表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/16

第8話 下準備

 目立った物が無いのどかな町。

 大きいけど、それ以外には何も特徴の無い場所。

 それがルールーの町であった。


 人口はそれなりに多いらしく、すでに夕方だが買い物をしている人がたくさんいる。

 その数にルキアは圧倒されたらしく、畏縮して私の背後に隠れていた。


「これだけの人に襲いかかられたら……ひとたまりもない」


「悪いことしなければ、襲われることなんてないでしょ」


「でも私の存在自体が悪いことだと思われたら……」


「ネガティブすぎるのにも程がある! 生きてるだけで丸儲けなんて言葉もあるぐらいなんだから、存在してるのは良いことなんだよ」


「チドリさんがそう言ってくれるなら、ちょっとは自分を信じられるかも……ってやっぱり無理だ」


 私が言ったことにルキアは一瞬だけ明るい顔をするが、すぐに落ち込んでしまう。

 自分ほど信じられない者はいないのか、自身を持つのは無理みたい。

 なんて後ろ向きな子なんだろうと、私は呆れるばかり。


「今日は何を食べるのですか? できるならチドリ様の世界の食べ物を食べたいですわ」


「私の世界の食べ物か……食材によるだろうけど、何が作れるかな」


 商店が立ち並ぶ通りで、商品を見て回る。

 もう時間も時間だから、そう長く見て回る暇は無い。

 すぐに決めないといけないのだが、作る物が思い浮かばないなぁ。


「うーん……調味料も買わないとだからなぁ」


「調味料はあるなの」


「調味料がある!?」


 自分の世界の料理を振る舞うにしても、調味料が無ければ再現は不可能だろう。

 だけどリリルは調味料があると言ってくれるではないか。

 まさかそんな都合のいい話が……あるんだろうなぁ。


「キャンピングカーには調味料が置いてあるなの」


「それは嬉しすぎるんだけど」


「良かったなの」


 私が親指を立てると、リリルは親指と人差し指で丸を作る。

 その動作が可愛らしく、彼女をギュッと抱きしめる。


「調味料があるなら作れる物も多いかも。あ、これ買って帰ろうっと」


「チドリ様の料理、楽しみですわ」


「あの、私もいただいていいんですかね? 私みたいな者がいただくのもおこがましいのですが」


「別にいいよ。ご飯は皆で食べた方が楽しいしね」


 卑屈になるルキアを横目に、私は苦笑いを浮かべる。

 よし、ともかく作る料理は決まったぞ。 

 後は上手く作れるかどうか、一番の問題点はそこだな!


