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最強の光

「──ハァハァ…」

息が切れてへたりと座り込んだ。

「テンシン…、疲れすぎじゃない?」

俺を追いかけてきたリリーファは座りはしないものの、息が切れている。

ここは金属で出来た通路。つまりは敵の本拠地である円盤の中だ。

敵機に囲まれた俺たちはその中から辛うじて逃れ、見渡しのいい街よりも円盤の中へ非難したのだ。

「っていうかリリーファ。あんなこと出来るならずっと前からやれよ…」

リリーファは敵機に囲まれた中、急に閃光を放つ銃弾を撃ったのだ。驚く敵の隙を付き、驚く俺の手を取って走り出したリリーファの先導で円盤に逃げ込んだという訳だ。

「銃弾の効果は色々変えられるけど、いつもテンシンが接近戦してたから撃てなくて…」

罰が悪そうにリリーファは目を伏せる。

「まぁいいや。ここだと機体は入ってこれないし、一時は大丈夫だな」

通路は縦横ともに2m少ししかないため、どう頑張っても機体は入ってこれない。

「多分元から街にいた機体を円盤周辺に集めてたみたいだね。居場所がバレたのは何でかな~?」

「お前だろうがとぼけんじゃねぇよ」

「…反省しています」

しかしリリーファの表情は反省しているのか甚だ怪しいところだ。…多分してない。

「で、これからどうするんだ? 案内は任せたぞ」

体を起こしてリリーファに問いかける。

しかし返ってきた答えは、

「…???」

「…え?」

ポカーンとした時間がしばし続いた。

「嘘だろ? 何の疑問符だよ」

「あー、いやー、そのー…」

リリーファは目を泳がせる。薄ら笑いをして、何だか冷や汗までかいている気もする。

「…嘘だろ?」

「申し訳ない」

同じ問いかけにとうとうリリーファが謝罪した。

「咄嗟に逃げ込んだし、よくよく考えたらこの円盤私知らなくって…」

リリーファが暗い顔をした。割りとショックらしい。

「こうなったらしょうがねぇ。来た道以外で出口を探そう。出口に警備がいるかも知れないが、分散されてるはずだから何とかなんだろ」

「…そうだね」

気を持ち直したリリーファは背筋を伸ばして、いつも通りの笑顔を見せる。

「そうだよ。お前は笑ってろ」

何て直接言えるはずもなく、その言葉は飲み込まれた。

二人で銀色の通路を10分ほど歩いたが、景色は変わらない。

「こんなに円盤でかく見えたっけ?」

外から見てても10分くらい歩けば何かあるとは思ったが浅はかだったようだ。

「運んだ機体とか資材とかどこに詰め込んだんだよ」

思わず愚痴が零れる。それほどにつまらない。

「…ねぇテンシン。少しおかしいと思わない?」

リリーファが怪訝や顔をした。

「どういうことだ?」

「侵入されたのにサイレントも鳴らないし、警備が一人もいないなんて普通じゃないよ」

「む…。確かにそうだな」

そう考えて見ればこの静寂が不審に思えてきた。

「…まさかこの円盤には機体の操縦士意外に乗ってなかったんじゃないか?」

俺の出した突拍子もない答えをリリーファは否定はしなかった。

「確かにあり得なくはないね…」

えっ? あり得ちゃうの? 何だか月の軍団がこんなにクレイジー作戦を取るなら、リリーファの破天荒も納得出来るぞ。

「でも…、そんなんでこの円盤はよく辿り着いたな」

統制なしで到着するなら大した集団だ。だが人が誰もいないというのは余りにも無防備だ。

考え込みながら歩いていると鉄製の扉にたどり着いた。

「何だこれ」

扉を目の前にして少し気圧される。

「この向こうが外なのか?」

だとしたら腹を括り直さなけらばならない。ブートバスターを強く握りしめる。

──どうやって開けるんだ?

するとリリーファが不意に扉に触れた。

カシュ!!

