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ブートバスター

 港川湖市のショッピングモール。銀髪美少女のリリーファ・K・ガウディは店員のいない洋服店を物色している。最初はメンズのコーナーを探っていたから俺がレディースのコーナーまで連れて行ったりと、ところどころ抜けているところがある。(といっても一m弱のライフルは肌身離さず持っているが)

 リリーファが服選びをしている間に一夜で起こった出来事を整理しよう。

 昨日、五月五日正午に空から降ってきた機械兵団が港川湖市を蹂躙しておよそ半日。政府は自衛隊の出撃を容認した。日付が変わる頃、自衛隊による避難住民の回収作戦成功後、陸路の封鎖と空爆が行われた。そして港川湖市は完全に孤立した。…が俺たちは依然取り残されたままだ。

 今後の政府の方針としては、攻め込んできた機械兵団を敵と見なし殲滅作戦を決行するという。

 俺の身の回りで分かったことといえば、リリーファの名前と年齢、そしてこの銀板の正体だ。

 この銀板の名前はリリーファ曰く”ブートバスター”普通の地球人ならば到底つ使えようもない陸戦兵器だが俺には使えるらしい。”光因子”がどうやらと言っていたが、細部の説明はあっさりと省かれた。

 一人街に取り残されたこの状況に加え、自分が特別に使える兵器…。どこのバトル漫画かとツッコみたくなるがそんなことは後だ。

 どうしたものかと頭を捻っていると、着替えを終えたリリーファに声をかけられた。

「テンシン、こんな感じでいい?」

 声に答えるように振り向くと同時に息を飲んだ。

 そこに立っていたリリーファはさっきまでのダイバースーツと打って変わり、白を基調にしたレースの服にホットパンツとたいへんおしゃれな格好になっている。…一つ指摘するなら。

「そのダイバースーツはどうにかならんのか?」

「え?」

 驚いたリリーファは自分の恰好を見直す。

 そう。半袖の洋服の袖やホットパンツから伸びる長い脚はダイバースーツ着用中だ。折角のおしゃれも打ち消されて、もはやマイナスアクセントとなっている。

「どうすればいいの? 脱げばいい?」

 リリーファが不思議そうに俺に問うてくる。

「そうだな。それができるならそうしてもらえると俺的には嬉しいな」

「分かったわ。ちょっと待ってて」

 そう言ってリリーファはレースの服を脱ぎだした。

「ってそちじゃねえ!」

「え?」

 再びリリーファは不思議そうな顔をする。

「下のダイバースーツが洋服とアンマッチだ、って意味だよ。びっくりするわ!」

「テンシンはスーツを脱げと?」

「そういうことだ。ファッション的に」

 リリーファは二,三秒黙ってから口を開く。

「スーツの下は裸よ?」

「全部脱げとは言ってねえだろ」

「見たくないの?」

 上目づかいで問うてくるリリーファのことばに少々焦る。恐らく顔が赤くなっている。

「うるせぇ。今はそういう問題じゃねえ」

 リリーファは再び黙りこくってしまう。先ほどより長い間黙っていたリリーファは不意に微笑む。

「テンシンって面白いね」

「えっ?」

 リリーファは俺の感想をさらっと述べて店の奥に消える。

「あいつが分からん…」

 うーむ。頭を捻って今までのリリーファの行動、言動を思い出し様々な人間性を浮かべるもどれもしっくりこない。

 そんなことを考えているとリリーファが戻ってきた。

 その恰好はさっきと変わらないが細部に工夫がされている。

 俺の要望通りストッキングを穿いて脚のダイバースーツを隠し、薄めのジャケットを羽織り袖から伸びるスーツを隠した。

「どう?」

 見とれていたのか、俺の顔のすぐ近くにリリーファの顔が迫っていた。

「お、おう。いいぞ似合っている!」

「そうっ。よかった」

 それだけ確認するとリリーファは軽い足取りで店の外へ出る。そして手に取るのは――、物騒なスナイパーライフルだ。

 絹のようになびく銀髪と対照的に黒光りするライフルは遠目から見ていると中々映えている。それでもやはりライフルを裸で持ち歩くのはどうかと思うぞ。

「なあリリーファよ…」

「ん?」


 ショッピングモールの玄関口で外の様子を確認した俺たちは慎重に街を散策する。俺がキーボードケースでリリーファがギターケースを背負いながら出てくる様子は摩訶不思議だろう。

「それにしてもこんな案よく思いついたね」

「こんな話を漫画で読んだことがあるんだ。でも実際にやってみるとどこのバンドマンなんだか…」

「誰も見ていないしいいじゃない」

「…だな」

 確かに周りは破壊された港川湖市だ。今朝方あった爆撃による砂煙は収まったといえど空気は悪いし、人影もない。

「じゃあ作戦通りに行くか」

 俺は自分の土地勘を頼りに船着き場を目指す。船を使って港川湖を脱出する作戦だ。歩いて目指しても船着き場には正午までには着くだろう。俺は船の操縦はできないが、その時はその時だ。なるようになる。

