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Next Enemy

ゴゥン…!

晴れの港川湖市の太陽光を遮って、それは突如現れた。

街の中心部にある建物を踏み潰して着陸する。

「まさか後隊…!?」

リリーファが静かに言葉を漏らし息を飲んだ。今はそれだけで状況が把握出来た。

「後隊って前に言ってたやつか」

「…うん。まさかこんなに派手な登場だとは思わなかったけどね」

リリーファの口角が引き吊っている。

「確かにこんな登場は精神的に来るものがあるな…」

「タイミング的にも」と付け足して、沈黙。今はさすがに言葉が出ない。

現れたそれは決して小さくはない円盤。逆光もあってか全貌は分からないが未知との遭遇であることに変わりはない。

そりゃぁ、GW最終日の機団襲来の衝撃を忘れたわけじゃないが…。桁違いという言葉を身を持って知らされた。

「と、とりあえずどこかに隠れましょう。様子を見てから行動すべきよ!」

リリーファが自分を鼓舞するように声を張る。

俺もそれに続き、思い付くなかでベストの隠れ家を提案する。

隠れ家に身を潜めて、状況を整理する。

「リリーファが言ってた“後部隊”だか、“後隊”ってのが来た、ってことはここからが本番だ、ってことだよな」

「その認識で間違いはないね」

苦笑いで答えるリリーファはしきりに外を気にしている。

「そんなに早く敵は来ねぇぞ」

落ち着かせようと冷静な声をかける。

「そ、それもそうだよね…」

リリーファはハッとした表情をして我に返ったようだ。

建物のどこからか救急箱を持ってきて、傷の手当てを始める。リリーファの脚と俺の肩、両方を包帯でグルグルに巻いて応急措置完了だ。

「さて、敵が増えちまったわけだが、お考えにお変わりは?」

「今のところはないよ」

「だな」

二人の会話はこれで終わる。

空に現れた巨大な円盤を見た後では口数も減るというものだ。

気まずい空気の中、何かが近付いてくる。

それは聞き慣れた車輪の音を響かせている。

「早速お出ましだ。どうする?」

いつもなら俺が真っ先に飛び出るが、今はそうもいかない。下手に動いて厄介な敵が来る方が面倒だ。

「私が狙撃するわ。敵は気付いていないし、私の十八番よ」

俺はリリーファの提案に賛成し、建物の二階に上がるリリーファを見送る。

ここは元々、漁師たちの休憩所として使われていた建物で、決して大きくはない。しかしメリットだってもちろんある。

上の階からリリーファのライフルによる狙撃の音が聴こえた。

そして上の階からリリーファが降りてくる。

「どうだった?」

俺は出発の準備をしながら問いかける。

「倒したよ!」

急いで駆け降りるリリーファの声は大きい。

「そんな急ぐと落ち──」

「一機は!」

驚きのカミングアウトを聞いて、俺の頭に電撃のようなものが走った。

「急いで!」

「逃げるぞ!」

ほぼ同時に声を出し、正面の玄関を飛び出る。

すると、俺たちを発見した機体が猛追を始める。しかもその数は一機や二機ではない。少なくとも十機はいる。

「なんでこんなにいるんだよ!」

「分かんないよ! でも最初の一機は囮だったみたい。射線から位置を読まれた!」

リリーファはすでに息を切らしている。脚を引きずり満身創痍という風体だ。

「リリーファ、こっちだ!」

そんなリリーファの腕を掴んで“No.2”と書かれた水路に飛び込んだ。俺たちがドグマと初見で戦ったときに逃げ込んだ水路だ。そこには逃走に使用した水路用のボートがある。

「よし、これで…動け!」

先ほど隠れ家に使った休憩所から拝借したキーを差し込んでエンジンを動かす。ボートはエンジン音を上げて動き出す。

「テンシン運転出来るの?」

操縦席を覗きこむようにリリーファが問うてくる。

「ははっ! 出来るわけなかろう!」

豪気に笑い飛ばすが、内心の焦りは半端ない。リリーファも苦い顔をした。

「それに、操縦するのは俺じゃねぇ! リリーファ、お前だ!」

「えぇぇ!?」

今度のリリーファは眼を丸くして驚く。今さらだが表情豊かなやつだ。

「ちょっとテンシン! 私が操縦出来ると思ってるの!?」

「それっぽいことしときゃなんとかなるだろ!」

「そんな無茶な…」

リリーファは大人しくボートのハンドルを握るが、まだ不平不満を言っている。

「お前も俺に相当な無茶ぶりしたこと忘れたとは言わせんぞ」

俺は出会ってすぐのことを引き合いに出した。するとリリーファは黙る。

「それにここからは俺の十八番だ」

ブートバスターを構えてボートの後方に立つ。

水路に沿って敵機がわさわさと追跡をしながら腕の銃装備を向けていた。

「おりゃぁぁ!」

火を吹き、雨のように弾丸が降り注ぐが難なく凌ぐ。凌げるようになっていた。

(俺、成長しちゃってるし…)