空気が抜けるような音とともに扉が上下に分かれた。何とも近未来的なワクワク設計だ。

「気張って行くぞ!」

扉から差し込む光に向かって飛び出したが、その光は優しい陽光ではなかった。

「──っ!」

咄嗟にブートバスターで防御を謀るが間に合わなかった。飛び込んだ光がピンポイントで俺の肩を打つ。防御のときに姿勢が崩れたのが転じて、クリーンヒットを免れた。

扉は独りでに閉まる。

扉の向こうはホール状の空間になっていた。

「──お久し振りで御座いますね」

突然ホール中央から声がした。どうやらリリーファに対して言ったらしい。

「この声に心当たりはあるか?」

「ごめん、分からないや」

小声でコミュニケーションをとりながら、互いに連携がとれる距離に近づく。

「覚えておられませんか。確か最後に会ったのは15年ほど前でしたが…」

声の主は一人で淡々と喋り出す。落ち着きのある声は、静かに薄暗いホールを支配するように響き渡る。

「リリーファって確か…」

「16だから、覚えてないや」

少しずつ声に近づき、近づく度に緊張感が増す。

ホールは徐々に明るくなっていき、とうとう相手の顔が見えた。

深く刻まれた皺とも傷ともとれないいくつもの線。真っ白な白髪をオールバックにまとめ、同じく白いあご髭を蓄えている。片手に杖をついた老人だったのだ。

その瞬間からリリーファが目を丸く、口は開いたまま硬直していた。

それだけで相手がただ者ではないことが容易に察することが出来た。

「リリーファ、援護しろ!」

先手必勝。俺はリリーファに指示を出して飛び出した。

右手に握りしめたブートバスターを大きく振りかぶり、大股で一気に距離を詰める。

老人は避けようとも守ろうともせず、ただ突っ立っているだけだ。

一抹の不安が胸を締めたが、俺は構わずにブートバスターを振った。

ブートバスターが空気を切る音を放つ前に、俺の体が仰け反った。

一瞬の閃光が俺の頬を殴り飛ばした。

「……いってぇ」

何が起こったのか分からず、しばらく放心してしまう。そんな油断を突くように、閃光がラッシュをかけてくる。

「──くぅ!」

拳で殴られる感覚が休みなく俺を襲う。

パァン!

