How to Live ?
円盤から忍びながら出た俺たち二人は、リリーファの先導でコロニーの中を行く。
他の宇宙船が安置されているスペースは、俺たちが着陸したコロニーのすぐ側にあるらしい。
「通路一つ渡れば行けるよ」
その通路の扉を開けたリリーファは、中の様子を見てから中へ入る。俺もそれに続いて、最後に扉を閉じる。
「そういや操縦とか出来るのか?」
人気のない通路を走りながらリリーファに聞いてみた。
「操縦っていうか…。ほら、機団が襲来したときもそうだったけど、ある程度まで行ったら落ちるだけたし」
「そういやそうだな」
なるほど、と手を打つ。
確かに襲来のときの機体は降り注いだという言葉が適している。
そんなことを考えながら、通路の窓から外が見れた。
(マジで月だな、ここ…)
自分が月にいるなんてまだ実感が沸かない。まだ夢心地のままだ。
実際ダイバースーツ風の宇宙服とヘルメットのお陰で体調は悪くない。ただ言うなれば呼吸がしんどいくらいか。
「そろそろ着くよ!」
「言われんでも分かってる!」
直線の通路の先の扉が近付く。
そして扉が開いた。
「かかれー!」
飛び出してきたのは月の兵士たちだった。狭い通路にざっと4人がブートバスターを構えている。
「ブートバスター!? あいつらブートバスター持ってるぞ!」
同じ武器を使う相手に少し気が騒ぐ。
「ブートバスターは大量生産兵器だからね。一般的な兵士の武器でもあるの」
淡々と説明を加えるリリーファは射撃の体制に入った。
軽快な音が通路に響き、敵のブートバスターが傾いた。
「防がれた!!」
「今度は俺がやる。お前はサポートをしろ!」
リリーファの前に出てブートバスターを構える。
「行くぜ、“切断”!」
大振りで三振り、体重を乗せて打ち込んだ。
「防御する。合わせろ」
「“盾”」
一人が合図を出してもう一人が従う。計二人でブートバスターを盾にする。瞬間、俺の攻撃を受けるがうろたえることはなかった。
「仕掛ける」
「行くぞ!」
残りの二人が入れ替わりで前に出た。
「「“矛”!」」
揃った攻撃を、リリーファの狙撃が相殺した。
「ナイスショット!! もう一丁行くぞ!」
ガッと大股で踏み込んで大振りをする。
「起動“爆裂”!!」
攻撃に合わせて再び二人が入れ替わる。前衛の二人が盾を構えた。
「おぉぉりゃぁぁ!!」
敵の盾と俺のブートバスターがぶつかる。
触れた瞬間に二人が吹き飛んだ。熱風が全身にぶつかるが宇宙服のお陰かさほど熱くない。
「ちょっ! 通路が壊れるでしょ!」
リリーファの焦った声が聞こえて冷静になる。
「ヤベッ!」
爆煙の向こうで壁が壊れていないことを願う。
そんな思案とは裏腹に残りの二人が突っかかってきた。
「テンシン伏せて、私が撃──」
「てやぁぁ!」
リリーファの指示とほぼ同時にブートバスターを払っていた。一凪ぎで二人を仕留めた。
「…っと、悪い倒した」
「う…、うん。倒したならいいけど」
リリーファが呆気に取られている。
「それよりどうする。俺たちの動きが読まれてるぞ」
「それでも、退路もないっぽいよ」
リリーファに言われて来た道を見返すと、更なる数の兵士がやってきていた。
「前だな」
「前ね」
満場(二人)一致で扉を潜った瞬間──。
「捉えた!」
「うぅ!!」
俺の真左から衝撃を受けた。吹き飛ばされてコロニーの壁に叩き付けられる。
「いてて……。何だよ、つか最近こんなの多くねぇか俺?」
体を起こすと同時にリリーファが寄ってきた。
「テンシン大丈夫?」
「まぁ、タフネスには自信がついてきたところだ」
「ふぅ…。冗談言える余裕あるなら大丈夫だね」
リリーファに支えられながら立ち上がる。
「外したか! ならば次で極める!」
俺を攻撃した本人が目の前で奮起した。それに加えて数人の兵士がコロニーに入ってくる。
コロニー内を見渡すと港川湖市を襲った機体が大量にあった。
「あれに乗って出るのか」
小声でリリーファに問いかけると首肯で答えた。
「お前たち、全員で片方をやりなさい。業で負けるなら数で勝つのです」
一人出で立ちの違うそいつは兵士に指示を出す。どうやら一人で俺たちのどちらかを相手取るつもりらしい。手に持った長槍を構える。
「リリーファ、あいつ誰だか分かるか?」
「あの武器…、ラルフ?」
どうやら知り合いのようだ。リリーファの声にラルフと呼ばれた兵士は反応した。
「その声…、まさこリリーファ!? 何でここに…。作戦が失敗したの!?」
ヘルメットをしていて気付かれなかったが、ラルフもリリーファを認識する。
「ここは私が気を引くから隙を見て飛び込んで」
リリーファが小声で語りかけてきた。モーションで了解を伝える。
「……、そうよ。作戦は失敗したの」
リリーファとラルフは共にヘルメットを外した。リリーファの顔を見た兵士たちがどよめく。
ラルフもヘルメットから長い赤髪を振りながら降ろす。整った顔立ちだか、綺麗な顔立ちのリリーファとは違い、凛々しさを感じる。
「確かあの船にはアウゼル様が乗っていらしたはず…。アウゼル様がいながら作戦失敗などあり得るのか?」
「……。そうね。シュナウザ様が来られるなんて私は聞いてなかったし、この目で見たわけじゃないけどそのようよ」
