第5話 旅の始まり
「あの……あの……」
シャルトーチは失礼が無いように言葉を選んでいるように見えた。
さっきは暴走して暴言ばかりを吐いていたからなぁ……気にしてるんだ。
しかし彼女はようやく意を決したのか、こちらを真っ直ぐに見ながら口を開く。
「私のために薬を用意してくれませんか?」
「え、それだけ?」
「それだけって……これだけの物を作れる方は他にはいません。だからお願いしているのです」
「あはははは……そうなのかな」
鬼の衝動を抑える毒消しなんて作れる者は、確かに他にはいないかも。
シャルトーチは鬼のことで悩んでいるから、喉から手が出るほど欲しがるのも無理はない。
あまりお金のかからない毒消しだし、こんなぐらいならいつでも用意してあげるけどね。
「いいよ、作ってあげる」
「ありがとうございます!」
パーッと明るい表情を浮かべるシャルトーチ。
私は胸の中に歓喜を感じつつ、別の話をする。
「でもシャルトーチ、それは根本的な解決にはならないよ」
「え……?」
「私の作った薬は恐らく一時的に症状を抑えているだけで、シャルトーチの『病気』が治ったわけじゃない。だから問題は何も解決しないって話」
「…………」
明るかったシャルトーチはまた暗い表情に変化する。
自分の言ったことが正しいのか確認するためにリリルに顔を向けると、彼女は頷いて話始めた。
「チドリ様の言っていることは正しいなの。チドリ様の薬でも病気は治せないなの」
「治っていない……抑えているだけ」
「そう。私が与える薬だけじゃダメなんだよ」
この世界に来て、やりたいことが見つかった。
この瞬間、私はそれを感じ出す。
「だからさ……病気を治す旅に出ない?」
「病気を治す……?」
「うん。えっと、言いにくいんだけど……国王があなたの元婚約者のライルと『魔女』と結婚させるつもりらしくて」
「…………」
ライルの名前を聞き、より一層表情に影を落とすシャルトーチ。
彼女は心の底からライルのことを慕っている。
だからこその悲しみ。
その気持ちが分かるような気がして、私は深いため息をつく。
「それなら仕方ありませんわね」
「仕方ないで終わらせちゃダメだってば」
「え?」
「まだライルが魔女と結婚すると決まったわけじゃない。まだ可能性はあるんだから」
「可能性なんて、ありませんわ」
諦めがついたような顔。
シャルトーチは国のことも考え、ライルとの別れに同意したのだろう。
でも、魔女とライルが結ばれなくても国は救われる。
シャルトーチを乗っ取った鬼を倒すことによって世界は救われるのだ。
「可能性しかないって。だってシャルトーチにも私にも――」
私は大袈裟に手を広げてみせる。
「こんなに広い世界が――未来が広がっているんだから!」
大空に浮かぶ太陽。
シャルトーチはそれを見て目を細める。
そして急に吹き出し、泣きそうになるほど笑い出す。
「世界が広がっているなんて……そんな当たり前のこと!」
「わ、悪いわね。当たり前のことを言っちゃって」
「いいえ。でもそうですわね。当たり前のことですわ。世界が広がっていることも、未来が広がっていることも」
シャルトーチの目から迷いが消え失せる。
キラキラした目で空を見上げた。
「この病気が治る可能性だって、無きにしも非ずですわね」
「そうよ。きっと世界のどこかに、シャルトーチの病気を治す手段があるはずよ」
それはゲームの中では存在しなかったこと。
でも私は『ゲームの外側』に踏み出すことが出来た。
それはきっと、ゲーム内ではできなかったことができるってこと。
確信は無いが、自信はある。
シャルトーチを鬼から解放させることができるはずだと。
自分がやりたいこと、それは――
ゲームでは見れなかったエンディングを迎えること。
ゲームでは不可能だったことが、この現実では可能なはず。
死ぬ運命にあるシャルトーチを救い、それから彼女とライルをくっつける。
それが私の望むことだ。
まるでピントがあったように色んなものが明確になる。
