2.相談する相手を間違えた
ある日の放課後、俺は生徒会室に足を運び、生徒会だよりを作っていた副会長の福士玲人を捕まえて、深山先生の件を相談してみた。
「・・・へー。じゃあ、凱は深山先生を狙ってるわけだ」
玲人は興味なさそうに相槌を打つ。
「こっちは真面目に相談してるんだけどな?」
「そもそも、なんで俺に相談してるの?智宏に相談すれば良いんじゃない?きっと親身になってくれるよ?何だかんだ言って真面目だから」
「・・・智宏じゃ、恋愛経験値が低すぎる」
智宏とは結構長く一緒にいるが、超真面目な学生生活を送っている智宏からは未だに好きな人の話を聞いたことが無い。
それは玲人も同じなのか納得した様子で頷く。
「――ああ・・・じゃ、弟の方は?あっちは経験豊かでしょ?」
彼等の父親が俳優をやっているだけあって、その血を引く2人はとても見目が良い。
さらに、智宏の弟――といっても双子なので同い年だし、顔も瓜二つだ――の仲路智人は、兄とは正反対の性格で、社交的で女子からも人気がある。
だから、智人なら恋愛関係の話題も問題なく出来る。出来るのだが・・・。
「いや・・・智人に相談すると、もれなく惚気話が付いて来るから・・・」
そう、つい最近本命の彼女が出来たらしく、無自覚で惚気てくるから堪らない。
「あー・・・悪かった」
うん、玲人も被害者の1人だな。
「まぁ、ここで颯太の名前を出さない辺りは良心的か」
野麦颯太は同じ生徒会の仲間の書記だ。いつもニコニコしていて、基本無口だから会話が続かない。
が、頷いたり首を振ったりするコミュニケーションはとれるから全く問題ないし、本当に必要な時はなめらかに話しているから、会話が苦手、というわけではない。
つまり、めんどくさがりなのだ。・・・というか、話すのも億劫って、どんだけだ?
「邪険にされるのがわかりきってるからねぇ・・・恋愛方面の話題なんて、最もめんどくさいものだろ?」
ああ、わかってるよ、お前もめんどくさいんだろ?――チッ、友達甲斐のないヤツだ。
「しょうがないな。出来れば生徒会だけで話を留めておきたかったんだが・・・他を当たるか」
「あー、じゃ、久馬は?アイツも身内のようなものだろ?」
生徒会顧問である久馬壮輔先生の従弟で、生徒会長の智宏の幼馴染の久馬一志。確かに、他に比べれば身内のようなものだが・・・。
「一志はダメだ。――俺は恋のキューピッドじゃねぇえええって、この間叫んでたから」
「・・・ああ、なんか知らないけど、井橋先生と御門先生をくっつけたって?」
「そう。周りもいい加減、井橋先生が可哀想になって口出し始めたし、猫友だからって協力してたら、恋のキューピッド扱いされたらしいな。
それが本人的には嫌だったらしくて、しばらくは恋愛方面の手助けはしないって公言してたぞ」
「うわ・・・マジか。それはダメだな。久馬の機嫌損ねるとドS発動するし」
深山先生とはまた違ったドSだから、扱いを間違えるとドSスイッチが押されて、散々に罵倒される・・・さすが、暗黒同好会の連中と普通に仲良くしているだけはある。
いや、主な被害者なのか?そのストレスなのか!?
とまぁ、一志のことは措いといて。
「・・・とりあえず、俺の周りには相談できる相手がいないということを理解した・・・」
「そもそも、相談するっていうこと自体、どうなの?凱、自他共に認める年上キラーでしょ?相談の必要なくない?」
「・・・今までとは違うんだよ」
「あー・・・今までは遊びの延長線上だもんねー・・・サイテー」
あはは。と笑ってながすお前はどうなんだ・・・。
「良いんだよ。相手も遊び感覚だったしな・・・今回は本気で落とすつもりだから、周りの意見も参考にするつもりだったんだが・・・」
「いつも通りで良いっしょ。・・・まぁ、立場的に逃げられそうな予感もするけど」
「嫌なこと言うなよな・・・でもまぁ、立場という点では、理事長の許可を貰っておいたから、反論は封じさせてもらうさ」
「うっわー・・・用意周到だ。深山先生、可哀想ー」
ちっとも可哀想と思ってない表情で言う玲人に、本気で相談する相手を間違えたなと反省する。
「・・・お前、もう、暗黒行けよ。暗黒」
「無理でしょ。事態をより面白くするために引っかき回すとかいうの、めんどくさいし」
まぁ、確かに。・・・暗黒同好会の連中は面白そうと思ったことに対する情熱の掛け方は普通じゃない。あの誹謗中傷Tシャツの件とか・・・な。
「――それもそうか。お前もめんどくさがりだしな」
「そうそう」
「はぁ、もうイイ・・・周りの意見を聞いてみようと思った俺が間違ってた。自力で落とす」
こうなったら突撃あるのみだ。それに、もう外堀は埋め尽くした。彼女に逃げ場はない。
「・・・ドS歴女と俺様年上キラーの仁義なき戦い」
ボソリ、と呟かれた言葉に玲人と共にギョッとして振り返る。
「そ、颯太・・・」
「い、いたのか・・・」
「いた。でも、めんどくさそうな話題だったし」
だから存在感を消して黙っていたらしい。・・・だから、どんだけだ。
「あ・・・そう」
玲人が気の抜けた返答をするのに頷き、颯太は俺に向き直ってから、コトリと首を傾げる。
「・・・恋愛相談お断り。相談してこないでね?」
「しねぇよ!」
邪険にされるどころの話じゃなくて、受付拒否かよ!
つくづく友達甲斐のない連中に背を向け、生徒会室を後にしたのだった。