第6話 キラービー
キャンピングカーを走らせること2時間。
時刻は午後5時。
空は赤く染まり、漆黒が訪れようとしている。
何故時間が分かるかって?
それはキャンピングカーの機能に時計が搭載されているからだ。
運転席と助手席のちょうど真ん中にカーナビがあり、そこに時間が表示されている。
時計があるのがこんなに便利だと思ったことはない。
文明の利器って、素晴らしいものなんだなと実感する私であった。
「そういえば、燃料はどうすればいいんだろう。ずっと走れるわけじゃないよね」
ふとガソリンのことを思い出し、私はそんなことを口にする。
ガソリンが無かったら止まるだろうし、補給はどうすればいいんだ?
「大丈夫なの。この車は自動的に燃料を補給するシステムになってるなの」
「そうなの!? なんて便利なの、私のキャンピングカー……」
「燃料って、なんですの?」
「走るためのエネルギーかな」
「うんなの。魔術を使用するのに魔力が必要なように、車を走らせるには燃料が必要なの」
シャルはキャンピングカーを受け入れているようだが、不思議に思うことが多々あるらしく、何度も質問をしてくる。
まぁいきなり車が登場したらそうなるよね。
元から知ってる私とリリルからすれば常識だけど、何も知らなかったらただの脅威でしかないだろう。
うん、よく受け入れてくれたものだ。
シャルの膝に座っているリリルは、時間を確認してこちらに視線を向ける。
「チドリ様。そろそろ晩御飯の用意するのもいいかもなの」
「確かに……こっちに来てから何も食べてないし、お腹空いてきたなぁ」
「食料はどうしますか?」
「うーん……どこか近くに町でもあればいいんだけど」
錬金術で食料を生み出すことは流石にできないらしく、どこかで調達をしなければならないらしい。
するとリリルがカーナビを操作し、町がある場所を探し始める。
「ここから少し西に行った場所に町があるなの」
「本当だ」
「えっと……なんでこの周囲のことがこれで分かりますの?」
「うーん……不思議だよね!」
すでにこの世界の地図が内蔵されているのかも知れないが、私にも詳しいことは分からない。
不思議がるシャルであったが、私も説明はできないのでそう答えておいた。
この辺りも草原となっているのだが、ここからでは町は見えない。
しかしカーナビが示すように町はあるのだろう。
リリルが起動したナビに従い、町の方角へとハンドルを切る。
「あった。ルールーの町だってさ」
「ルールー、聞いたことはありましたが、こんな場所にあったのですね」
町の名前はカーナビに表示されており、シャルも知っている場所だったようだ。
だが来たことはないらしく、興味深そうな顔でルールーの町を眺めている。
「ギャーーーー!! 助けてー!!」
「え、何の声?」
「助けを求める声ですわ」
「あそこに人がいるなの!」
突然聞こえてきた声。
声の主はリリルが一番に見つける。
ルールーの町を前方に、左上に人影が見えた。
「飛んでる……獣人?」
「そうみたいですわ。鳥族の獣人です」
この世界には人間以外に鬼人、獣人、龍人など、多種多様な種族がある。
声の主は獣人らしく、その中で翼が生えた鳥族のようだ。
そしてその人は女性のようだった。
緑色の長い髪、背中には大きな翼、背は高いように感じるが……空を飛んでいるし距離があるからハッキリとは分からない。
だがその美貌だけは確かなものだと理解できる。
銀色の瞳は大きく、二次元から飛び出してきたような可愛らしさ。
服は白いワンピース風の物で着飾っており、シンプルながらよく似合う。
そんな彼女は涙を流しながら逃げているようで、私は彼女の方へと車を走らせる。
「なんだかシャルの時と似たような状況」
「あはは……さきほどはお世話になりました」
逃げてるってことは何かに追われてるってことだ。
そして彼女の背後には、ハチを大きくしたようなモンスターが数十匹いる。
