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第16話 もう一つの旅の始まり ※ライル視点

 綺麗に整えられた金髪。

 周りの男子と比べて圧倒的な容姿。

 背が高く、身分も高く、しかし周囲に優しい笑みを振りまく男。

 

 彼の名前はライル・ヴェイラール。

 ヴィラール王国の皇子にて、シャルの元婚約者である。


 ライルはシャルのことが好きだった。

 ずっとずっと好きだった。


 だからこそ彼女の変化が受け入れられなかったのだ。

 優しく、気高かったはずのシャルが変わってしまい、ライルは彼女に婚約破棄を言い渡した。


 時間軸はその直後のこと。

 召喚の儀が行われていることは聞いていたが、その前にシャルとの決着を付けなければと、召喚の時に彼はいなかった。


「シャルトーチ……」


 まだ彼女のことを引きずっているライル。

 一つの答えを出しはしたが、彼の心にはまだシャルがいる。


 それでも国のために前に進まなければいけない。

 ライルは深いため息を吐き出し、城へと戻ろうとしていた。


 彼がいるのは町の離れ。

 大きな木が生えており、周りに建物の無いのんびりとして空気の流れる場所。

 シャルが好きだった場所で、ライルもお気に入りである。


 まさかこんなところで別れ話をすることになるとは、空に浮かぶ太陽を見上げまたため息を吐き出す。


「なあ聞いたか。ビルライラ嬢、町の外へ飛び出していったんだとよ」


「本当か? 町の外はモンスターがいるのに……何を考えてるんだか」


 シャルは婚約破棄を言い渡され、この場は走り去ってしまった。

 しかし町の外へ向かってしまったとは……ライルは彼女の身を案じ、追いかけようとする。


「ライル様。国王様がお呼びでございます」


「グレイ……少し寄りたいところがある。父上には遅れると伝えておいてくれ」


「すでに遅れているというのに、これ以上私に言い訳を考えろと?」


 ライルに声をかけた男、グレイ・ジャルマーニュ。

 灰色の髪をオールバックにした美男子。

 背もライルに負けず劣らず高く、女性からの人気も高い。

 彼はライルの護衛に当たる、同い年の騎士見習いだ。


「まだシャルトーチ様のことを引きずっておられるのですか?」


「まさか……だがシャルトーチが町の外へ出たと聞いた。助けに行かなければ」


「それは……助けにいかなければいけませんね」


 シャルの話を聞いたグレイは、すぐさまライルに賛同する。

 最近目に余るシャルの暴走を良しとしない考えではあるが、人が死ぬ可能性があるというのに放っておけない。

 ライルは王族として、そしてグレイはそれに仕える騎士見習いとして、正しい選択を常に選ぶ。


「では私がシャルトーチ様の救護に参ります。ライル様はお城にお戻りください」


「こんな時に城に戻ってなんて……」


「それはダメです。『元』、婚約者であるシャルトーチ様のことは私にお任せください。ライル様は異世界より参る『魔女』様のことがありますから」


「魔女か……すぐに他の女性のことを考えられるほど、器用な性格じゃなんだがな」


「それは重々承知しています。ですから時間をかけて魔女様と親睦を深めてください」


 グレイはライルのことを思いつつも、国のことも考えている。

 国のためにライルと魔女がくっついてくれる方がいいと思っているのだ。

 そして最近のシャルとでは彼と釣り合わない。 

 だからライルには次に行ってほしいという思いもそこにはあった。


「しかしそれは」


「ライル様が仰りたいことは分っているつもりです。ですがもうシャルトーチ様のことはお忘れください。あなたは国を背負う立場にある。あなたにふさわしい女性を見つけるのも、あなたの役目なのですよ」


「…………」


 グレイの言葉がライルの胸に刺さる。

 シャルのことを思い過ぎて、自分の使命を忘れかけていた。

 厳密に言うと忘れていたわけではないが、彼女のことを思い過ぎて冷静さを失っていたのだ。


 ライルは深呼吸し、そして自分の成すべきことのために歩き出す。


「シャルトーチのことを頼んだ」


「かしこまりました。それでは私は彼女の救護に向かいます」


 走って行くグレイを見送り、ライルは拳を強く握りしめていた。


 そのまま陰鬱な表情のまま城に戻るライル。

 途中で千鳥とすれ違うのだが――お互いに気づかない。


 城に戻ったライルは玉座の間へと向かった。

 そこは大騒ぎとなっており、何事かとライルは走り出す。


「どうかしたのか?」


「ああ、ライル様! 実は国王様が何者かに襲撃されまして……」


「襲撃……どういうことだ!?」


 黒こげになっている国王。

 全身に包帯を巻き、意識は完全に失っている。


 父親の様子を見て、真っ青な表情になるライル。

 