 ◇◇◇◇◇◇◇


「うわーすごい。星がいっぱいだぁ」


 町を出る頃には外は暗くなっており、空には満天の星々。

 その壮大な景色に感嘆の声をあげつつ、私はキャンピングカーの中に入る。


「ここに調味料があるなの」


「どれどれ」


 リリルに調味料がある場所に案内してもらう。

 キャンピングカーの後方部位――ギャレーというらしいが、ベッドなどがあるその場所に併用されているキッチンの上にある棚をリリルは指さした。


 少し背伸びをしないと届かないが……中には確かに調味料があり、充実したそのラインナップに、私は驚きの声を出した。


「すごっ。醤油に中濃ソース、それからラー油にごま油、オリーブオイルまであるな……」


 奥の方にぎっしりと詰まった調味料の数々。

 だが私はそこで、とある異変に気づく。

 何かがおかしい。

 何がおかしいのだろうと数秒悩み、私はそこでハッとする。


「え、ちょっと待って……」


 私はキャンピングカーから出て、その構造を確認する。

 いや、やっぱりおかしい。

 違和感の正体はこれだったんだ。


「棚の奥行、完全に車のそれを超えてるんですけど!」


 すさまじい数がある調味料。

 その棚の奥行が、どう考えてもキャンピングカーを飛び出ている。

 なのに外には出ていない不思議。

 理解できないことが起こっており、私は軽いパニック状態に陥る。


「この棚にはチドリ様のいた世界のあらゆる調味料が収納されているなの。奥行きは無限に広がっているなの」


「そうなんだ……えええっ」


 驚きのあまり言葉を失ってしまう。

 まさか無限に広がっているとは……

 まぁ地下室があるようなキャンピングカーだし、こんなことでいちいち驚いていたら身が持たない。

 自分の想像を超えた、超次元のキャンピングカー。

 分からないことはどれだけ考えても分からないし、これはこういうものなんだと思っておこう。


「でもこれだけ調味料があったら、探すのに手間取るなぁ」


「それも問題無いなの。欲しい調味料を想像しながら棚を開けてみるなの」


「欲しい調味料を想像しながら?」


 リリルがおかしなことを言うが、彼女は常に正しい情報を伝えてくれている。

 きっとまた驚くようなことが起こるに違いない。


 私は頭の中に、『お好み焼きソース』を思い浮かべる。

 一度関西に行った時に見たことがあるソースだ。

 元の世界のあらゆる調味料があるのかどうか、試すのにも丁度いいだろう。


 私は調味料の入った棚を開く。

 すると先ほどととは置かれている調味料に変化があり、一番手前にお好み焼きソースがあるではないか!


「え、どうなってるの……」


「チドリ様の意志に反応して、必要な調味料を用意してくれるシステムになってるなの」



「えええ……凄いというか、ちょっと怖いまであるなぁ」


 あまりにも至れり尽くせりで、変な笑いが出てしまう。

 まぁ便利だからそれで良しとするか。


 ふと立体駐車場のことを思い出す。

 機械で車を出してくれる、あのシステムだ。

 ちょっと違うけど、そういうものだと思って納得しよう。


「それで何を作ってくれるのですか」


「ちょっと待っててよ。できてからのお楽しみ」


 シャルとルキアは、キャンピングカーのシステムと調味料に興味を示しており、どんな料理が出て来るのか楽しみで仕方がないようだ。

 私は笑いながら、料理を振る舞うためにキッチンに立つ。


 買ってきた野菜と肉を切っていく。

 ここでの工程はこれで終了、簡単なものだ。


「シャル、ルキア。これに串を刺していってくれないかな」


「承知しました!」


「おまかせあれ。食べさせてもらうのに、これぐらいはやらないとね」


 切った具材を簡単に湯通しなどした物に、串を刺していくシャルとルキア。

 私はキャンピングカーを出ると、リリルが出入り口にテントを張ってくれていた。

 出入り口と向こう側がトンネルになっており、左右と天井に幕が張られれている。


「おお、雰囲気いいねぇ。さすがリリル」


「えっへんなの」


 リリルの可愛らしさにほっこりしつつ、あらかじめ集めておいた枯れ木をテントの外側の足元に置く。

 するとリリルが炎の魔術でそれに火を点け、あっという間に焚き火の出来上がりだ。


「キャンプってしたことないけど、こういうのなんだかワクワクするね」


「リリルもワクワクするなの。チドリ様とキャンプ、楽しみなの!」


 リリルはいくつか小さな椅子を用意してくれていたようで、私は焚き火きを囲むようにしてそれを置いていく。

 しかし有能な仲間がいると、色々と助かるなぁ。

 リリルがいなかったら、こんなスムーズに焚き火の準備などもできてなかっただろうし。


「チドリ様、これを使うなの」


 そしてリリルは、私が用意してほしかった網を持ってどこからともなく取り出してきた。


「リリル、ちょっと役に立ち過ぎなんだけど。本当に有能だよね、君」


「チドリ様の役に立つために存在してるなの、リリルは」


「そんなリリルが大好き! ずっと一緒にいてよね」


「うんなの!」


 リリルが私の肩に乗り、頬ずりをしてくる。

 私は癒しを覚えながら、リリルが用意してくれた網を焚き火の上に設置する。

 それからその上に鍋を置き、さきほど購入しておいたチーズをドサッと投入した。


「これに片栗粉を入れてニンニクと牛乳も入れてと……これで完成だ!」


 私の声に反応したのか、シャルとルキアがキャンピングカーから出て来る。


「わぁ……これがチドリ様の世界の料理ですの?」


「そう。皆の口に合ったらいいんだけどな」


 私が作った物を皆が興味深そうにのぞき込む。

 美味しくできてたら嬉しいな、なんて思いながら、私は皆の顔を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