15.報告=not愚痴but惚気
小町視点
結局のところ、私は凱君にオトされた、というわけで。
後から聞いたところ、学校では大っぴらに口説くのも難しいからと、この2日間にかけていたんだそうで。
まんまと家族ぐるみの計画に嵌められてしまった形だが、とりあえずは凱君の卒業までは時間があるので、担任と生徒という関係を守りつつ、公のパーティーなどでパートナーを務める、ということで話はまとまった。
「まぁ、さすがに・・・学校でいちゃつくわけにはいかんだろうし」
「別に良いんじゃないの?ウチの妹みたいにしろとは言わないけど」
名古屋から帰ってきた私は、即行で琴瀬の所に駆け込んで、とりあえず惚気なんだか愚痴なんだかわからないものを全部吐き出した。
なんだかんだ言いながらも、(凱君に買わせた)名古屋土産を大量に渡したおかげで付き合ってくれた(ただし聞き流されてる気がする)琴瀬は、ひょい、と肩をすくめる。
「だって、担任と生徒だぞ?」
「そこらへんは日根が根回ししてるでしょうが」
「うっ・・・」
徹底的に根回しした、という本人に詳しく訊ねたら、どうやら私の実家にまで根回しは済んでいたようで・・・母に電話をしたら「良い男を捉まえたわねー」と感心された。
いや、まぁ、良い男ってのは認めるけども・・・。
現在進行形で教え子だって言ったら、それも教えられたみたいで、「若いっていいわねー、将来も安泰でしょ?いいじゃなーい」だそうだ。
まぁね、大学で経営学んで、そのまま家を継ぐんだから将来は安泰だろうけどさ。
良い男過ぎて困る・・・って言ったら、きっと凱君が調子に乗るから言わないが。俺様を調子に乗らせちゃいけない・・・被害が甚大なものになるから。
「とりあえず、相手が悪すぎたんだ。なにせ、百錬練磨の年上キラーだし。しかも日根は交渉術に長けてるからなぁ」
「うう・・・」
確かに、この学校で生徒会会計なんてもんをやってて、それなりに英才教育受けてる連中と部費の交渉をやって負けなしだ。口で勝てるとは思えない。
「それに・・・結構、アンタの好みでしょ、アイツ」
「・・・・・・うー・・・うん、まぁ・・・かなり?」
「・・・・・・・・・デレたよ。小町が・・・恐るべし、年上キラー!」
ちょっと、そこ!妙な感心をしないで欲しい。
というか、まぁ、好みっちゃ好みなのだ。頼りがいがあって、私の趣味に理解があって、イケメンで・・・もう、完璧に合致してるんだ。
しかも、向こうの家族はウェルカム状態で。こっちの両親もむしろ熨し付けてくれてやるぐらいの勢いで賛成してる。
逃げるつもりはもうないけれど。
「重いって言われたら、どうするか・・・」
「・・・突然ネガティブだな・・・向こうから迫ってきたんでしょうに」
「そーなんだけどもさ・・・」
ぴろーん♪
なんとも言えない気分で唸っていると、スマホが着信を告げる。
「メール?」
「あー、うん。・・・凱君だ」
「ほう、なんだって?」
「・・・昨日今日とありがとう、明日からまたよろしく・・・って」
「そんだけじゃないでしょ?アレのことだからさ」
「そんだけだっつーの!」
ニヤニヤと笑って追求してくる琴瀬だが、コレばっかりは見せられん。
絶対に呆れるから。つか、どん引くから!!
そんなメールにドキドキして嬉しいって思ってる自分がいて、水を差されたくないっていうのもあるけども、絶対にからかわれるから、見せたくない!!
「ムキになるところがますます怪しい・・・」
「なんでもないってば!」
「・・・まぁ、他人様の恋愛事情にはあんま興味はないし、素直にイチャついてなさい。ただし、あたしに迷惑はかけるなよ?」
コレは追求を諦めてくれた・・・のではなく、本気で興味がないと言っている。今の今まで付き合ってくれたのは名古屋土産効果であり、そろそろ時間切れということだろう。
「うん、まぁ、愚痴ったらスッキリしたし。間違っても琴瀬に恋愛相談はしないから・・・」
「おぅ、そうしてくれ」
今回に限っては吐き出さないと眠れそうになかったから、お土産も奮発して聞いてもらったけど、次からは小鳥遊店長とかに聞いてもらおう・・・うん・・・。
「じゃ、夜分遅くに失礼しました」
「はいはい。お土産、ありがとね」
「いやいや、まぁ、結構な時間付き合ったもらったし?その分の報酬ってことで」
「おぅ、まいどありー。・・・お財布にもよろしく言っておいて」
「財布って・・・まぁ、そうだけどさ・・・伝えとく」
明日の周りの反応がちょっと怖い気もするが、そこらへんは任せてくれと言われているので、私はいつも通りに仕事をするだけだ。
もう、開き直るしかない。どうせ、凱君が私を狙ってたことをほとんどの学院関係者が知ってるわけだし。
彼の卒業まで、穏やかに付き合っていけたらそれでいい。サプライズもハプニングもガンガンいこうぜ!も必要ない。ないったらない。
「気をつけろよー、アレは独占欲が強いほうだろうからなー」
琴瀬の忠告も、危険な香りがするからとりあえず聞かなかったことにしておこう。
と、軽く現実逃避をしつつ、私は琴瀬の部屋を後にしたのだった。




