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爆裂のリベンジと地平の悪魔

飛び込んだ炎の中、リリーファに手をかけようとしていたドグマと坂巻天真が対峙する。

「あぁー! 腹が立つ! どいつもこいつも歯向かいやがって!」

いきなり激怒するドグマ。

その激高は決して天真だけに向けられたものではない。

(リリーファが一体何をしたらこんなに怒り狂うんだよ…)

内心でリリーファに毒づきながらも、脚を負傷している彼女をかばう態勢をとる。

三歩ほどの距離を慎重に保つ。

均衡に見えるそれは、決して安心できないそれだ。

前回、完全敗北を喫している俺は、やはり後手に回ってしまう。実力差も明らかに下回っている。

そして先手を打ったのは、やはりドグマだった。

ほんの数センチのナイフで大胆に斬り込んでくる。

(よし、これなら!)

攻撃で隙だらけの右の脇腹にカウンターで斬り込む。腰を落とし、姿勢を低くして飛び込むと、俺の腹部に重い衝撃が走る。

俺のカウンターをも見越したドグマのカウンター、右膝蹴りが思いきりみぞおちを捉える。

「詰めが甘いんだよ!」

飛び込みの勢いも加わって、膝蹴りは深く体にえぐり込まれる。

さらに膝を捻って蹴り出され、よろめきながら後退する。

ドグマは攻撃の手を休めることなく、低くなった俺の後頭部に右肘を叩き落す。

跳びそうになった意識を根性で引き止め、倒れこみそうに屈んだ体を力いっぱいそり上げる。

これ以上の追撃を許すまいと、右腕の腕力をフルに使い、ブートバスターを振る。しかし決死の反撃はドグマの頭上の空を切っていた。

違う。今度はドグマが伏せるように低い姿勢を取っていたのだ。

なめらかの動きが続き、俺の脚が美しく払われる。

両足が宙に舞い、完全にノーガード。そんな俺のがら空きの腹部にドグマのかかとが落ちる。

一度跳んで捻りを加えたかかと落としは、超人的であり、これだけで必殺の一撃だ。仰向けに落とされた俺の体を踏みつけ、太陽を背景にドグマがそびえたつ。

「こんなもんかよ、やっぱり素人じゃねーか」

さっきまでの激怒はどこへやら…。ドグマの戦い方はいたって冷静で戦いなれている。

「あのとき生き延びれたのは、やはり偶然か」

『あのとき』というのは、ドグマが橋を斬り落としたときのことだろう。ドグマは伊織の持つ"グリムケイン"に気が付いていないのだろうか。

「てめぇこそ、以外に賢しい戦い方するじゃねぇか。そんなに賢い奴だったんだな」

圧倒的不利ではあるがせめてもの対抗心で毒づく。

「そんなに俺の博学が疑わしいなら見せてやるよ。俺はなんでも知ってる…」

そういってドグマはナイフを左手に持ち替えた。その刃先を真っすぐ海に向け、縦に斬り上げる。

ナイフの刃の直線状にあるコンクリートと海が割れた。

「俺の言いたいことが分かったよな?」

ドグマは俺を見下しながら、悪い笑顔を浮かべる。

その意図を察するのに時間はかからなかった。

「てめぇ! それ以上やったらぶっ殺すぞ、おらぁ!」

必死に抗い、ドグマの脚をどかそうとしがみつくが、どうにも動かない。体に杭を打ち込まれているかのように動かない。

「クソッ! クソォ!」

ビクともしないドグマは余裕の表情のまま、ナイフの刃先を移動させる。

その刃先は遠くなった船の影を捉えている。

「よく見ておけよ…」

振り上げられたナイフは日光を浴びて輝いている。

「やめろぉぉ!」

高く振り上げられたナイフが振り下ろされる刹那、ドグマの手元が弾かれる。

割られる直線の軌道はずれ、船の横の水平を斬った。

「やってくれるじゃねーかリリーファ嬢…」

狙いを空ぶったドグマは眼を血走らせてリリーファを睨む。

リリーファは距離を取り、スナイパーライフルのスコープを覗き込んでいた。

ドグマは素早い動きでナイフを振り、リリーファを攻撃する。

しかし重心がぶれたドグマを倒すことは難しくなかった。

「っ!?」

ドグマの攻撃の寸前で脚を払い起き上がる。脚を払われたドグマは転ぶが、素早く受け身を取って臨戦態勢に戻る。

「やってくれたな雑魚どもが…。このツケは高いぞ…」

怒りが頂点まで達したドグマだったが激情はしなかった。その代わりに眼つきが一変し、視線だけで何か斬れそうなほど鋭い。

「ふぅ…。元から安く勝てるとは思っちゃいねぇから安心しろよ」

俺も出来るだけの威圧感を意識して答える。

二人の距離は2、3m。互いに近づきもせず離れもせずに間合いを保つ。

数十秒の沈黙は、何時間にも感じられた。

昔、漫画で読んだことがある。「真の達人は決して先手を打たない」と。そのときはイマイチ理解出来なかった心だったが、今なら頷ける。

そして睨み合いは突然終わる、というのも定石通りだった。

互いに横に走り出し、港にある障害物を利用した攻防が始まる。

俺はコンテナなどの障害物の上を走り、転がり、アクションスターのような動きでドグマと並走する。その間、ブートバスターによる“打突”を繰り返し、攻撃を繰り出すも、全てをヒョイヒョイと避けられる。

