第17話 ショッピング
焚火を眺めながら晩御飯を皆で食べる。
ただそれだけのことなんだけど、それが幸せで心が穏やかになっていた。
「はー、今日のご飯も美味しかったぁ」
「ルキア様、沢山食べてましたものね」
「うん。チドリさんの料理なら、いくらでも食べられそうだよ」
幸せ過ぎて、今にも溶けるような表情をしているルキア。
細い体をしているのに、この中では食事を一番食べる。
自分が作った料理をこれだけ喜んで食べてくれるのは、嬉しい限りだな。
「あーあ、元の世界の材料が使えたら、もっと色んな物を作れるんだけどな」
「チドリ様の世界の料理、もっと食べたいですわ」
「私も私も! もっともっと食べたい」
「食べさせてあげたいけど、材料が無いからな」
元の世界の料理を要望する二人であったが、私は苦笑いを浮かべるしかできない。
作ってあげたいのは山々だけど、それができないから困ったものだ。
「チドリ様、材料を調達することができるなの」
「え……どうやって?」
「敵と戦って、それから強いモンスターも倒したなの。だからチドリ様のレベルが上がって、キャンピングカーの能力が解放されたなの」
「ええっ! まだ便利機能があるの?」
「まだまだあるなの。レベルが上がって解放されたのは、ショッピングなの」
「ショッピング……買い物できるようになったってことだよね」
リリルは頷き、ショッピングの使い方を脳内に直接流し込んでくる。
「なるほど……使い方は分かった。早速使ってみようかな」
「何々、何をするの?」
「まぁ見ててよ」
ルキアが興味深そうに私に近づいてくる。
私が能力のことを念じると、錬金術を使用する時と同じように、眼前に半透明のタブレットが生じた。
「ショッピング……ほとんどネットショッピングだ」
「ネット……何ですの、それは?」
「んー、説明が難しいなぁ。まぁ便利なものだよ。世界のことをこれで調べることもできるしね」
「世界のことをこれ一つで……便利なんてものじゃありませんわ!」
ネットって概念を伝えるのは難しい。
言葉だけで説明しきれるものじゃないよね。
とりあえず便利なものだって理解してもらっておけば、いいだろう。
ショッピングの能力は、そのままネットショッピングのようなものであった。
数え切れないほどの商品ラインナップがあり、これらを好きにタップして注文できる仕組み。
料金はこの世界の通貨で買えるらしく、色んな物を買うには困らない程度にはある。
「ワイバーンを倒したから、お金は潤沢にあるからな……シャル、ルキア、リリル。好きな物買ってあげるよ。ワイバーンは皆で協力して倒したんだから、報酬も分けよう」
「私、何の役にも立ってないけどね、あはは」
相変わらず暗い顔になるルキア。
でもルキアがいたから、死人が出なかったわけで。
危ない人が大勢いたが、全員を救ったのはワイバーンを倒すよりも褒められるべき行為であろう。
「功労賞ってやつだよ。遠慮しないで、欲しいものを買おう」
「でもチドリ様の能力が無かったら、収入にはならなかったはずですわ。だから全てチドリ様の物でいいのでは……」
キャンピングカーの能力のおかげで、お金が手に入ったのは確かなことだ。
でも一人占めするみたいで、なんだか嫌なんだよな。
「友達なんだから、そんなこと気にしないでよ。嬉しいことも楽しいことも、皆で共有できた方がいいじゃない」
「そうですか……では遠慮なく」
「じゃあ私も。ありがとう」
シャルとルキアが、タブレットを覗き込んでくる。
「あ、このお召し物可愛いですわ」
「こっちの美味しそう。私これ食べてみたい」
シャルは洋服を、ルキアはお菓子が気になるようだ。
これらを買ったところでまだまだお金は余るぐらい。
まぁ当分稼ぐ必要が無いと思っておけばいいか。
「じゃあ二人の欲しいの買うね。私は……何にしようかな」
タブレットを操作して商品を眺める。
商品を見ているだけでも楽しくて、これだけで時間が溶けていく。
