6.動揺するドS女
小町視点
もう既に新幹線に乗る前からぐったりな私だったけれど、あれから日根母とも合流し、名古屋に向かう新幹線に乗った。
当然、隣の席は日根君なワケで、道中話すのはもっぱら日根君ということになる。
「ところでさ・・・探偵使って、何を調べたの?」
ご両親が、と思うとビビりまくりだった私だけれども、日根君が私を口説くために使ったというならば何を調べたのか申告してもらおうじゃないか。
「えーと・・・言わなければだめです?」
「だめ」
「――あー、小町さんは担任だし?趣味とかそれなりに知ってはいたので・・・簡単にお休みの時に何してるとか、交友関係とか、ですね。
あ、あと、あの歴史資料室の奥の方に、琴瀬先生に描いてもらったというイケメン武将の絵が飾ってあるとか」
「ちょっ・・・!?」
なぜそこまで調べられているっっ!!!
つか、探偵スゲーな!!歴史資料室の奥の方まで調べるの?!というか、いつの間に!?
歴史資料室は他の先生方も当然使うけれど、琴瀬が描いたその絵の完成度(鎧とか着ものの柄とかすごいの!!)の高さに、置いてイイよって言ってもらえたのだよ。うん。
いいじゃん。史実よりも超美形だって。肖像画の人物名を答えなさいなんて問題はそんなにいっぱい出ないんだから。それに、邪魔してない。壁のデッドスペースを埋めただけだ。(開き直り)
「そのおかげでこの作戦を思いついたんですよ」
「マジか・・・」
「ちなみに聞くんですけど、小町さんってイケメンが好きなんですか?武将が好きなんですか?」
「――――――両方好きだよ!悪いかったね!!」
「いえ、悪くないですよ。武将好き、だけだったら・・・俺、付け入ることできないじゃないですか」
ああああああ、はいはい。自分がイケメンってわかってる人のセリフですね!!
くそう!その通りだよ!
多分、城めぐりや武将フィギュアだけならつられなかった。イケメン好きじゃなかったら、日根君がコスプレしてくれるって言ってもなびかなかった。
「日根君ってさぁ・・・普段は年上キラーとか言ってチャラ男っぽい印象だけど、会計の仕事の時とか相手を思い通りに動かす時の手腕を見ると、ホント、俺様だよね」
「あはは、それ、俺にとっては褒め言葉ですよ。普段はなるべく俺様な所は見せないようにしてるんですけど、だからって他人の言いなりになるのは嫌じゃないですか。
それに、委員会や部活動の諸費用は生徒会会計の俺が責任を持って割り振ってるわけですし、文句を言われる筋合いはないし、大人しく言うこと聞いてろって思いません?」
「・・・ああ、清々しいまでの俺様発言・・・」
物腰が柔らかいから気付かれ難いが、これは筋金入りの俺様だ。
思わず私がぼやけば、くるりと前の席に座っていた未来君が振り返る。
「せんせー、兄貴がここまで素を見せる女の人っていないんだよー?今まで付き合ってた人達も含めて」
それがどうした。とは言えなかった。つまり、日根君は本気ってことだから。
「ああ、うん・・・わかった・・・」
「――そんなに嫌がらないでください、小町さん」
ほんの少し傷ついたような表情をうかべる日根君に、私は大きなため息をもらした。
「別に・・・嫌がってないわよ。ご存知の通りイケメン好きだからね、日根君みたいなイケメンに言い寄られて悪い気はしないし。でも、それで良いわけ?」
真実の愛とかそんなくっさいセリフを言うつもりはないけれど、そんなミーハーな気持ちで恋人になられて、彼は嬉しいのだろうか?
「良いですよ。今はそれでも。・・・いつかちゃんと好きになってもらいますから」
おお、自信家だこと。
「――まぁ。凱?あんまり先生を追い詰めるようなことをしちゃダメよ」
なんてのほほんと言ってくるのは日根母。とりあえず、口説くのはダメ、じゃないんですね。ええ、わかってますとも。
まぁ、担任を受け持つクラスの生徒だから、日根君の良い所も悪い所もそれなりに知ってはいる。それが恋愛感情につながるかと聞かれれば首を傾げざるを得ないけれど。
しかし、日根君は何を考えてこんな方法を取ったんだろう?
ああ、でも、学校で堂々と口説かれていたら面倒だからとシャットアウトしたかもしれない。
私を口説いている間、逃げる隙を与えないようにしている。というのならばこの手は有効だ。だって、名古屋まで行って帰ってくるまでずっと一緒に行動するのだから。
だけど・・・理事長が後押ししてても、ご両親が乗り気でも、それでも私はまだ日根君と付き合うなんて言えない。
こんなにグダグダと考え込むような性格じゃないのに。ここ最近の有り得ない状況に、私は完全に振り回されていた。
あー!もー!!ドSは攻められると弱いんですっ!!