10.小町の自覚???
プレジデントの皆さんは今回はあまりがっつりは出ません・・・。
「まぁっ、この人が可哀想な仔羊ちゃん役なのぉ?」
か、可哀想な仔羊ちゃん・・・うん、言い得て妙だと思ってしまった。
だって、日根君、校外だと積極的すぎるんだ!!日根父とか日根母とか未来君とか!!全員で私を囲い込んで口説いて来るんだもんさ!!物で!!
コワイヨ、オカネモチ!!!
というか・・・この方々、知ってるぞ。
「なんで、プレジデントの店員さんが全員来ちゃってるの!?お店は?!」
「あー、他でもない日根さんのご要望だったから、お休みにしてきたのよぉ」
くねん、と腰を曲げて、てへペろと舌を出す美形(外は男中身は女その名は・・・)。
「小鳥遊店長・・・」
ガックリと肩落とした私は、上機嫌な小鳥遊店長に呆れた視線を向ける。
「だぁってぇ・・・さすが日根家よねぇ、2日間の店の儲けをまるまる保証してくれて、それにかなり色をつけてくれたんだものぉ!」
ぎゃぁあああ!あの高級ブティック2日分に色つけてって・・・どんだけ金使ってんの!?こっちでだって商売する気満々じゃないのよ、この人達!!
「しっかし、深山ちゃんが凱君のねぇ~・・・びっくりだわぁ~」
繁美ちゃん・・・そんな感慨深げに・・・。
「つか、私だってびっくりだわ!!」
「あはは、そーよねぇ。アタシも以前から相談受けてたんだけどもぉ、まさか深山ちゃんとは思わなかったわぁ」
相談!?相談って、何?!
「ちょ、ちょっと待って、相談って・・・小鳥遊店長!?なにを吹き込んだんですか?!」
この人、恋愛伝道師とかいう妙な免許持ってるから、怖いのよ!!しかも、井橋先生と御門先生をくっつけたのに一役買ってるらしいし・・・。
・・・まずくないか?
「たいしたことないわよーお?・・・好きならアタックしちゃいなさーいって助言しただけだものぉ」
あんたかぁああああ!!日根君の背中を押したヤツはぁあああ!!!
そんなショックで口のきけない私の肩をポン、と叩く人物が1人。
「・・・ドンマイ、小町」
「くっ・・・なんてイイ笑顔!!」
十来夏・・・プレジデントのエステティシャン&ヘアアーティスト。
彼女と出会ったのは本当に偶然で。おばあちゃんのカバンをひったくった愚か者を同時に追いかけ、私はラリアット、来夏はその勢いを使ってのバックドロップ。(※良い子はマネをしないようにね!!)
見事な連携技でひったくり犯をぶちのめした私達は意気投合し、そのまま来夏の店――プレジデント――に行って、色々とサービスを受けたわけだ。
薄々は気付いていただけたかと思うが、来夏はドSである。それも超がつくほどの。類は友を呼ぶというのは本当だった・・・。あはは。
「へぇ・・・小町さんもこの店知ってたんだ?じゃあ、ここでパーティードレスを買った?」
私と彼女(?)達とのやりとりを見ていた日根君が目を細めて訊いてくる。
「そうよ!だから、買う必要なんてないんだってば!!」
「あらあらぁ、ダメよぉ!・・・ただの参加者ならアレでも良いけどぉ、日根家長男の婚約者って立場なんでしょぉ?」
「認めてない~!!」
「小町、諦めなさいな。受け入れちゃえば楽になるわよー?」
楽しそうね!!来夏!!
「ほらほら、イケメン武将がお待ちですよ、小町さん」
日根君・・・そんなパンフレットたくさん・・・。
「くっ、好きなもの与えておけばおとなしくなると思われてる!!」
「「「「え、違うの???」」」」
くそう!!私はちょろいん(ちょろいヒロイン)じゃねぇ!!
「違うわ!!」
「ふぅん・・・じゃあ、ガンガンいこうぜ!の方がイイのか・・・押しに弱いですもんね?小町さん」
すぅ、と目を細めてクスリと笑う日根君は、それはそれは悪役面でございました・・・。
コワイヨ、オレサマ!!!
「あらあら、凱君を本気にさせちゃうなんて・・・深山ちゃんったら罪な女ねぇ」
「違うもの!!私、日根君に好かれるようなこと、してないもの!!」
「なんていうのかしら・・・こう、ツンデレで、ギャップがあるのが良いのかしらねぇ」
小鳥遊店長はそう言って苦笑いをうかべる。
「ええ、たまりませんね。元々、外見は好みでしたし、担任で気心もしれてますし」
「・・・はぁ!?」
だからと言っていきなり落としにかかってくるのはどうかと思うのさ!!先生は!!
そう抗議をすれば、日根君はヤレヤレと肩を竦めた。
「小町さんを狙ってる連中は結構いたんですよ?でも、教師と学生の関係なので二の足踏んでたようですけど。
・・・俺的には好都合でしたよ、理事長もGOサイン出してくださいましたしね」
「理事長は愉快犯じゃないの・・・」
「でも、人を見る目はありますよ。俺と小町さんの相性が良いって言ったのは理事長ですし。俺が本気だってわかって、アッサリ許可くれたみたいですし」
「うぐ・・・」
「それに、落とし始めたら、すっごい好みの反応をしてくれるんで、ますます小町さんにハマっちゃいました」
てへぺろ☆彡
じゃない!!!
日根君曰く、婚約者もそろそろ決めないと周りがうるさくなってきていて、結構切羽詰まっていたらしい。
そんな時に私が担任になって、半年過ごす中でひととなりも理解してきて「深山先生みたいな人がお嫁さんに来てくれたらいいのに」という日根母の言葉で一気にその気になったと。
ちょいちょい!!日根母!!そんな目で見てたですか!!?
・・・んでもって、そういう目で見始めたら意外と(外見以外も)好みのタイプだと知り、今回の強行手段に打って出た、と。
マジでか。
「はっ!・・・しまった!!私、ちょろいんだった!!!」
ここまでのこのこついて来てしまった時点で逃げられないということに、今更ながらに気付いた。
婚約者前提で話が進んでるとは思ってもいなかった(せいぜい、恋人のフリ程度と認識)し、あっさりとイケメン武将と日根君のコスプレにつられ、日根父や日根母にも逃げ道を塞がれた。
まさか、日根家全体で私を嫁にしようと動いているとは・・・うかつだった。
でも、それが嫌だと感じてないのは、日根君が俺様のクセにフェミニストだからだろう。
・・・騙されてる。騙されてるぞ、私・・・。
でもなー、日根君イケメンだし。これって、玉の輿だし。
悪いトコと言えば、生徒に手ェ出したって思われそうなことだけど、きっとそこら辺は日根家がうまくやるんだろうなぁ・・・。
両親は結婚さえしてくれるなら、誰でも良いから連れてこい。連れて来ないなら強制お見合いだとか言ってたし・・・まぁ、日根君を連れてったら、腰抜かすかもなぁ・・・。
教え子と結婚・・・まぁ、良く聞く話ですけどね!!歳の差婚もここ最近ではさほど珍しくもなくなったしね!!
くそう・・・自分でも肯定し始めちまったよ・・・。
“orz”な格好になってしまった私を立ち上がらせて、日根君は困ったように笑った。
「・・・すみません」
「え?」
「これ以上、追いつめたくはないんですけど・・・今晩が本番なので。腹くくってくださいね?」
そう言った日根君の手に持たれていたドレスは、とんでもなく高価なものだともろわかりで・・・。
私は一瞬気が遠のきかけたのだった。




