第7話 ルキア・フェザント
リリルが目を閉じ、彼女との意識がリンクする。
どんな能力を使えるのか把握し、私は両手を前に突き出した。
「【リリル・ファイヤー】!」
両手から連続で炎が吐き出され、キラービーたちを飲み込んでいく。
その威力と迫力にシャルは目を丸くして硬直していた。
「な、なんて威力ですの……」
一撃一撃爆風が巻き起こり、その衝撃に私たちの髪が激しく揺れる。
まさかここまでの威力を出すことができるとは……私の魔力高すぎじゃない?
「リリル、これでも十分強いと思うんだけど」
「リリルの能力を使う場合、チドリ様が発揮できる力は二十分の一程度なの。チドリ様の魔力はこんなものじゃないなの」
「えええっ!? これでもまだ全力ではないのですか?」
「そうなの。チドリ様はもっともっと強い力を使うことができるなの」
シャルに対して、胸を張ってそんなことを言うリリル。
まるで自慢のように見えるその行為。
でもそれだけの力が私にはあるのかなぁ。
今の攻撃でも強いのに、まさかに十分の一ぐらいの力なんて、信じられないまである。
「とにかくこれでキラービーは終わりだね――」
炎上する大地を眺め、余裕の表情を浮かべる私。
だがそれがいけなかった。
油断してはいけなかったのだ。
炎を切り裂くように、一匹のキラービーが私たちに迫る。
「まだ生き残りがいた!」
「チドリ様、危ないですわ!」
キラービーが尾にある針を私に突き刺そうとしている。
だが相手の攻撃が届く前に、横からシャルが敵を殴りつけた。
「――――」
ドゴォォン! と大砲を撃ったような音と共に、キラービーは空の彼方へと飛んで行く。
その威力に私とリリルは唖然とし、シャルのポカンとした顔を眺めた。
「シャル……凄い力」
「モンスターを殴ったのは初めてですが……こんなに強かったですね、私」
シャルは自分自身で驚いている様子。
そうか、彼女は鬼の力をその身に秘めている。
まさに鬼のような強さを持っているというわけだ。
「鬼の力か、強いんだね」
「シャル、心強いなの」
「あはは……これでチドリ様とリリル様をお守りすることができれば幸いですわ」
私とリリル、それにシャルがいれば無敵なのでは?
そう思えるほど、私たちには力が充実しているように感じられていた。
「あ、あのー……」
「はい?」
車の方から声が聞こえ、振り向くと怯えた表情でこちらを見る美女の姿があった。
隠れるようにして窓から顔だけを出す女性。
そういやいたなと、今更ながら思い出す。
「モンスターはどうなったのかな?」
「倒したよ。もういない」
「良かった~……死ぬかと思ったよぉ」
勢いよく泣き出す女性。
相当怖かったのか、ヘナヘナと窓に倒れ込んでしまう。
「えっと、モンスターに追いかけられるなんて、何があったの?」
「聞いてくれる? 私ってこう見えて怖がりなんだ」
それは見たままのことなので驚きもしないけど。
でも彼女は真面目に話をしているので、ツッコむようなこともしなかった。
「なのにモンスターがいる山まで食料を採りに行けって……そんなのできっこないのに町の人に言われちゃったの」
「それでモンスターに出くわせて、追いかけられたってわけだ」
「うん。ああ、何も持って帰らなかったら何言われるんだろう……想像するだけでも怖い」
女性はガタガタと震え出す。
本当に怖がりなんだな、この子は。
まぁモンスターが怖いというのは仕方ないことだよね。
私たちだって能力があるから勝てるってだけで、力が無かったらどうしようもない。
なので彼女が怯える気持ちは分かるような気がする。
「私は千鳥。桃山千鳥。あなたの名前を教えてくれないかな」
「ルキア・フェザント。獣人・鳥族のルキア」
「わたくしはシャルトーチ・ビルライラです。よろしくお願いしますわ」
「リリルはリリルなの」
彼女の名前はルキアというらしい。
ルキアは周囲にモンスターがいないか警戒しながら、キャンピングカーから出て来る。
「ああ……食料はどうしたらいいのかしら」
「食料ね。今から町で食料を買いに行くつもりだけど、それを手渡してもあまり意味はないよね」
「なんでないのですか?」
シャルが少し首を傾げながらそう聞いてくる。
私は溜息をついて、彼女に説明をすることに。
「私たちが食料を渡したところで、問題の解決策にはなってないからだよ。今回はそれでいいかもだけど、次にまた同じことを頼まれてもできないってことでしょ」
「なるほど、一時しのぎでしかない……ってことですわね」
「そういうこと。食料をあげてもいいけど、ルキアのためにはならないんじゃないかな」
「ああ……なんて不幸な種族に生まれてしまったのかしら」
嘆くルキア。
獣人が不幸だなんて、どういう考えなのだろう。
私は意味が分からず彼女を見ていると、リリルが説明をしてくれる。
「獣人は狩りを基本とした生活をしているなの。田植えなんかする獣人はごくまれにしかいないなの」
「へー。要するに狩りが苦手だから不幸って話か……慣れたらいいんじゃない?」
「そんな簡単に言わないでぇ。狩りとか本当に無理だから」
消え入りそうな声で嘆くルキア。
まぁ人それぞれ、向き不向きはあるからな。
でも獣人としてはそれは必要なことらしいので、何とも言えない。
「じゃあ畑仕事をしたらいいんじゃない?」
「町の人が許してくれない。そんなことするぐらいなら、勇ましく狩りをしろって」
「そうなんだ……そうか」
町のしきたりなのだろうか?
彼女からすれば、確かに不幸なのかも知れない。
元の世界では、親によっては生き方を指定するようなところもあるが、基本的には自由に生きて良かった。
それを制限されるとなると、確かに辛いものがあるな。
私だって公務員になれとか議員になれとか言われたら……考えるだけで吐き気がする。
今更ながら、自由に生活をさせてくれていた両親に感謝だな。
そんな時、私のお腹がグーッと鳴る。
空腹を知らせる音だ。
そしてルキアのお腹も同時に空腹を訴えかけていた。
「食べる物が何も無い……もう飢え死にして、来世に賭けるしかないのかな」
「諦めが良すぎだよ! 晩御飯ぐらい奢るからさ、その、元気出しなよ」
「えっと、そんなことしてもらっていいのかな?」
「いいんじゃありませんか? チドリ様はお優しい方なので」
「で、ではお世話になります。ありがとう、チドリさん」
私が優しいかどうかは分からないが、こんな風に困っている人を放っては置けないな。
苦笑いを浮かべながら、ルキアに向かって親指を立てる。
「ってことで食料の調達に行こうか。ルールーの町で買い出ししよう」
「キラービーを倒したことでお金も手に入ったなの」
「わたくし気になっていたのですが、どういう仕組みになっているのですか? モンスターを倒してお金が手に入るなんて……聞いたことありませんわ」
「それはチドリ様の能力なの。普通じゃないのがチドリ様なの」
また胸を張ってそう発言するリリル。
キャンピングカー含めて私の能力なんだろうけど、確かに不思議なことだよな。
モンスターを倒すだけでお金が手に入るなんて、ゲームじゃないんだから。
なんて、ゲームの世界に転移してそんな思案をする私。
もうこの世界を現実だと受け入れているのだろう。
そして現実の世界で生きるということはお腹がへるのも事実。
ということで私たちはルールーの町へ行くことにした。
美味しいものがあればいいんだけどなぁ。
キャンピングカーで入り口まで移動し、私たちは町へと足を踏み入れるのであった。