素直に喜べない成長を実感する。

起動ブート打突スタンプ”!」

数発の突きで二機が脱落した。残りの敵は打突を警戒し出す。

「お次は“爆裂バーン”!!」

後元の道を破壊し、敵機を水路に落とす。重量級の機体はそれで脱落だ。浮上してくることはなかった。

「テンシン、意外にファンキーなことするようになったね」

リリーファが操縦席から顔を出して苦笑する。

「お前こそ操縦出来てるじゃねぇか」

嫌味には嫌味で返す。

「これからは無茶ぶりしないでね。私無茶ぶりには弱いみたいだから」

「会ったあとにお前にされた無茶ぶりよりかマシだっつーの」

俺は会ってすぐの、初めてブートバスターを使ったときのことを引き合いに出す。するとリリーファは反論出来ず、大人しく操縦に戻った。

しばらくの間、船で水路を移動する。

港川湖市の水路は、街の中心である“水運管理局”を起点に蜘蛛の巣状に広がっている。海側に行くのが下りなので、今は水路を遡っていることになる。船にぶつかる波の音は港川湖市のBGMと言っても過言ではない。

「そこに船を着けよう」

俺はリリーファに提案した。

リリーファは苦心しながら船を停めた。

停船した場所は水路の、いわば船着き場。

船をブルーシートで隠し、そこから陸に上がる。

「このから円盤を目指そう。相手の戦力を確認したい」

「そうね、このまま逃げてもキリがないものね。だけど…」

リリーファは言葉を若干濁す。

「これ以上水路を行くと許可証のない船は通行止めされるんだよ。その情報も中央に伝わる。イコール敵に発見されるってことだ」

俺はリリーファが抱えているであろう疑問に答える。

「なるほど。テンシンはそれなりに頭脳派だね」

「お前、バカにしてるだろ」

「まっさか~」と心にもない返事をしてリリーファは歩き出した。

数十分歩き、水運管理局の近くにきた。

回りの建物同士の間、俗にいう路地裏から様子を伺う。

水運管理局の建物ごと踏み潰している円盤は光を反射しないほどに黒い。

大きさも近くからの目算ではあまり分からないが、野球くらいなら存分に楽しめそうだ。客席にいたとしても。

「でけぇ…」

それを見た俺は言葉を失っていた。

「テンシンしっかり!」

リリーファの励ましで我に返る。

「この円盤では二足機械は運べないわ。高さが足りない」

冷静な分析をするリリーファ。さす元敵幹部だけある。

「そんなもんか…」

高さは8mくらいありそうだが、運ぶとなると足りないらしい。まぁ確かにこれでスパイダーのような大型は運べまい。

「? あれはなんだ?」

俺は自分の発見をリリーファに報告し、質問する。

それは円盤の中から出てくる二足機械とは違う機体。キャタピラーの上に箱を乗せた感じのサッパリしたものだ。

「なるほど…。後隊はそういう目的で…」

するとリリーファは一人で納得した。疑問が拭えなかった俺はもう一度問い直す。

「あれは物資運搬用の機体だよ。前隊で制圧した街を本格的に開拓する算段だったようだね」

確かにそれなら大型の機体じゃないのも納得できる。

再び路地裏に姿を潜め、作戦を練る。

「戦闘機がないなら突撃できるんじゃないか?」

俺が思っていたことを率直に尋ねてみる。

「それが出来れば苦労はないけど、恐らく無理だろうね。監視体制は… かなり厳しそう」

リリーファは顔を険しくして答えた。

リリーファが言うには、外側に設置されたランプの光に当たれば中枢に警告が届くらしい。それも灯台のように180゜を監視しているとか。

「…となれば、覗くこともままならないってか」

さっきまでの自分の行為の愚直さを知って苦笑いが漏れる。

「ここは一旦退いた方が賢いかもね」

「まぁ、確かにそうだな」

俺は懐から携帯を出して、携帯のカメラだけを建物の影から出して写真を撮った。ほんの予備として撮った訳だが、その行為をしたことが運の尽きだった。

「テンシン! 何それ面白そう!」

初めて携帯のカメラ機能(カメラ自体かもしれない)を見たリリーファが興味を示した。

俺の腕に絡みついて携帯を凝視している。

「止めろリリーファ! 後だ、後で遊ばせてやるから!」

俺の手から携帯を奪取したリリーファはシャッター音を鳴らし続けている。

「はぁ…。もういいよ。気が済むまでやれよ…」

頭を抱え俺は諦めた。

当のリリーファは静かにはしゃぎ、この状況に適した楽しみ方をしている。何でそんなところは判断できるのに妙なところで子供なんだよ…。

「ほらテンシンも笑って!」

内カメラで遊びだしたリリーファは俺も巻き込んでくる。

「うるせー、騒ぐとばれるぞ」

ゆるーく注意するがリリーファは関せずにはしゃぐ。本人曰く「音はばれないよ」らしい。マジかよ。

「ほらテンシン、笑って笑って!」

リリーファがぐいぐい顔を近付けてくる。そしてシャッターが切られる。

「もー、テンシン仏頂面だよ」

呑気に写真に批評をするリリーファから携帯を奪い返した俺は目を丸くした。

「お前…、待ち受けにしてるんじゃねぇよ」

ツッコム気力さえ失せて、声に張りがなかった。

「もういいだろ。ここから離れるぞ」

「そうだね」

来た道を引き返して、陸路をとって極力離れることにした。

「何? この音は…」

リリーファが立ち止まって何か言う。

それと同時に影が俺たちに覆い被さる。

「まさか! 嘘だろ!?」

空中から十数機の二足機体が降ってくる。

その機体は周囲の建物を踏み潰した。

辺りの建物はほとんどが瓦礫になっていた。つまりは円盤からもほぼ丸見えだ。

つまりは敵の本拠地の目の前で八方塞がりの大ピンチということだ。

「こいつは…、さすがに終わったか…」

苦笑いが零れた。

それでもやるしかないと俺とリリーファは武器を構えた──。

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