼むと、エルナからは


「かしこまりました、我々がご案内いたしましょう」


との声が。


「エル様、お立場をわきまえてくださいませ。王子妃たるもの、侍女にものを頼んではなりません。」


シャナからはぴしゃりといわれてすくんでしまった。


「あ、ああ。気を付けよう。」


まっすぐに伸びた二人の背筋を追いながら部屋を出る。

便所は存外近くにあるというのでで安心した。

だがついてからまた戸惑う。

ラルのいたサガの村では、村のいくつかに公衆便所があり、穴にそれをためておく。

週に一度はたまったものを当番制で田畑にまいたり森の中に捨てたりして処分し、三月に一度は村中の人間で公衆便所を掃除した。


しかしここの便所は大きな部屋の中に小さな部屋がたくさん並んでおり、個室に入ってみると、それらしきものはあるが、どのような体勢で用を足せばいいのか見当がつかない。

さらに天井からぶら下がる鎖もラルを悩ませた。


「我が国のものが発案しました、水洗トイレです。」


とまどうラルをよそに、シャナがメガネをかけなおしながら淡々と説明した。


「あのう、、」


おずおずと個室から顔だけを出し、人形のようにたたずむ二人の侍女を見た。


「「なんでしょう」」


蚊の鳴くような声で、


「使い方がわからぬ・・・。」


というと、侍女は互いの顔を見合わせてはあとため息をついた。


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