リリーファとラルフの武器の先は下へ向き、今のところぶつかる雰囲気ではない。
「そう、作戦失敗。だから今すぐ──」
リリーファが説得するように喋り出した途端、ラルフが長槍を片手で突き出した。
明らかに射程外の攻撃だが、意味がない訳がない。俺がガードに入る。
防いだブートバスターには何が当たる衝撃が伝わる。
「こういうのにも慣れてきたぞ。トリックはどうでもいい。…相手は俺がしてやる」
「何者だ。軍の者ではないな」
槍を両手で構えたラルフと兵士と睨み合う。2対5の戦いだ。
「リリーファ、昔から真面目だったあんたを疑いたくはないけどさ…。アウゼル様が負けるなんてあり得ないから、絶対」
どうやらラルフはアウゼル、つまりはシュナウザ・アウゼルに絶対的な信頼をおいているようだ。
「お前たちはヘルメット野郎を相手しな。私がリリーファを先に大人しくさせるから」
指示を受けた兵士は敬礼で答える。
「行くよリリーファ!」
そしてまた長槍を突き出すラルフ。
リリーファの前に出てブートバスターを盾する。が、俺の右を疾風が通り抜ける。
「──っ!!」
危機感を感じて、風が吹き抜けると同時に反応出来た俺は脚で蹴って弾いていた。
「くそっ! 風の速さに追い付くのか!?」
ラルフが悔しそうな表情をした。
「テンシン気を付けて、ラルフの武器“ライナー”はただの槍じゃない」
「あぁ、ちょっと癖のある槍だな。曲がるなんて鞭だろ」
「そう。私のライナーは槍であり鞭。“柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ”武器なの。あんたの言ったことはあながち間違いではないって訳ね」
槍を元の長さ(といっても伸縮自在の元の長さと表現するというのは正確ではない)に戻す。
「あんた地球から来たんでしょ。物好きがいたもんね、わざわざ月まで来るなんて」
2mだろうか、おそらく1.8mほどの長槍をくるくると回して喋りかけてくる。
「来たくて来たんじゃねぇよ。それに同情してくるるなら船くれよ、帰るから」
「それは出来ないね。来たからには腹括りなよ、男だろ」
「はぁ…。月まで来ても男だの女だの…。面倒はどこも同じってか──!」
俺の油断を突いたのか、ライナーが伸びる。
今度は曲がらずに真っ直ぐ俺を狙う。ブートバスターで防がれた槍はラルフへ戻らず、リリーファへ曲がる。
「させるか!」
ライフルを扱うリリーファは近距離戦となると不利だ。その不利を突くラルフは俺が対処しなければならない。
伸びる槍を掴んで止めようとしたが、掴んだ槍の先がまだ伸びる。
しかし槍は速度を落とし、ライフルの銃口で弾く。
「終わんないよ!」
槍の切っ先をリリーファの側に突き立てたラルフは、槍の伸縮を使って接近する。そしてまず狙うのは──。
「地球人!」
槍を掴んでいた俺にドロップキック。勢いに押されて再び壁に激突する。
そのまま真っ直ぐリリーファに向かうラルフだが、そうはさせない。
「おらぁ!」
「きゃっ!」
力任せに槍を引き寄せる。案外可愛い声を上げたラルフが俺にぶつかる。
「まだまだこっから!」
ラルフを腕で抱き寄せ壁を爆破する。
コロニーにかっぽり開いた穴から空気が抜ける。吸い寄せられた二人は月面へ。残りの兵士とリリーファは二足機体に捕まって堪えた。
コロニーに残ったリリーファは兵士に追い付かれる前に別の扉から脱出船を探しに行く。少し遅れた兵士たちは、迷った挙げ句にリリーファを追った。
月面に投げ出された二人は武器を月面に突き刺して停止した。
「あんたやってくれたね。…でも外に出ると不利なんじゃない?」とでも言いたそうな顔をしているラルフ。宇宙では振動する空気がないから音は伝わらない。しかしラルフの表情から言いたいことは察することが出来た。
だが心配ご無用だ。酸素補給のヘルメットを着けていないラルフには時間制限がある。その制限時間逃げ切るか倒すのだ。
無言、沈黙が空間を覆う。
重力がないに等しい分踏ん張ることが出来ないが、それはお互い様だ。
「勝てる!」
初めて対人戦で自惚れたのが失敗だったのだ──。
無我夢中で通路を走りきったリリーファは扉の直前で止まり銃弾を放った。
放たれた銃弾はその空間をうようよ飛び回る。
その着弾を見届けずに扉を潜り閉めるリリーファ。同時に着弾した弾は壁を、通路を破壊した。
「はぁはぁはぁ……。撒いたかしら……」
さすがに疲れたリリーファは息を整えるために瞳を閉じた。
そして瞳を開けると、そこに広がっていたのは──。
「リリーファ、来てしまったのか。ここに……」
コロニーの中でも一番小さなコロニー。昔から物置小屋だと教えられたそこに、部屋一杯の機器が張り巡らされている。
「何、この機械……」
王族のリリーファでさえ初めて見る機器の数々。言葉を失う。
「このコロニーは月の心臓。我々月王のみ立ち入る“命の部屋”だ」
複雑な機器の頂上。機器が繋がれている本人はリリーファに語る。その後ろにはガラスのような透明の壁。更に向こうには月面だ。
「……お父様、なの──?」
「お前だけだ。最早伝えることが出来るのは。聞きたまえ、王族の時間だ」
そして語られるのは月の真実だった。




