9.「ドロドロに甘やかして・・・」「えぇっ?!」
ヤバい。美味しそうにシャンパンを飲んでいる小町さんが可愛すぎる。
「兄貴ー、凶悪な顔してるよ?今にもせんせーに喰いつきそう」
「ああ、喰いつきたいね」
あ、本音がもれた。
未来がどん引きした顔で俺を見ているので、とりあえず頬をつねっておいた。
「~~~痛いぃ」
「自分でふっておいて、どん引きするな」
「・・・だって、兄貴、マジなんだもん。小町せんせー可哀想・・・」
なんだそれ。実の兄貴をなんだと思ってるんだ、コイツは。
暗黒よりマシだろうが!暗黒より!!(大事なことだから2度言ってみた)
「小町さんはドロドロに甘やかすからいいんだよ」
「俺様なのに、好きな人には甘いんだ?・・・ふーん、まぁ、わからなくもないけど」
む・・・。
未来とは好みのタイプが似ている。兄弟揃って“ツンデレ”好きなのだ。
だが、小町さんを譲るつもりは一切ない。
「未来?」
「盗らないよ。命が惜しいもん。・・・それに、俺、好きな人がヘルシーにいるんだよねー」
「ヘルシーに?・・・ふぅん。今回協力してくれたら、お前のも手伝ってやるけど?」
「・・・そっか、生徒会だもんね。ヘルシーと合同の中央委員会を開くから関わりが多いんだっけ」
「どうする?」
「もちろん、協力させてもらいますよ?おにー様」
よし。これで未来の協力も得られる。・・・未来は理系なだけあって、ワケわからん女の相手をさせると、小難しいなんちゃら理論~とやらの話を延々と続けてこてんぱんにやっつけてくれるから、頼もしい。
小町さんのことも気に入っているようだし、あのパーティーでは防波堤の役割をしてもらうこととしよう。
***
ホテルに着くと、またも呆けるか「ブルジョワめ」と呟くかと思われた小町さんだけれど、「もう、驚かないから!」などと、可愛らしい宣言をしてくれた。
「くく、小町さん・・・それ、可愛いだけですから」
「ぅぐっ!」
とりあえず、逃げられないように手をつないで(もちろん、恋人つなぎだけど、何か?)エントランスからカウンターへ向かう。
「予約していた日根です」
「お待ちしておりました、日根様」
深々と頭をさげる従業員は清潔感のある爽やかな装い。日根家では毎度このホテルを使っているので、もう慣れたものだ。
今回は小町さんを連れて来ているので、何か変化もあるかと思ったが一切表情を変えなかったところは、さすが高級ホテルと銘打つだけはあると思った。
用意した部屋は3部屋。さすがに小町さんを日根家の誰かと一緒に過ごさせるわけにはいかない、という配慮だ。
別に、俺と一緒でも良かったけど。まぁ、婚前だし、我慢するとしよう。
「サロンスイート1室、デラックススイートが2室でよろしかったでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。・・・それから、会場ですが」
「はい、立食スタイルでと伺っております」
「ええ、そのように準備をお願いしますね」
両親が従業員と話している間も、小町さんは周りを気にしている様子で視線を走らせていた。
「小町さん」
「な、何?」
「そんなに怯えなくても、俺が護りますから」
「・・・うー、クソ、カッコいいな、もう」
悪態がもれてますよー、というか、もはや褒め言葉ですよね、ソレ。
「カッコ良くてすみません」
「ぎゃ!聞こえてた!?」
「ええ、バッチリ」
ニッコリと笑ってあげると、表情は引きつったものだったが、目がうっとりとしている。
今までは自分の見目の良さは商談のための武器としか思ってなかったけれど、小町さんに見惚れてもらえるならいくらでもスマイル0円を提供したい気分だ。
さて、夜のパーティーのために、小町さんの服を選ばないといけない。今日は“あの人”にも出張して来てもらっているし、事前に小町さんの写真は送ってあるから、きっと似合う服を色々持ってきてくれているはずだ。
軽く腕を引けば、小町さんが首を傾げる。
「・・・ん?何?日根君」
「今夜のパーティーのための服を選びに行きましょう」
「え!・・・いや、ドレスは持ってきて・・・」
「行きましょう」
「・・・・・・はい」
ささやかな抵抗を一刀両断すれば、小町さんは大人しくついて来てくれる。――うん、結構、押しに弱いな、この人。
それに、持ってきたというドレスはパーティー参加者のTPOにはあっているだろうが、日根家長男の婚約者としてはいささか足りない気がするのだ。
とりあえず、こてこてに着飾らせるつもりはないけれど“あの人”に任せるのが一番だし、両親に一言断って、俺は小町さんを出張ブティックへと引っ張っていったのだった。