 そこでふと、近くにいる見慣れぬ女性の姿に気づく。

 見たこともないような恰好をしているその女性、ライルは一目見て彼女ことが『魔女』だと断定をする。


「あなたが魔女か?」


「そ、そのように言われてますけど、自覚なんてありません」


「そうか……すまない、今はそれどころではなくてな」


「分かっています。お父さんが黒焦げになってますからね」


 国王によって魔女に選ばれた婆羅門初春。

 ライルは彼女を見ても、とくに何の感情も抱いていなかった。


 本来ゲームでは、ここでヒロインに心を奪われるはずなのだが……この現実ではゲームとは違う何か(、、)が起きており、本来と異なる方向へ話が進んで行く。


「犯人は?」


「それが全く分からないのです。王様を狙った者を、誰も見ていません」


「これだけの人数がいながら、誰もみていない?」


 犯人は千鳥。

 だが彼女がやった犯行とは誰も理解していない。

 それには理由があった。


 それはリリルが千鳥の内側から、存在を隠ぺいする魔術――分かりやすく言うと、存在感を薄くする力を使っていたのだ。

 千鳥がいたはずだが、彼女の行動を認識できないでいた。

 だから犯行を見た者は誰もいなかったのだ。


 その場にいる誰もが戸惑いを見せる。

 すると国王が意識を取り戻し、驚くほどの勢いで起き上がった。


「あつつつつつ……」


「父上、ご無事ですか?」


「無事なわけあるか! あたた……」


「ですが生きていて良かった……一体誰が父上を襲ったのでしょうか?」


 国王は全身の火傷に耐えながら、自分を襲ったであろう人物のことを思い浮かべ、怒りに表情を歪める。


「あやつに違いない……」


「あやつとは一体……?」


「あの女だ! 魔女と共に召喚された、異世界の女だ!」


「魔女と共に……もう一人召喚された者がいるのですか?」


「そうだ! 犯人はあの女だ!」


 国王は千鳥が犯人だと断定する。

 それはまごうこと無き正解ではあるのだが……証拠も無いので、ライルは短く嘆息する。


「父上、その女性がやったという証拠があれば教えていだきたいのですが」


「証拠など無い! あの女がやったに違いないし、それ以外には考えられん!」


「そんな……状況証拠も何も無しに、感情的に断定しているだけではありませんか」


「うるさいうるさい! あいつを捕まえろ! 今すぐにだ!」


 ヤレヤレとため息を漏らすライル。

 近くにいた家臣に視線を向けるが……彼は首を横に振るのみ。


「その女性の姿が見当たらないのです。兵士に聞くところによると、すでに城を脱出してしまったとか……」


「もう城にいないのか……」


「ライル様、大変でございます!」


 大慌てで玉座の間へと飛び込んでくるグレイ。

 彼は息を切らせ、ライルの前に立つ。


「グレイ、何かあったのか?」


「シャルトーチ様が、見知らぬ乗り物に乗ってどこかへ去って行ったようです……私の足では追いつくことができなくて」


「なっ……」


 シャルがどこかへ行ってしまったことに絶句するライル。

 まさかシャルトーチがいなくなってしまうとは……彼は放心状態になってしまう。


「見たことも無い女と一緒にいたようですが……彼女は誰なのでしょうか」


「そいつが犯人だ!」


「……はい?」


 叫ぶ国王。

 状況を理解できないグレイは、首を傾げるのみ。


「だからワシを燃やした犯人はその女に違いない! シャルトーチを人質とし、逃げおおせるつもりなのだろう。グレイよ、今すぐそやつを捕えてまいれ!」


「いや、しかし――」


 どうしていいか分からないグレイは戸惑っていたが――彼の前にライルが立ち、国王に向かって頭を下げる。


「その者の追跡、私に任せていただけないでしょうか」


「ライル、何を言っておる。お前にはお前の役目が――」


「分かっております。だから魔女を連れて、犯人を捕まえに行くことをお許しください。魔女が世界を知るための経験になりますし、父上を襲った犯人を捕まえることもできます」


「しかしお主がわざわざ行く必要はないだろう」


 ライルの目には確かな決意が秘められている。

 絶対にシャルトーチを追いかける。

 どんな理由があるのか知らないが、彼女を追わなければならい。

 激しい使命感を抱き、ライルは話を続ける。


「私の実力は王国の中でも上位に位置します。もし相手が大きな力を持っていた場合、他の者では対処できないでしょう。それに魔女がいれば、犯人の確保はさらに容易くなるはずです」


「…………」


「父上、私を信じてくれませんか?」


 ライルの真っ直ぐな目と言葉に、国王は静かに頷く。


「ありがとうございます。魔女よ、すまないが僕について来てくれないか?」


「は、はぁ……」


「そういうことでしたら、私も参りましょう」


「ライルよ、行くからには必ず犯人を捕まえてこい。犯人の顔は魔女が知っているはず。生死は問わん。ワシを火傷させた、あの女をここに連れて来い!」


 ライルは膝をつき、国王に首を垂れる。


「は、必ず連れて参ります」


 そう返事をするライルであったが――胸中はシャルのことばかり。

 彼女を追いかける理由ができた。

 自分では気づいていなかったが、ライルは喜びを抱き、こうして千鳥たちを追いかける旅が始まるのである。

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