表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/23

第18話 アーシャ・ケイナイン

「ふーんふふふーん」


「あはは。楽しそうだね、シャル」


「楽しいですわ。だって音楽をこんな風に聞けるだなんて。まるで夢の中にいるようですもの」


 朝からキャンピングカーのスピーカーから流れる音楽。

 流れているのは元の世界で流行っていた歌。

 シャルはその歌が気に入ったらしく、助手席で流れる景色を眺めながら鼻歌を歌っている。


 キャンピングカーの性能が上がったので、音楽も聴けるようになったのは嬉しい限りだ。

 運転するにしても気分が良いし、仲間たちの気分も上がる。

 異世界で旅しているなんて嘘のようだ。


 しかし外には確かな異世界の景色が広がっている。

 今走っているのは少し荒れた大地で、ゴツゴツとした岩が数多くあるような場所。

 景色はそこまで良くない分、音楽が助けになっているというわけ。


「そういや、ルキアはもう起きた?」


「まだ寝てるなの」


「まだ寝てるのか……本当に眠り姫みたいな子だなぁ」


「ふふふ。あれだけ眠れるのも羨ましいですわね」


「本当だね。ルキアみたいに10時間以上寝たいものだよ」


 ルキアは相変わらず朝が弱いのか、あるいは惰眠を貪るのが好きなのか知らないが、良く寝ているみたいだ。

 リリルがルキアの眠る様子を確認してきてくれたのだが、まったく起きる気配もないらしい。

 まぁ無理に起きる必要も無いからいいんだけど。


「景色はあれだけど、これだけのんびりした旅ができるのは良いことだ」


「のんびりできるのは良いことなの」


「ですわねー。ああ、町でもこんな気分で過ごしたかったですわ」


 突然無言になり、悲しい笑みを浮かべるシャル。

 恐らく、ライルのことを思い浮かべているのだろう。

 ゲーム内でも彼女は最後までライルのことが好きだったからな。


 どうにかシャルにはライルと幸せになってほしいが……私にできることはあるだろうか。

 そんな悩みを抱いていると、遠くの方から激しい衝撃音が聞こえてきた。


「ぎゃああああああ! 地震? 雷? 火事? 親父!?」


「ルキア、なんでそんな言葉知ってるの! そのどれでもなさそうだけど……なんだろうね」


 音にようやく飛び起きるルキア。

 彼女は運転席の方まで走って来て、前方の方を注視する。


「あれ……獣人とモンスターが戦ってる」


「え、よく見えるね。遠すぎて私には何も見えないや」


「わたくしも見えません。リリルは見えますの?」


「見えるなの。ルキアの言う通り、獣人とモンスターが戦ってるなの」


 ルキアとリリルには誰かが戦ってる様子が見えるようだが……どれだけ目を凝らしても何も見えない。

 すこーしだけ砂煙が上がっているように見えるけど、気のせいかも知れないな。

 本当、どんな視力してるんだか、二人とも。


「それで、獣人はピンチなの?」


「うーん……押しているような押されているような……分かんないなぁ」


「互角に見えるなの」


「なら、助太刀に行こうか。人が死ぬのは見たくないしね」


「そうですわね。わたしくたちなら力になれるはずですわ」


 戦っている獣人に協力するため、私たちは戦場に接近することを決める。

 ペダルを全力で踏み、走る速度をアップさせた。


「わわわ! すごいスピード出るんだね、キャンピングカーって」


「へへへ、すごいでしょ。もっともっと速くなるよ」


「わー……うわぁあああああ!!」


 すでに100キロを超えているのだが、まだスピードは上がり続けている。

 あまりの速さに、ルキアが顔色を青くしてしまう。


「怖い怖い! もう少しゆっくり走れないかな!?」


「ごめん! 間に合わないのはダメだから急がせて!」


「チドリ様の技術を信じましょう!」


 ルキアは泣き叫び、テーブル席にしがみ付いている。

 シャルは私のことを心から信頼してくれているみたいだけど……運転技術なんてほとんど無いよ?

