リリーファ・Kaguya・ガウディ
シュナウザの一言で場の時間が止まったように静寂が訪れる。
俺は地面に伏せたまま固まってしまった。
「お父上である月王を裏切るなど、心優しい貴方が出来るはずが有りません」
「父上は関係ないわ! 私はリリーファよ!」
シュナウザに噛み付くリリーファは流血など気にも止めず、目に涙を浮かべながらただ叫んでいた。
「おい、どういうことだよ…。リリーファが王族だって?」
3人がそれぞれチグハグな言葉を交わす。
「成る程。お嬢の秘密主義も流石のもので御座いますね。ここまで共に戦った仲間にまで黙って隠すとは」
シュナウザはリリーファを煽るように言葉を続ける。俺は何も口にすることが出来ない。リリーファは傷を押さえて悔しそうな表情をする。
「お教えしましょう。お嬢の“リリーファ・カグヤ・ガウディ”のことを!」
「カグヤ…だと!?」
口から漏れでた驚嘆の声と、驚愕の言葉。
カグヤとはすなわちかぐや姫のことだろう。かぐや姫が登場する竹取物語では、結末でかぐや姫は月に帰る。そのかぐや姫が実在していたとは…。
「地球で知られる一般的な竹取物語ではかぐや姫が月へ帰ったところで物語が終わります。実際はかぐや姫が地球へ送られたのは、かぐや姫が犯した罪に対する罰。それを元にして月では悪事を戒めるものなのです」
淡々と語るシュナウザの言葉に聞き入っていた。
リリーファは何も言わず、唇を噛み締めるだけだ。
「その後、王族であったかぐや姫は婚約をし、その血が正統な王として続いたのです。その末裔が──」
「リリーファ…なのか」
シュナウザは首肯で答えた。
「お嬢は正統な王族なのです。我々一端の兵士などが殺せる方では有りません。それを知って裏切られたのか…、胸が痛みますね」
やれやれと愚痴を溢したシュナウザ。
そしてもう一度問いかける。
「もうお遊びは終わりにして、月王の命を全うしましょう。ワタシとマスカル殿が進言し、今回の裏切りはなかったことにしますから」
そうやって手を差し出す。どうやらドグマが死んだことには気付いていないようだ。
リリーファは目から雫を溢す。拭うこともしようとせず、呆然と座り込んでいる。
「──ざけんなよ」
「? 何か仰いましたか?」
「ふざけんなよ!」
うつ伏せに倒れていた体を気合いで起こす。覚束ない足取りで立ち上がる。
「おや、とうとうお仲間もお嬢に癇癪を起こしたようですね」
シュナウザが嘲笑うような顔をした。
「……テンシン」
リリーファはボロボロと涙を流しながら俺を見つめる。
「あぁ、全くふざけんなよ。何小さなことでメソメソ泣いてんだよ」
「…え?」
「言ったろ、『お前は俺の行く道にたまたま偶然、奇跡的にいただけだ』って。それに名前が何だってんだ。俺だって親から受け継いだ“坂巻”だ」
「…何を、仰っているのですか? まさか、それだけの根拠でお嬢を信じ続けるとでも?」
シュナウザは困惑している。
「んだよ。文句あんのか」
半ばやけくそでシュナウザに噛み付く。
「本当に素人ですね! いいでしょう。どこの戦場に慈悲はありませんでしたからね!」
シュナウザは年甲斐もない素早い動きで光弾を3発打ち出した。
「おりゃあぁぁ!」
ブートバスターで光弾を弾こうとするも、光速を捉えきれない。
「ま、まだだ!」
それでも必死な立ち上がり、立ち向かう。
その度に光弾に返り討ちにされる。
「止めてテンシン! 私たちじゃ勝てない! テンシンだけでも逃げて!」
リリーファが俺にしがみついて止めに入る。
「私が軍団に戻ればテンシンを街の外まで送るよ。そして…、私のことは忘れて…」
嗚咽まじりに言葉を紡ぐリリーファの手を取り、俺はみたび立ち上がる。
「お前は俺の何を見てきただよ。ドグマのときだって諦めなかった男を止められるとでも思ってんのか?」