力む耳からリリーファの狙撃の音が聞こえた。

狙撃の一瞬だけラッシュは止む。

事態が読めない俺だったが、咄嗟に転がることで老人から距離を取る。しかし攻撃が止んだのは一瞬の出来事だった。再びラッシュが始まる。

「テンシンから離れろ!」

リリーファはそう言って、俺を襲うものに銃弾を放った。

とてつもない速さで動くそれに当たるはずがないと思ったが、光を纏った銃弾は一瞬の閃光を捉えた。

「成る程、追尾する銃弾とは、上手くなりましたな」

老人が関心したように言葉を漏らす。

そして攻撃が止んで、やっとの思いで一息吐いた。しかしそのときには体の節々が痛むほどに打ち込まれていた。骨までいかれた箇所もあるかも知れない。

「貴方はもしかして“シュナウザ・アウゼル”様ですか?」

リリーファは老人に語りかける。

「いかにも、ワタシがシュナウザで御座います」

老人は肯定で答えた。

「何だ? 有名人か?」

「かなりのね。声は初めて聞いたけど、顔は知ってる。伝説の人よ」

「そんなやつが待ち構えてるとか…、どんなアトラクションだ? 楽しくねぇぞ…」

ドグマのときのように茶化して毒を吐くが、鼓動は収まらない。

「伝説とは言い過ぎでよ。ワタシなぞただの老いぼれた古兵、長生きしているだけで御座います」

シュナウザは謙遜をしているが、今までの現象は全てあの老兵の仕業だろう。種も仕掛けも分からず、かなり手強いのは確かだ。

「それに…、噂通りなら軍団の中で最強の兵士だよ…」

リリーファの言葉に嘘はなさそうだ。

だとすれば、ドグマのときよりも辛い戦いになるだろう。

「だとしても…、やるしかねぇだろ!」

懲りもせずブートバスターで突撃する。今度は閃光による反撃を警戒して、打突スタンプによる中距離攻撃を繰り返す。

しかしその全てが瞬く光によってことごとく防がれる。

「援護するよ!」

リリーファがスナイパーライフルでの援護射撃も行うが、その全てを漏れなく防がれる。

「くそっ! 速すぎる!」

「テンシン離れて、弾けるよ!」

横に並んでいたリリーファは半歩前に出て射撃を行う。

放った弾丸は光を纏い、光を纏った弾丸はシュナウザの体の前で弾けた。

散弾と変わった弾丸は、不規則にシュナウザを狙う。

「こんなことが出来たのかよ…」

しかしこの散弾だと、接近戦をしている俺に危害が及ぶというのも納得だ。まさに奥の手である。

この不規則な弾丸の速さなら防げるはずがない。少しでも隙を作れれば、俺が接近し、接近戦に持ち込めれば伝説の老兵といえども勝機があるに違いない。

「ほぅ。ここまで殺しに来られるとは…」

ゆっくりボヤいたシュナウザ。その体に傷痕は一切ない。

「まさかあれも防がれるの!?」

リリーファが驚嘆の声を上げる。

「こうなったら俺が!」

強く床を蹴って、反撃覚悟で飛び出す。

起動ブート切断スライス”!!」

さっきの反省を生かしてコンパクトで素早い振りで攻撃する。

始めの二太刀を、シュナウザは体を翻して難なくかわした。

「くそっ! 何が“老兵”だよ。現役バリバリの動きじゃねぇか…!」

そして三太刀目の振りが閃光によって弾き返された。

(──っ! 力負けした!?)

想像以上の勢いで返されて出来た隙に、重量がかかる。

数発打ち込まれ、吐血をして膝を着いた。

「まだまだぁ!」

上体を起こして顔を上げたとき、俺の膝に何かがぶつかった。それはリリーファのライフル。

俺はゆっくりとライフルが飛んできた方向に顔を向ける。

「──リリーファァァ!」

鋭さを増した閃光が刃物のようにリリーファの胴体を貫く。動きを失ったリリーファは白い肌に真っ赤な血を流しながら…、倒れた。

目を疑った。

今までもこんなことはあったが、その度にリリーファはケロッとして戻ってきた。ドグマのときでさえ一緒に戦ったのに、今は瞳に宿す光が薄くなっている。

立つことさえ儘ならないままリリーファに駆け寄る。

「リリーファ…? おい、返事しろよ…」

うつ伏せに倒れたリリーファを腕に抱く。すると少し口を開け、「心配しすぎだよ。テンシンは過保護だね…」と茶化してみせた。

「まだ息が有りますか。どうやら急所を外したようですね」

シュナウザは、皺のよった目でこちらをしっかり捉えている。垂れた瞳は年期ならではの落ち着きをを感じさせながらも、冷酷な眼差しはドグマと変わらない。

「くっそぉぉぉ!!」

体の底から力が沸き上がり、闇雲に再度突撃する。

起動ブート切断スライス”!! “切断スライス”!! “切断スライス”!! “切断スライス”!!!!」

案の定、閃光が攻撃を弾く。

「自棄ですか、呆れたものですね。ワタシの“リヒト・リヒター”の光弾はまさに光速。光の速さには誰も追い付けませんよ」

そして光の玉がシュナウザの前で浮遊した。これが閃光の正体。光の玉が光速で動いていたのだ。それをなす武器“リヒト・リヒター”はどうやらシュナウザの持つ杖。

「──がゎぁ!」

正体が分かったところで追い付けない。光弾が俺を容赦なく突き飛ばした。

額から生温い赤が流れるのが分かる。

「──勝てない……」

初めてこの言葉が漏れた。自然に悟った力の差は素人でさえ無謀を忘れるほどだった。

床に伏せて倒れている俺に声がかかる。

「テンシン…、逃げて…」

リリーファが力なくライフルを持って戦う姿勢を見せる。だが膝立ちがやっとで、とても武器を扱えるようには見えなかった。

「逃げられる訳ねぇだろ。俺はお前と戦うって決めたんだよ」

リリーファを止めようと言葉にするが体が動かない。

そこで喋ったのはシュナウザだった。

「ならばお嬢がこのまま降参して投降して頂けるなら、この地球人は見逃す、というのは如何でしょうか?」

「…リリーファを売れってことか?」

シュナウザの言葉に語調だけが強くなる。

「売るも何も…、お嬢は元はこちら側の人間で御座いますよ。それに──」

シュナウザはそこから続きをリリーファに目をやりながら話そうとする。

「──止めて!」

しかしリリーファが大声でそれを遮る。大声を出したことにより、傷口から血が吹き出すがお構いなしだ。

「それは関係ないでしょ! 私は──」

必死に訴えかけるが咳き込むリリーファ。

そしてシュナウザは口を開いた。

「それに軍団を差し向けた王族の王女である方が裏切りとは…。月王が悲しまれますよ」

「──嘘、だろ……?」

リリーファが軍団進軍をさせた王族…、だと──?

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