私はリリルとシャルトーチと共に、鬼の衝動から解放される旅に出るんだ。
「ってことで旅に出よう。病気を治す手段を探す旅に」
「……でも迷惑をかけないでしょうか。私、あの町のこと以外は何も知らなくて」
「余計いいじゃない。世界を知るいい機会になるよ。世界を知っておけば、ライルと結婚した後に役立つはずだし」
「ふふふ。ライル様と私が結ばれることを疑ってもいないのですね」
私は胸を張って「当然」と言い放つ。
「では私も信じてみます。自分の可能性と、チドリ様の言葉を」
「うん。きっと見つかるはずだよ。私たちの願う未来へ続く鍵が。大変なことも辛いこともあるけど、世界には救いもあるんだから」
私とシャルトーチは握手を交す。
リリルも私の手に乗り、その上に小さな手を置く。
「一緒に探すなの」
「うん、リリルも一緒だね。あ、シャルトーチ」
「何でしょうか?」
「シャルトーチって長いからさ……『シャル』って呼んでもいいかな?」
「是非そうしてください! お友達の呼び名みたいで嬉しいですわ」
眩い笑顔を咲かせるシャル。
こうして私たちの旅は始まるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇
旅をするにも服は大事。
私は仕事着、シャルはドレスときたものだ。
こんな格好で旅をするなんて恰好がつかないと思い、錬金術で服を作成することに。
だがお金が足りなかったので、モンスターを轢き殺……討伐して金策をした。
「わー、こんな格好したの初めてですわ!」
冒険者風の恰好になった私たち。
私は黒い服に短いスカート、可愛いながらに動きやすい服装だ。
シャルにはチャイナ服と冒険者らしい服を融合させた物があったのでそれをチョイス。
東洋系ではない彼女がチャイナ風を着るというそのアンバランスを狙ったのだが……これがまた可愛い。
似合うと思って選んだのは正解だ。
さらにポニーテールにしているのがまたとんでもなく美しい。
「二人とも可愛いなの」
私たちを褒めてくれるリリル。
でも彼女は何も着ていなかったので、私はリリルにプレゼントを渡す。
「はいリリル。これリリルの服ね」
「え……リリルにもあるなの?」
「当然じゃない。私たち仲間でしょ」
「ありがとうなの!」
リリルに内緒で服を作っておいて良かった。
嬉しそうにリリルは着替えをして、私と似たような恰好になる。
「お揃いみたいで嬉しいなの」
「仲間の証拠だよね」
「ええ、仲間の証拠ですわ」
手袋をしたシャルは、その手で口元を隠しながら笑う。
その所作がお嬢様らしく、冒険者の恰好をしてもそういう部分は隠しきれないのだと私も笑った。
「準備は整ったし、どこへ向かおうかな。王都以外のことは知らないんだよね」
「病気を治す手段……その手掛かりもありませんしね」
「ここは国の丁度真ん中にあるなの。だからどの方角にも向かえるなの」
「東西南北自由自在……余計に迷っちゃうなぁ」
向かう方角を決めることができなかった私だが、そこでとある名案が浮かび上がる。
ニヤッとしながら二人にその提案をした。
「じゃあさ……三人でじゃんけんして決めない?」
「じゃんけんですか?」
「うん。私が勝ったら南。リリルが勝ったら西、シャルが勝ったら東」
「分かったなの」
「よーし、じゃあそれで決定ね。じゃんけん――」
同時に手を出す私たち。
「ぽん!」
結果は――全員グーであった。
「全員同じ……もう一度します?」
「あいこも運命なのかもね。この際だから北に行っちゃう?」
「賛成なの。勝ち負けのない仲良しで北に向かうなの!」
「それで決定ですわね。では向かいましょう」
「オッケー。私たちの冒険……シャルの病気を治す旅にいざ出発だ!」
「おーなの」
「おーですわ」
私たちが向かう方角も決まった。
大変なこともあるだろうけど、楽しい旅になるに違いない。
二人の笑顔を見ているとそんなことを確信できる。
私は運転席に座り、わくわくした気分でエンジンをかけるのであった。




