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第3話 シャルトーチ・ビルライラ

「あれ……何かに追いかけられてる?」


「そうみたいなの。どうするなの?」


「そりゃ決まってるじゃない。眺めてるだけ」


「眺めてるだけなの!?」


「って、そんな非人道的なことはできないよねぇ」


 逃げている人をしっかりと視認する。

 どうやら女性のようだ。

 そして彼女を追いかけるのはモンスター。

 小さな鬼のような見た目のゴブリンだ。


 体は緑色で子供ぐらいの大きさしかない。

 しかし殺気を放つその姿は、まさに化け物であった。


 逃げている女性は息を切らせながらも走っている。

 追いつかれたら殺されるだろう。


 このままにしてはいけないと考え、私はキャンピングカーのハンドルを握り締めた。


「何をするなの?」


「助けに行かなきゃでしょ」


「うんなの!」


 車の免許は持っていたので運転は何とかできそうだ。

 と言っても公道を運転したこともないペーパードライバーではあるが……

 でもこれだけ広い場所なら何かにぶつかる心配は無い。

 心置きなく運転していいだろう。


 エンジンをかけると、私の思いと同期するように車全体が震え出す。

 電子制御のパーキングブレーキを解除し、全力でアクセルを踏みつける。


「どこかに掴まってて」


 前だけを見て走る私がそう言うと、隣でリリルが頷く気配を感じる。

 車のスピードメーターがグングン上がっていく。

 あれ……この車、もしかして速い?


 あっという間に100キロに到達し、女性との距離が一気に縮まる。

 しかし問題はここからどうやって助けるかだ。

 女性が驚く顔が見え、私は目をつむってさらにアクセルを踏み込んだ。


「もう知らない、行け!」


「何するのなの!?」


 グシャッと何かをはねる衝撃を感じる。

 私は女性を避け――ゴブリンを車ではねてやった。


「うわー……まさか意図的に人身事故を起こすことになるなんて」


 相手はゴブリンだから人身事故ではないのだろうが、それでも何だか嫌な感覚がある。

 でもこれで女性は助けられるはずだ。

 

 ゴブリンはまだいるようだが、リリルに助手席のドアを開けてもらう。


「乗って!」


「え……?」


「いいから早く!」


「は、はい」


 女性がキャンピングカーに乗り込む。

 それを確認し、車を走らせる。


「どいてどいて! 死んでも知らないよ」


 ゴブリンは十匹以上いたようだが、私は次々に轢いて行く。

 悪く思わないでね。

 生き残るためには仕方ないことなのよ。


「チドリ様」


「何? 今必死なんだけど」


「お金が手に入ったなの」


「何で!?」


 私の耳元でリリルがそんなことを教えてくれるが……意味が分からず私はリリルの方を見る。


「モンスターを倒したからお金が手に入ったなの」


「車で轢いただけなんだけど。轢き逃げしただけなんだけど!」


「キャンピングカーはチドリ様の能力なの。能力でモンスターを倒したらお金が入るのは常識なの」


「常識なの? そんなの知らないし」


「うんなの。これをこうしたら……はい、これで見れるなの」


 カーナビを操作するリリル。

 するとそこには何やら金額のような物が表示されている。

 システムの意味が分からず、私は苦笑するのみ。

 どうなってるのよ、本当に。


 チラッと横にいる女性を見るが……間違いない、彼女のことは知っている。

 一目見た時からもしかしてと思っていたが、確定だ。


 ウェーブのかかった赤髪は膝裏ぐらいまで伸びており、手入れされているのだろう驚くほどにツヤツヤ。

 顔は可愛いというより美人タイプ。

 赤い瞳に桃色の唇。

 背は普通ぐらいだがプロポーションは完璧と言っても過言ではないほどに整っている。


 彼女の名前はシャルトーチ・ビルライラ。

 『ラグナロクエンジェルハート』に登場する、いわゆる悪役令嬢だ。


 彼女、シャルトーチはライルと婚約しているのだが……国のためを思って行動するライルには早々に振られてしまう。

 元から癇癪を起したり人に暴力を振るったりなど、酷い行動をしていたのが原因なのだが。

 

