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告白

 その日看護師、橘みなみは何のアクションも起こせないまま、片思いしていた担当患者、三上寅之助が退院してしまい、ひどく落ち込んでいた。


”今回は完全に肉食になれなかった……

 まあどうせ、肉食になった所でいつものように振られてたんだろうけど……

 相手が患者さんだったし、これで良かったんだ……

 でも三上さん……うわぁ~、かっこよかったよ~”

 

 と、橘みなみはあれやこれや考えながら、残していた仕事を片付けたあと、奥の休憩室で同僚と少しだけお茶をしてから、やっと重い腰を上げて帰り支度を始めた。

 そして橘みなみが、とぼとぼとうつむいて歩きながら病院の裏口を出た所に、スーツ姿の三上寅之助が待ち伏せていたように急に現れ、頭を下げながら言い放った。


「好きです! 連絡先教えてください! 今度デートしてくれませんか?」

 

”えっ、うそ? 何これ? どっきりじゃないよね?

 こんなことって本当にあるの? 信じられない! あの三上さんが、なぜ?

 仕事帰りの私をこんな裏口で待っていて、まさかの告白? 夢? 幻?”


 橘みなみは夢じゃないかと疑って、べたに自分の頬をつねってみた。

  

”痛い! めちゃくちゃ痛い!! 夢じゃない!! 現実だ!!!

 でも、ここでいつものおバカ丸出しな対応ではいけないぞ……

 どうする? なんて答える?”

  

 パニックになりながらも、橘みなみは一番無難な答えを模索し答えた。


「はい、喜んで!」

 

         ♡

         ♡

         ♡


 そのあと三上寅之助と橘みなみは連絡先を交換し合い、犬山城でデートした。

 何故、初デートが犬山城になったかというと、和風好きのみなみのリクエストに寅之助が答えてくれたからだった。和風のすっきりした顔立ちの寅之助は、国宝の犬山城も似合ってしまい、みなみは、

 

”キャー!!!

 やっぱり寅之助さんって、私の萌えポイント、どストライクなお方だわ~!”


 と、心の叫びを上げて喜んでいた。

 みなみは寅之助の事を深く知れば知るほど、その誠実で謙遜な人柄にどうしようもなく強く惹かれていくのを感じた。

 それと同時に寅之助の事を知れば知るほど、彼が世間一般で言う ”結婚超優良物件” である事にみなみは気が付いてきた。仕事はコンピューター関係で、偶然に知ってしまったのだが、なんと年収は1000万超! しかし金遣いが荒いわけでも無く、質素な暮らしぶり。それにギャンブルやタバコ、お酒は一切しないし、学歴もびっくりするくらいの高学歴だ。

 

”なんでこんなすごい人が、私と付き合ってくれているんだろう?”

 

 そんな疑問がみなみの心にわいてきて、その疑問は日を増すごとにみなみの心の中で膨らんでいった。

        

       ♡

       ♡

       ♡


 二人の交際が3ヶ月を迎える頃……


「寅之助さん、どうして私と付き合ってくれているんですか?」

 

 と、みなみはとうとう寅之助に質問してしまった。



「えっ? 何でそんな事聞くの?」


 と、寅之助が驚いて聞き返した。



「ごめんなさい……寅之助さんみたいに素敵な人が私みたいな凡人と付き合ってくれているのが不思議に思えてしまって……」


 と、みなみがうつむいて答えた。



「そんな……みなみは全然凡人じゃないよ! 

 僕にとっては、特別に素敵な女性だよ!」


 と、寅之助が少し語尾を荒げて言った。

 みなみはそれを聞いて、頬を赤らめながらますますうつむいて言った。


「ありがとうございます……でも、どうしてかな?って思ってしまうんです……」



 そんなみなみの様子を見て、寅之助は心の中でこう考えた。


”僕の言葉が足りなくて、みなみを不安にさせてたのかもしれないな……

 だから「どうしてつきあってるの?」なんて聞きたくなったのかもしれない……

 恥ずかしいけど、僕の本音をきちんと言葉にして伝えよう!”


 寅之助は意を決して、みなみに対する思いを語り始めた。


「わかったよ。それじゃあ、僕がどうしてみなみと付き合ってるかをこれから詳しく話すから、よく聴いて欲しい。

 僕がみなみと付き合っているのは、みなみのことがすごく、すごく、すごく大好きだから付き合ってるんだよ! 他に理由はないよ! 恥ずかしくて言ってなかったけど、僕はみなみを初めて見た時に ”僕の天使!” と思ったんだ。

 だけど、もともと僕は女性に対しては消極的なタイプだから、どうしたらいいかわからなくて悩んだ結果、僕にしては珍しくなけなしの勇気を振り絞って、失恋覚悟で退院の日に待ち伏せして告白したんだ。だから、みなみがOKしてくれて僕と付き合ってくれている事はまさに ”奇跡” だと感じてるよ……

 それに、みなみの事を知れば知るほど ”どうしてこんなにかわいくて、明るくて、優しくて素直で料理上手な素敵な女性が僕なんかと付き合ってくれているんだろう?” って、僕の方こそ不思議に思ってるんだ……」

 

 寅之助が照れながら語った、正直で愛のある返答にみなみは頭のてっぺんからつま先まで全身が熱くなって、へろへろになりながら喜びをかみ締めた。

  

”いや~、聞いてみるものですねぇ~。

 彼の目には、私がそんな風に映っていたなんて~! へへへ~、そんな~! 

 まさか寅之助さんも私と同じように『自分にはもったいない人だ!』なんて、感じてくれていたなんてぇ~!

 なんか私、今日死んでも悔いがない気がする~! へへへ~”

 

 幸福感で胸がいっぱいになりながら自宅に帰ったみなみは、夜寝る前にベットの中で不思議な事に気付いた。

 

”……私はいつもなら異性に対して比較的積極的だったのに、寅之助さんに対しては不思議なほど消極的になってしまった……

 反対に寅之助さんはいつもは異性に対して消極的だったのに、私に対しては勇気を出して積極的になってくれたみたい。

 寅之助さんにとっても、私にとっても、お互いに明らかに今までの恋愛とは違っていたなんて……なんか不思議……

 この出会いは、何か不思議な神様のめぐり合わせなのかもしれない……

 神様、本当にありがとうございます!

 私は寅之助さんと出会えて、本当に幸せです!”

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