 瓦礫や建物の影に隠れながら少しずつ移動しているとき、先頭を行っていたリリーファが立ち止まって物陰にしゃがみ込んだ。俺もそれに合わせて身を潜める。

「どうかしたか?」

 リリーファは捉えた何かから視線を外さずに頷いた。

 俺もリリーファと同じ向きに視線を向ける。そこには無造作に崩れた瓦礫と、その隙間から見える二足歩行のあの機械だ。

 行く道に敵がいるということは想定済みだ。そのために迂回ルートも構築済み。

「リリーファ。早速だが道を変えるぞ。敵との遭遇のリスクは増えるが遠回りして戦闘は避けよう」

 俺は頭の中で港川湖市の地図を広げ道を確認。そしてリリーファの手を掴むが…。

「おいリリーファ。行くぞ!」

 しかしリリーファは全く動こうとしない。

「おい、まさか倒そうなんて考えてないよな」

 嫌な予感を拭いきれずに訊いてしまった。そして俺は――、

「ふふっ」

 ”トラブルメーカー”というものを知ってしまった。ニィと微笑したリリーファは早速狙撃体制だ。

「おい待てよ。相手が一機とは限らないだろ? よく考えてみろよ。撃った瞬間他の奴らが襲って来たり仲間を呼ばれたりした時はどうするんだよ!」

「その時はその時に考えればいいじゃない」

 駄目だこれ。俺は諦めた。第一「どうにかする」って言っても俺は果たして戦力になるのか? ”ブートバスター”とかいう謎武器の使い方もよく知らないのに何かできようものか、いやできない。

 俺の不安などつゆ知らず、リリーファは容赦なく銃弾をぶっ放す。

 瓦礫の少しの隙間。通っただけで撃たれた操縦者には少し同情するが、リリーファの狙撃はかなり正確である。撃たれた機械は脚から崩れ落ち、第二弾で確実に動きを停止した。

「やったわね」

 誇らしげに鼻を鳴らすリリーファだが、その顔に緩みはない。俺の中のトラブルセンサーがかなりの大音量で”WARNING‼”と鳴り響いている。その警報音か、キィィィンという機械的な起動音が聞こえる。

「…って⁉」

 二足歩行が三機、瓦礫の向こうにいた。

 それぞれが右腕のガトリングをこちらに向ける。

「おいリリーファ! どうにか…ん?」

 頼りのリリーファはそそくさと俺の後ろに隠れる。

「どうにかなるわ」

 テメェ分かっててやりやがったな。

 照準の定まったガトリングが回る。

 あぁ、俺の人生悔いありすぎだろ。瞼を閉じれば見える走馬灯。最後はまさかの美少女の裏切りで蜂の巣とか…。とんでもねえ星の下に生まれちまった…。

 そんな時、俺の手に”ブートバスター”が握られる。リリーファがケースから出して握らせたのか。

「テンシン、私の当ては君だよ」

「へ?」

 ふざけているのかと思った。だがリリーファの眼は本気だ。

「使い方は君次第。ブートバスターはテンシンの願いを補助する」

 …補助する。”叶える”じゃなくて”助ける”。要は残りの部分は自力で埋めろってことか。本気の眼差しを受けてその気になっていたが、俺にはこの状況をどうにかできる”素質”がない。一体どうしろと――。

「願うの。素質なら十分あるよ。願わなきゃ、頑張れないでしょ」

 声に出ていたのか、リリーファはさらに励ます。

「願う…」

 改めて見つめなおすブートバスターには昨日と同じ光が宿っていた。

「…そうか、なんとなく、大体大まかに理解した。俺は願ったぞ、残りはお前が何となくしろ、ブートバスター‼‼」

 ブートバスターの光が最高潮に達した時、本の一瞬だっただ、ガトリング弾の動きが止まって見えた。あとは見えた弾丸を弾くだけだ。

起動ブート切断スライス”‼」

 体が自分の物じゃないように軽かった。その時の感覚はこれと、こみ上げてくるブートバスターを扱う感覚だけだ。

 本の少しのモーションであっと驚くほど弾丸は切り落とされる。そしてリリーファがすかさずライフルで撃つ。

 三機の内二機が機能を停止させ、残った一機は俺たちに背を向ける。

「逃すか! 起動ブート打突スタンプ”‼」

 四mと離れた距離だったが打突は届き機械の足元をすくう。一気に距離を詰めて切断。残りの一機も機能を停止させた。

 ふぅっと一息。振り向く俺にリリーファは賞賛の言葉をかけてくれた。

 俺を褒めちぎるリリーファは笑っていた。白い肌に少ない太陽光を反射させる美しい銀髪、きゃしゃな体でありがらも勇敢に戦う少女にずっと感じていた疑問をぶつける。

「お前は誰だ」

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