 ともかく、そのシャルトーチが私の目の前にいる。 

 まさかの出会いに、私は再び苦笑を浮かべた。


「えっと……大丈夫?」


「ありがとうございます。助かりましたわ」


「どういたしまして。でも何で町の外に一人で?」


「…………」


 何やら事情があるのか、俯いてしまうシャルトーチ。

 これは何も言うつもりはないだろうと察した私は、自己紹介を先に済ませることにした。

 こういう沈黙、苦手なんだよねぇ。


「自己紹介がまだだったわね。私は桃山千鳥。あなたは?」


「チドリ様……私はシャルトーチ。シャルトーチ・ビルライラですわ」


 顔を上げたシャルトーチは、傲慢とも見える態度で自分の名前を名乗る。

 ゲーム通りの女の子なんだな。

 破滅一直線の悪役令嬢。

 救いようのないシナリオは、可哀想だったな。


「ううう……」


「どこか痛いの?」


「む、胸が苦しい……」


 突如、胸を抑えて痛みを訴えるシャルトーチ。

 体からは黒い瘴気のようなものが立ちのぼる。


 ああ、彼女はそうだった。

 ゲームをやりつくした私は彼女の置かれた状況、状態、全てを把握している。


 彼女は鬼に取り憑かれているのだ。

 ゲームが始まる1年前、自身の保管庫からとある宝玉を見つけるシャルトーチ。

 それは鬼を封印した物で、シャルトーチは宝玉に触れて中にいる鬼に取り憑かれてしまった。


 それから自分の感情を制御できなくなり、周囲に当たったり暴力を振るったりなど、悪役令嬢らしい振る舞いをするようになったのだ。

 ライルに見限られたのもそれが原因。

 元から悪い子なんじゃなく、不幸な女の子だったのだ。


 シャルトーチの背景を知っている私は、苦しむ彼女を見て胸が締め付けられるような気分を味わっていた。

 本来なら幸せな人生を歩んでいたはずなのに、鬼に取り憑かれてしまったが故に不幸になってしまう。


 私は彼女の肩に手を置き、心の底から彼女を案ずる。


「具合、良くなりそう?」


「黙りなさい! 私みたいな高貴な人間に気安く触れないでください!」


 まさに鬼のような形相でそう怒鳴るシャルトーチ。

 だけど私は知っている、これは彼女の本心ではないと。


 シャルトーチから手を放し、何かできることがないかと模索する。

 ゲームの知識はあるのだが……ハッキリ言って、彼女を救う手段は無い。


 最終的に鬼に飲み込まれてしまうシャルトーチは、肉体を鬼に奪われラスボスになるというのがゲームにおける彼女の結末だ。

 どんなルートを辿ろうと、それだけは変わることの無い未来。


 要するに助ける手立てはない。

 彼女が壊れるまでどうすることもできないのだ。


 肩に乗るリリルに私は目を向け、大きくため息をつく。


「シャルトーチを助けてあげることってできないよね。って、リリルにそんなこと聞いても――」


「助けられるなの」


「だよねー、そんなの分かって――って、助けられる!?」


 驚きに目を見開き、私はリリルの両肩をガッと掴む。


「どうやって助けるの?」


「チドリ様の能力で助けるなの。今は一時的な手段しかないけど、苦しいのを止めることはできるなの」


「私の能力……どうすればいい?」


「後ろに行くなの」


「うん。シャルトーチ、ちょっと待ってて」


「私を呼び捨てにするなんていい度胸ね……この愚民が!」


 今は会話にならない。

 悲しい気持ちになりながら、シャルトーチをこの場に置いてキャンピングカーの後ろに回ることに。


 キャンピングカーの後部に移動すると、リリルが足元を指さす。 

 そこには収納スペースのような枠組みがある。


「ここにシャルトーチを助けるための手段があるの?」


「助けるのはチドリ様の能力なの」


「うーん……とにかく見てみないと分からないな」


 リリルの言っている真意がまだ掴みきれない。

 とにかく中を覗いてみるか。

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