 ただペダルを全踏みしてるだけ。

 曲がる必要が無いから、そうしていられるだけだ。


「あ、見えた!」


「獣人の方……女性ですわね」


「うん。早く助けに行こう」


 獣人はどうやら女の人のようだった。

 犬のような耳が生えており、青い短髪の美形。

 青い尻尾も生えており、身長は高いように思える。

 ワイルドな服装で、スタイルは良く、その見た目も相まって女子からも人気がありそうな雰囲気だ。


 対するモンスターは周囲にある岩のような化け物。

 岩の肌に岩の手足。

 三頭身のゆるキャラのような見た目に、赤い目をしている。

 サイズは人間よりも大きく、人を鷲掴みにできるほどだ。


 あんな化け物と一人で戦って……すぐに手助けしないと。


 距離はもうそう遠くない。

 このまま行けば、二分とかからず合流できるぐらいだ。


「チドリ様、そのまま走ってください!」


「分かった!」


 車の速度を落とすことなく走り続ける。

 モンスターはもうすぐそこ。

 するとシャルが、助手席の扉を開けて、そのまま外へと飛び出してしまう。


「うええええええ!?」


「シャル、何やってんの!?」


 私とルキアは、同時に驚きの声を上げる。

 目が飛び出すのではと思うほどに大きく見開き、彼女の取った行動に唖然としていた。


「ここからは――私も参戦させていただきますわ!!」


「うおおお、誰だ誰だ!?」


「グオオオオオオ!!」


 シャルは相手に飛びかかり、そのまま拳を顔面に叩きつける。

 モンスターは派手に吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がった。


 私は車を止め、すぐに彼女の元へと駆けつける。


「また女の子……君たちは?」


「今はそれより、モンスターを倒さないと」


「ありがとう。でも一人でも大丈夫だと思うよ」


「え?」


 私たちは助けに入ったのだが……彼女は余裕があるのか、笑みを浮かべる。

 そして地面に倒れているモンスターを見据え――一瞬にしてその場から消えてしまう。


「え、消えた!?」


「違うなの。動きが迅いなの!」


 女性は消えたのではなく、凄まじい速度で移動をしたようだ。

 モンスターに一瞬で詰め寄り、そして目にもとまらぬ速度で攻撃を開始する。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」


 爪を伸ばし、モンスターを何度も切りつける女性。

 どうやら彼女の武器はその爪のようだ。

 鋭利であり美しい爪。

 岩のモンスターは徐々に傷ついていき、起き上がろうとするもその勢いにやりたい放題されていた。


「グゥウウウウウ……」


「迅い……とてつもなく迅いですわね」


「うん。あんなに迅く動ける人がいるんだね」


「犬族みたいだね、あの子」


 いつの間にか近くで浮いているルキア。

 モンスターの脅威が及ばないことを確認し、私たちの元に来たようだ。


「犬族……速い動きが特徴の獣人だよね」


「うん。でもあの子は特別迅いと思う。あれだけ迅いのはちょっと異常だよ」


 圧倒的速度で敵を蹂躙する犬族の女性。

 相手は徐々に弱まっていき、そしてとうとう動きが止まろうとしていた。


「これで――トドメ!」


 空中で一回転し、凄まじい爪を食らわせる。

 それでモンスターは絶命し、キラキラと輝いて消えていく。


「ふー、いい訓練になった」


「訓練……?」

 

 「うん、訓練。良い具合のモンスターがいたから、訓練がてら戦っていたんだ」


 女性は腕で額をぬぐいながらそんなことを言う。

 まさか訓練をしていたとは……あまりにも眩しい笑顔で話すものだから、スポーツか何かと間違えそうになってしまう私。


「でも助けようとしてくれてありがとう。ボクはアーシャ・ケイナイン。よろしくね!」


 元気に名前を名乗りあげるアーシャ。

 これが私たちと彼女の出会い――


 新しい仲間であり、新しい友達との出会いであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