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1.外堀を埋める

――side (がい)



「授業始めるぞー、席に着けー」


 あまり女らしくない言葉を発しながら我が担任様・深山小町(ふかやま こまち)先生(社会科・日本史担当)が入ってくる。


 小町先生はいわゆる歴女で、趣味が高じて仕事になってしまった典型的なパターンだ。まあ、それは別に問題は無い。ちょっとばかり専門的すぎてついて行けない時もあるけれど、キッチリ重要な部分は押さえている。


 問題はもっと他のことだ。


「よし、じゃあ、教科書の50ページを開いて・・・で、ここから、61ページまでを全部書き写して」


「ちょ、それ、軽くいじめじゃね!?」


 小町先生の指示が出た瞬間に、俺の斜め前に座っている芹沢留次(せりざわ るいじ)が立ち上がってツッコミを入れた。


 芹沢は親がとある会社社長の私的な使用人らしく、その親の後を継いで将来仕えることになる社長の後継者と一緒に生活をしている。


 まぁ、その後継者には結構な問題があるらしく、芹沢はしょっちゅう理不尽な目にあっている。そのせいかどうかは知らないが、異様にツッコミのスピードが速かったりするのだが、小町先生に対してこういう反応をするのは逆効果だ。


「んー・・・じゃあ、50ページから65ページまでにしよう」


「って、増えてるぅぅう!!」


 芹沢は本当に面白い奴だ。自分が反応する度に小町先生の表情が嬉々としたものに変わっているのに気付いていない。


 小町先生は真性のドSである。俺達生徒が腱鞘炎(けんしょうえん)になるくらいに板書(ばんしょ)や教科書の内容を書き写させたうえに重要な部分を口頭で説明して、こっちがパニくっているのを嬉々として見ているのが好きらしい。


 まったく、困った人だ。


「凱、どーしたー?すっごい悪い顔してるぞ?」


 俺が小町先生を見つめていると、横から仲路智宏(なかじ ともひろ)が不思議そうに声をかけてきた。


「悪い顔、してる?」


「してる。・・・生徒会で部費の折衝(せっしょう)やってる時以上の悪い顔」


 智宏とは生徒会の仲間で、智宏が会長で俺が会計をしている。そして生徒会予算から出る部費については、会計と部長会が折衝することになっていて、その時は“俺様”という異名が付く程に理不尽なことを言っているらしい。あまり自覚が無いんだが。


 しかし、その時以上の悪い顔か。


「そうか・・・悪い顔か・・・クク」


「うぁ・・・さらに悪い顔・・・」


 呻く智宏をよそに、俺は再び小町先生に視線を向ける。


 父について16歳から社交界に出てわかったのだが、俺はどうも年上の女性に好かれるらしい。年上が嫌いなわけではなかったので来るもの拒まずでいたら、いつしか“年上キラー”なんて呼ばれるようになってしまった。


 そんな俺が初めて自分から欲しいと思った人が担任で、しかもドSな歴女だなんて・・・。


 最初は勘違いかとも思ったが、コーディネートを任せているブティックの店長(恋愛伝道師の免許有)に「それは、恋よぉ!」と断定されてしまったし、間違いないのだろう。


 普通、教師と生徒の恋愛は在学中にバレると非常に面倒なことになる。が、この学校ではこんな“些細(ささい)なこと”にいちいち文句を言ってくる面倒な保護者はいない。約8割がいわゆる“お金持ち”で、会社の社長だったり医者だったりで、他所の家の事情に首を突っ込めるような立場じゃないからだ。


 とはいえ、教師と生徒だからという理由で逃げられるのも(しゃく)(さわ)るから、外堀から埋めることにした。



***



 それはある日の放課後。生徒会室に向かう途中で外堀を埋めるなら絶対に外せないという人とばったり行き会った。


「やあ、これから生徒会の活動かい?」


「はい、理事長。・・・珍しいですね?理事長がクラブハウスにいるなんて」


「ずっと管理棟の理事長室にこもっていたら運動不足になりそうだからさぁ・・・っていうのは建前で、学内で変わったことは無いか確認にね」


 この学校は生徒や教師だけでなく理事長も普通じゃない。なんていうか、異能持ちなのか?というくらいに人を見る目がある。なので、教職員採用の面接や入学希望者の面接も理事長が全て行う。多少の当たり外れはあるようだが、それも予定調和だというのだから空恐ろしい。


「そうですか」


「うん、面白いことになってるねぇ、君」


「・・・は?」


 唐突に言われて、俺は素で首を傾げた。


「いやいや、とぼけなくても良いよ。しかし、目の付け所が素晴らしいねぇ。相性は抜群だよ」


「・・・・・・理事長は占い師にでもなるべきだと思います」


 どうやら理事長は俺が小町先生を手に入れようとしてあちこちに手を回そうと準備をしていることに気付いていたようだ。――どこからの情報だ?


 それはともかくとして、俺と小町先生の相性は抜群なのか・・・なるほど・・・。


「彼女、手強いよー?」


「年上キラーをナメないでくださいよ。絶対にオトしますから」


「おおー・・・自信満々だねぇ・・・まぁ、頑張りたまえよ」


 ポンポンと俺の肩を叩いてどこぞへと向かって行く理事長の背中を見送り、俺はニヤリと笑った。


「これで最大の障害は消えた、と。さて、そろそろ本格的に動くことにしようか」



***



 とまあ、順調に外堀を埋め終えて、後は本人にアタックするのみ、という所まで来ている。


 さて、どう告白するべきか。

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