「あれに追われてるってわけだ。でも空を飛んでるんじゃ、轢くこともできないよね」
「どうしますか?」
「どうする……何ができるんだろ」
私とシャルは冒険を始めたばかりで、自分たちにできることはまだ理解できていない。
車で敵を倒してきたが、直接モンスターと戦うことはまだしていないのだ。
どうすればいいか分からず、だが彼女を助けるために車は走らせていた。
「直接倒せばいいなの。キラービーはそんなに強いモンスターじゃないなの。チドリ様なら倒せるはずなの」
「私に倒せる?」
「もちろんなの。リリルも協力するなの」
空を飛ぶ女性に近づく。
彼女は必死な形相をしており、車を見た瞬間にそれが驚きのものに変わったのがこちらから見えた。
「また化け物!!」
「あー……何も知らなかったら化け物に見えるのかな」
「私も驚きましたし、今でもまだ受け入れきれていませんからねぇ」
車を旋回させるようにして、進行方向を180度変更する。
そして窓を開き、空を飛ぶ女性に声をかけた。
「こっちに来て! 私たち、人間だから」
「え、えええ!? 人間さんですか……」
ビクビクしつつも、女性は車へと近づいて来る。
背後にいるキラービーとの距離はそう遠くない。
そのうち追いつかれてしまうかも。
そんなことを考える。
「あ、待てよ……全力で走っても逃げられるかも」
「そんなに早く走れるのですか?」
「うん。まだまだ全力を出してないしね」
「ちょっと待ってなの」
全力で逃げるのもありかと思案したのだが……それをリリルに阻止される。
「モンスターを倒せばお金を稼げるなの。それにチドリ様には戦い方を学んでほしいなの」
「なるほど。お金も稼げて戦い方を学べて一石二鳥なんだ。ここはリリルのことを信用して、戦うとしますか」
「私も戦います。足手まといにならないよう、精進してまいりますわ」
シャルの心強い言葉に、勇気が湧いてくる。
一緒に戦ってくれる仲間がいるだけで、こんな気持ちが楽になるなんて。
リリルもいるし、これは勝利確定でしょう。
私は車を止め、すぐさま外へと飛び出す。
それと同時に飛んでいた女性は車の中へと逃げ込むように入って行く。
「車の中に逃げた!?」
「ごめんなさい~! 私、怖いの苦手なんですぅ」
少し呆れつつも、キラービーの方に向く私たち。
するとリリルは私の肩に飛び乗り、耳元で話し始める。
「チドリ様と意識をリンクすると、チドリ様はリリルの能力を使うことができるなの」
「そうなんだ。それって最強だね」
「そうでもないなの」
「そうでもないのかーい!」
リリルの力が使えるのは便利で最高だと思ったが、少し違うようだ。
何が違うのか分からないし、どんなことができるのかも分からない。
なのでリリルの説明を静かに聞くことにした。
「リリルは戦う力も持っているなの。チドリ様と一緒に戦うとその力は増幅するなの」
「やっぱり最強じゃない?」
「でもチドリ様は一人で戦った方が強いなの。リリルの力はあくまで補助ぐらいに思ってほしいなの」
「そうなんだ……でも私の力って、どうやって使えばいいの?」
「チドリ様は膨大な魔力の持ち主なの。でもそれを放出する能力は無いなの」
「なんてこと……私ってもしかして、無能?」
リリルが言ったことに愕然とする私。
高い魔力を生かす能力は無い。
強い弾はあるけど、それを打ち出す砲台が無いようなものかな。
「でも、王様に炎を使うことはできたよね」
「あれはリリルの能力なの」
「あれがリリルの能力か……でも結構強かったんじゃない、あれ」
「うんなの。要するに、あれぐらいのモンスターなら、リリルとチドリ様が協力したらあっさり勝てるなの」
「なんだ、それを聞いて安心した。じゃあさっさとハチ軍団を倒すとしましょうか」
襲い来るハチの軍団。
私たちは深呼吸し、その軍団との戦いに移行する。