一方のドグマは、目の前の障害物全てを破壊し、俺の攻撃をいなしながらも、確実に隙を突いてくる。

ドグマの的確な攻撃に体勢を何度か崩しながらも、何とかくらいつく俺は、咄嗟にさっき眼にしたリリーファを思い出した。

さっき、ドグマの手元を狙撃したリリーファは脚を負傷していた。この戦いにはもう参加出来ないだろうが、戦う意思は誰よりもあるはずだ。

そんなリリーファの気持ちを思い、俺は唇を噛み締める。

再度決意をした俺はコンテナから飛び降り、ドグマとコンテナを挟んで対峙する。が、ゆっくりと対峙出来るような相手ではないことは百も承知だ。すぐにコンテナの側を離れて移動する。

後ろでは既にコンテナを破壊し、俺を追いかけてくるドグマがいた。

ドグマがナイフを横に薙ぎ払うモーションに入ったのを確認して、俺は屋根のある市場に入った。

ドグマは構わずにナイフを振り、刃先のもの全てが斬り崩された。

柱すらも斬り崩され、屋根が落ちる。

落ちた屋根は重力に従いドグマの上に落ちる。

俺は柱がしっかり残っている屋根の下で、その様子を観察していた。

(恐らくドグマの武器は刃先真っ直ぐに見えない斬撃を飛ばしている。逆に言えば、ナイフの動きを誘導できればそれを逆手に取ることだって出来る!)

俺は確かな実感を感じ、ブートバスターを正面で強く構えた。

その刹那、崩れた屋根の瓦礫は斬り裂かれ、ブートバスターに重い衝撃が走った。

「前よりは少しは相手になるじゃねーか」

瓦礫の下からドグマが姿を現した。

「なぁに、お前と戦っている内に“戦い方”ってもんが分かってきたんだよ。お前のお陰だ」

「カッカッカ。イレギュラーが随分生意気言うじゃねーか。その様子だと俺のオリゾンテクランニオの能力について気付いてるんだろ?」

「あぁ、もう遅れはとらねぇよ」

そう言って、再びブートバスターを正面に構える。

ドグマは大きくナイフを振りかぶる。そして勢いよく振りおろされたナイフの起動に合わせてブートバスターで防御の構えをとる。

飛んだ斬撃を受けきったと確信したとき、斬撃がさらに重くのしかかる。

「ぐぅっ…!!」

のしかかった斬撃が俺の右肩を斬り込んだ。斬られた箇所から血が吹き出す。

右肩を抑え、すぐに立て直す。幸いにも傷は浅く、出血も少量だった。

追い討ちを仕掛けるドグマと一定の距離を保ち、右腕でブートバスターを握り直す。微かに痛みはあるがアドレナリンが効いているようだ。行ける。

「まだまだ!」

ジグザグに飛び込んで、無理矢理にドグマとの距離を詰める。ドグマは瓦礫があるため後退出来ず、接近戦となった。

始めのようなカウンターを警戒し、競り合う。

(分かった。あいつの武器、“オリゾン何とか”は斬撃を飛ばすんじゃない。見えない“何か”で刃を延長しているんだ。だからドグマの動きがそのまま攻撃にリンクする)

異様なほど働く俺の脳はドグマの武器の能力を捉えた。

そして今は、見えない“何か”までぼんやりと認識出来るようになっていた。

「調子に乗るなぁ!」

ドグマが不意に後ろに飛び退くと、ナイフを上に振った。

すると頭上の残りの屋根が斬り落とされた。

落下してくる瓦礫を避けるには遅い。だったら壊すしかない。だが、その判断すらも少し遅かった。瓦礫が砂煙を巻き上げてのしかかる。

「……、終わったか」

ドグマは勝利を確信し、ナイフを懐に仕舞う。一息を吐くと負傷したリリーファのとどめを、とまた歩を進める。

「……!」

だがドグマは気付いた。イレギュラーたるあの男は、まだ終わらない。

起動ブート爆裂バーン”!!」

高らかに宣言された技は瓦礫を破壊し、煌々とした焔が駆け抜ける。

その焔はドグマを狙う。咄嗟の攻撃にドグマは虚を突かれ、大きく飛び退いた。

空振った焔は大きな音と共に市場を破壊する。当たっていればただでは済まなかった攻撃だ。

「おぉりゃあ!」

瓦礫を突き破った俺はもう一度ブートバスターを握り締める。

俺の息は上がり、鼓動が激しく鳴っている。相手のドグマも肩で呼吸し、“オリゾン何とか”を構える。

「さぁ、ファイナルラウンドと行こうぜ」

この状況を笑ってみせてこその俺だ。

この勝負も佳境だと感じる。

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