8.ドS女、またも物欲に・・・
小町視点
何と言うか、新幹線のグリーン車はとても快適でした。・・・日根君に口説かれてさえいなければ。
もう頭の中は大混乱で、正直言ってこれからが本番だというのにこのまま帰りたい気分だ。
「小町さん」
深いため息を落としたところで、日根君に呼ばれる。
「・・・おぅふ」
振り向いた先にあったのは、やたらとながーい白い車・・・はいはい、わかってますよ。お迎えのリムジンですね。
学院まで迎えに来たのは普通のベ○ツだったから、油断してたわ。つーか、これもベン○ですね!ブルジョワめ!!
「くく・・・」
笑うなコノヤロー、と言いたいけれど、ご両親も未来君もいる中で口に出せるわけもなく・・・肩を震わせる日根君を睨みつけるだけに留める。
「深山先生、さ、どうぞ先に乗ってくださいな」
日根母に促されて、一瞬躊躇する。
確か、リムジンの席次って・・・運転手の後ろが上席だったよなー・・・なんて・・・。
「あ、あの・・・」
「ほらほら、どうぞ」
丁重にお断りしようとしたのにぐいぐいと押されて、結局、私は上席に座らされた。
日根家所有のリムジンは、車内バーカウンターのあるタイプで、ソファーがその前をぐるりと取り囲むように取り付けられている。
こんなん、日常生活で見る機会なんてほとんどないだろう。あー、でも、カロリーの教員やってたら、いつかは見ることになるかもしれない。
なにせ、寮に入っているお坊ちゃん方の長期帰省の送り迎えで来る車が似たり寄ったりだしな。
長時間の車移動でも、これなら疲れなさそうだ。うん。
「先生、何飲まれます?シャンパンは飲めますか?」
どうせだし、しっかり内装を見ておこう。なんて考えていたら、日根父がバーカウンターに設置されているクーラーボックスに手をかけながら聞いてくる。
うー、お酒大好きですけどね!日根家(輸入業)の用意したシャンパンなんて、絶対にホストクラブで大枚はたいても飲めないような高級シャンパンだろうから飲みたいですけどね!!
思わず頷きかけて、日根君と未来君の存在を思い出す。
「いえ・・・未成年もいることですし、昼間からお酒は・・・」
「ああ、飲んで良いですよ、先生はお酒好きでしょう?しかもザルって言われるくらいに強いって・・・」
日根君はそこまで言って、うろうろと視線をさまよわせてからニッコリと誤魔化すように笑った。
まぁ、その後に続くはずだったセリフはわかってる。調査書に書いてあった、でしょうが。今更隠さなくても良いのに。
「うー・・・じゃあ、少しだけ」
「はい、どうぞ」
私が日根君と話している間にシャンパンを注いでいたらしい。グラスを日根父に渡され、私は素直にそれを受け取る。
その際にシャンパンのボトルのラベルをチラ見して、思わずグラスを取り落としそうになった。
「クリュッグのロゼだと・・・!!」
「おや、お詳しいですね?」
お詳しいもなにも・・・ドンペリニヨンに次いで有名どころじゃないか・・・。
しかも最高級といわれるだけあって、ドンペリより割高・・・更にロゼ・・・いや、ロゼならまだまし。ヴィンテージとかになったら10万は軽い・・・。
ぶつぶつと呟く私の隣で、日根君が苦笑いした。
「小町さん、武将とイケメンだけじゃなくて、お酒もほんっとに好きですね。なんていうか、コレクター根性っていうか・・・」
「お酒って言っても、好きなのは日本酒とシャンパンだけだし・・・あ、さっぱり系のカクテルもいける、けど」
「じゃあ、俺が大人になったら一緒に飲んでくださいね」
ニッコリ。
大人になるまで放さねーぞ宣言ですか、それは。
ちょいちょい口説き文句をはさんでくるの止めてもらえんだろうか?これ以上は心臓がもちそうにないんだけど。
「深山先生、せっかく冷えてますし・・・飲んでください」
「あ、ハイ・・・いただきます」
そうだよ!最高級シャンパンなんてそうそう簡単には飲めないんだから!・・・まぁ、頑張れば買えなくもないけどさ、もったいなくてそのまま飾りそうなんだもんよ!
しかも、あのクーラーボックス・・・シャンパン専用に温度設定してるよ、絶対!!
「――っ」
一口含んで、色々な雑念が吹っ飛んだ。
なにこれ、うまい。
つか、うまい。
え、うまい・・・。
「ふふ、お気に召したようですね」
日根父の言葉にがっくんがっくんと頷きながら、グラスを空ける。
「こ、こここ、これ、ホントにロゼですか?」
「ロゼですよ、クリュッグなんで、ロゼでもおいしいでしょう?」
「お、おおお、おいしいです!!」
「ふふふ・・・うちに嫁にきたら、これ、好きなだけ飲めますよ?」
ふぉう!!日根父!!息子と同じ手法で口説かないでくださいませんか!!
なんか、物で釣れる的なイメージですか!私!!