しかし欲しいものを探してる時って、欲しい物が見つからないのなんでだろう。
何か目的があって商品を探すのとは違って、自分が買いたい物を探すと見つからないことが多い。
色々欲しいはずなんだけど、いざ買おうと思うとどれにすればいいのか分からない。
しかし根気強く商品を見ていくと、気になるものを発見する。
ここまでで一時間ほど経過していたのだが……とにかく、ようやく欲しい物が見つかった。
「リリル、これって買えるってことは使えるってことだよね?」
「うんなの。問題無く使えるなの」
私が見つけたのは――ゲーム機だった。
元々ゲーム大好きな私。
まさかこの世界に来てまでゲームをすることができるとは……嬉しさのあまり、大きく飛び上がってしまう。
「私、これに決めた。沢山ゲームするんだ」
「チドリ様はゲームが好きなの?」
「うん、大好き」
「ゲーム機って、何?」
ルキアが興味深そうにそう聞いてくるが……また説明が大変だ。
まぁゲームのことは画面を直接見せた方が早いだろう。
そう考え、私は「後で教えてあげる」とだけ彼女に言っておいた。
「あ、リリルも欲しい物を買おうよ」
「リリル……何がほしいのか分からないなの」
「そうなの? うーん、好きな物とかは無いの?」
「分からないなの……リリル、チドリ様のお世話をする役目しかないなの」
「……それは寂しいね。よし、リリルの好きな物を探そう! 今すぐじゃなくてもいい、リリルが欲しいって思えるものを、一緒に見つけよう」
リリルはパッと明るい顔を見せ、笑顔をこちらに向けてくる。
「うんなの!」
「よし。じゃあとりあえずは、今は私たちの分だけ注文するね……オッケー」
注文を済ませ、後は商品が届くのを待つだけだ。
しかしここで大きな問題に気づく。
商品はどうやって届くんだ?
こんな世界に、旅の途中で居場所が定まらない私の元に、どうやって誰が荷物を持ってくるというのだろう。
「チドリ様、荷物が届いたなの」
「えええ!?」
リリルがキャンピングカーの中へと入って行く。
そしてベッドの後ろにある棚を開き、中から荷物を取り出してくる。
「はいなの」
「え……本当に届いてる!」
リリルから手渡されたのは新品のゲーム機。
まさかこんな早く到着するとは。
というか、どうやって運ばれてきたんだ!?
「どういう仕組みになってるの?」
「うーん、リリルにも分からないなの」
「不思議ですわね、チドリ様は買ったとは仰いましたが、こんな早くに届くなんて……ネットというのは驚くことばかりですわ」
シャルが驚いているなネットの部分じゃないはず。
私だって驚いてるんだもん。
理由が判明しない、本当に不思議な能力。
私のキャンピングカーってどうなってるんだろう。
「わぁ、これ美味しいね。ちょっとしょっぱいけど、どれだけでも食べられる」
「美味しいよね、ポテチ」
ルキアが購入したのはポテチ。
袋を自分で何とか開け、手を突っ込んで次々に食べていく。
味には満足しているらしく、食べる手が止まらないようだ。
ポテチは食べ始めると私も止まらなくなる。
体重のことが気になるから、いつもは食べられないけど……悪魔の囁きが聞こえてくるかのように、しょっちゅう誘惑が襲ってくる。
ルキアが食べてるのを見ていると、食べたくなってくるな。
「チドリさん、ゲーム機っていうの教えて」
「ああ、うん。これなんだけどね」
私は梱包を開封し、ゲーム機を取り出して起動する。
それは小型のどこにでも持ち出せるタイプのゲーム機で、ソフトもダウンロードすればできるようだ。
ゲーム画面をルキアとシャルに見せてあげると、彼女たちは興奮した様子で釘付けになっていた。
私は長年培ってきた操作技術を見せ、彼女たちをプレイで魅了する。
人に誇れることなんて一つも無かった私だけど、ゲームだけは少し自信がある。
私たちは夜遅くなるまでゲームに熱中し、楽しい夜を過ごすのであった。