ここでシュナウザは「ドグマ」いう単語に引っかかる。ここでドグマの敗北を察したようだ。
「テンシン止めて! もうテンシンが死んじゃう!」
何度もしがみついて止めに入るリリーファ。俺はその度にリリーファの手をほどく。
「お嬢、失礼ながら無粋ですよ。その男は戦って死ぬことを望んでいるようです。最期の望みくらい叶えて差し上げて上げましょう」
そして光弾が放たれる。
「“爆裂”!!」
爆炎の壁も光速には追い付けず、3発全てが諸に体を打ち抜く。
「終わりです!」
シュナウザが杖で光弾を操作して、打ち抜いた光弾はUターン。何度も曲がって不規則に俺を打つ。
「……」
リリーファはただ涙を流し、俺は立ったまま体の動きを失う。手からブートバスターが床に落ちる。カランと金属音がホールに木霊する。
「素晴らしい素材でしたが、若すぎましたね」
シュナウザは光弾を消して、オフモードになる。
戦意を失ったリリーファは、立てたライフルにしがみついてワンワンと泣くだけだ。
「お嬢、行きましょう。未練は無くなっ──」
「──ってねぇよ!」
シュナウザが油断して接近した瞬間を狙う。落ちたブートバスターに脚をかけて蹴り飛ばす。飛んだブートバスターはシュナウザを目指す。
「──っ!」
隙を突かれたシュナウザは杖をぶつけてブートバスターの起動をそらす。
「まだ生きていましたか! 往生際の悪い──!」
臨戦態勢になったシュナウザは驚いた表情をする。
シュナウザとリヒト・リヒターの弱点。それは光弾を生成する瞬間だ。光弾の生成にはコンマ数秒だが無防備になる。
「“爆裂”!!」
俺は右手で雑に構えたリリーファのライフルのトリガーを引いた。
リリーファよりも雑な射撃は奇跡的にもシュナウザの方向へ飛んだ。それが当たったかは分からないが、ギリギリで生成された光弾ごと爆発した。
巻き込まれたシュナウザの目付きは変わっていた。
「老いたのもです。こんな不意打ちにさえ対応できないとは…!」
新たな光弾が数十個。今までとは桁が違う。
「死んでも終われると思わないことです。もうワタシに油断はありません!」
そして放たれる光弾。地面に爆発する弾丸を放ち、爆炎が壁となる。が、いくつかの光弾が壁を突破して殴りかかる。
「ぐぅ!」
踏ん張って光弾を受けきるが、それは鋭く体に突き刺さった。
そして次に飛んできたのはビッグサイズの光弾。今までのが野球ボール並なら、今度は野球のマウンド並みだろうか。
「サイズも思い通りかよ」
「これは…、どう対応しますか!」
力を込めて振り下ろされる杖と同時に光弾が落下する。ことはなかった。
「テンシンはもう傷付けさせない…!」
声は震えているが、やはりリリーファはリリーファだった。
「なぜ…、こうも言うことを聞かない人間ばかりなんでしょう…!」
左の肩に傷を負っている。
リリーファはブートバスターを抱えていた。
「ブートバスター…。射撃も出来たのか…」
今更ながらの真実に驚く。
「ブートバスターは汎用性の高い武器だからね。使う人の素質によって用途も変わるんだよ」
リリーファは大砲のようにブートバスターを抱える。
「素質っていうのが“光因子”いうやつか…。それがシュナウザの光弾の源なら…」
「そこに勝機があるよ!」
気を取り直したのか、リリーファは声を張り上げる。
「お悩みはもういいのか?」
「私は“リリーファ・カグヤ・ガウディ”よ。それは変わらない。…けどそれが何だってことだよ!」
吹っ切れた顔をしてブートバスターから砲弾をぶっぱなす。
あっさりとシュナウザに防がれるが流れが変わった。
「一気に攻めるぞ!」
「うん!」
士気を取り戻した俺たちはシュナウザへ攻めいる。
「この老兵“シュナウザ・アウゼル”、歴戦の誇りにかけて、貴方方に引導を渡しましょう!」
そして生成されたのは煌めく光弾。
その数、目算で100──。




