第15話 ルキアの力
「た、倒したのか……暴風のワイバーンを、あの女性たちが……」
「我々に倒せなかった化け物を人間が……」
「強い……あの二人はとんでもなく強い」
炭と化すワイバーン。
どうやらあの一撃で倒しきることができたようだ。
私とシャルは大きなため息をつき、顔を合わせて笑い合う。
「お疲れ様なの、チドリ様、シャル」
「リリルもお疲れ。一人の力じゃどうにもならなかった。二人がいてくれて良かったよ」
「それはこちらのセリフですわ。チドリ様たちがいてくれたから勝てた。私一人では、皆を守れませんでしたわ」
貴族としての矜持なのだろうか、民を守るというのが彼女にとっての使命らしい。
弱きを助け強きを挫く、ってやつかな。
その素晴らしい精神は、シャルの尊敬できる部分の一つだ。
益々彼女のことを好きになっちゃった。
「しかし、甚大な被害であったな……鳥人たちは傷つき、町はボロボロに。それに山もこれだけ燃えてしまった」
ギクギクッ!
鳥人と町のことはワイバーンがやったことだけど、山に関しては私がやったことです!
私は正直に名乗り出ようとソッと手を上げようとした。
だけどその前に、ルキアの悲しそうな表情が視界に入る。
「皆が傷ついて……私、何かできないかな。皆のために何かしたい……私だけ何の役にも立っていない。チドリさんやシャルさんみたいに、皆の力になりたい」
悲しみは勇気あるものに変わり、ルキアの瞳には使命感のようなものが宿っていた。
何もできない自分を嘆き、自分ができることを模索する。
そうすることによって普段から抱いている恐怖心を忘れているようだ。
「あ、分かったなの!」
「どうしたのリリル?」
突然リリルが声を張る。
肩の上に乗るリリルは、ルキアを見ながら嬉しそうな声で話を続けた。
「ルキアは魔術が使えないわけじゃないなの。攻撃魔術が不得意なだけなの!」
「基本的なことができないって言ってたけど……攻撃魔術が不得意なだけだったんだ。じゃあ何が得意なの?」
「ルキアが得意なのは――回復魔術なの!」
ルキアがリリルの言葉に反応する。
「回復魔術……私に、皆を癒す力があるの?」
「うんなの。それもとびっきりの力があるなの!」
「皆を癒す……傷ついた皆を助けてあげたい!」
祈るような所作をするルキア。
すると彼女の体に光の幕のような物が生じる。
その光は徐々に大きくなり――山だけではなく、町全体を包み込むほどに肥大していく。
「な、何の光だ!?」
「ルキアだ……ルキアが光を放っている……」
「これは……痛みが癒えていく」
周りにいた人たちの怪我が治っていく。
壊れた町こそ戻らないが、しかし遠くで倒れている人たちが起き上がる姿が見えた。
「すごい……すごいですわ、ルキア様! 皆さんの傷が治っていきます!」
「これを私が……?」
驚きに目を見開くルキア。
シュウを含め、周りにいる鳥人たちも同じように、いや、彼女以上に驚いている様子。
そしてそれは私もシャルもリリルも同じだった。
「すごいなの……リリルが思ってた以上の能力なの!」
「とんでもないよね、ルキアの回復力。人を傷つける力は無いけど、人を癒す力はある。それってもしかすると、世界で一番素敵な力かもね」
獣人の世界に生まれたばかりに、戦うことを強いられようとしていた。
でもルキアは戦うことを嫌い、その力は無かったのだ。
癒しこそが彼女の持つ一番の力。
それを発揮するには、やはり環境が良くなったんだ。
「ルキアは人を癒すことができる。確かに彼女は弱虫かもしれないけど、その分怖さを知っている。怖いから傷つけることできない。それは優しさの証明なんだよ」
「優しさの証明……」
「あなたたちの感性では『弱い』という判断をするんだろうけど、私は……私たちは違う。彼女を誰より『強い』と胸を張って言える。だって見てみなよ」
私は大きく両手を広げる。
その周囲の景色を見せつけるように。
彼女の強さを見せしめるようにして。
「この景色を復活させたルキアの力――壊すことは誰でもできるかも知れないけど、こうして戻すことは誰にでもできることじゃないから!」
元通り――いや、元以上に綺麗な光景となった山。
燃えてしまった自然は復活し、綺麗な花々、巨大な木々、失われた生命が確かにここにはある。
自分がやってしまったことだけど……ルキアが全て治してくれた。
こんなことをできる人が彼女以外のいるだろうか?
世界中を探せばいるかも知れないが、だが彼女は私の友人だ。
彼女ほど心の優しい人はいない。
シュウたちに私の気持ちが届いたのか、申し訳なさそうな表情で俯いてしまう。
「ルキア……これまですまなかった。君を誤解していたようだ」
「ごめんね、ルキア。あなたの『強さ』に気づいてあげられなくて」
「すまない。君を見下してきた過去全てに関して謝罪する」
その場にいる全員がルキアに向かって頭を下げ、心からの謝罪をする。
ルキアは自分の価値、存在意義を認められたのがうれしいのか、これまで見たことないほどに輝かしい笑顔を見えた。
「ううん……私こそごめんなさい。戦う力が無くて。でも今は私のことを信じられる……ような気がしなくもない、かな」
私とシャルはこけそうになる。
どこまでいっても自分のことを信じ切れないルキア。
自信無さげに、視界を泳がせていた。
「ルキア、そこは自信持ってもいいんじゃない?」
「そうですわ。全てを癒したルキア様の力。神の奇跡かと思うほどの能力ですわ」
「いやー、私にできるのはこれぐらいで……戦えなかったの申し訳ない」
自分の功績を忘れるようにして、また暗い顔になるルキア。
こりゃダメだ、まぁ彼女らしいということで納得しよう。
◇◇◇◇◇◇◇
暴風のワイバーンとの戦いが終わり、私たちはまた旅に出ようとしていた。
町の入り口まで見送りに来てくれているローハンの皆。
どうやら私たちは、皆に認められたようだ。
私はキャンピングカーに乗り、運転席からシュウたちを見ていた。
「あなたがた勇者の名前を教えていただきたい」
「いやー名を名乗るほどの者じゃないよ。ルキアの友人って覚えてもらっていたらそれでいい」
「しかし……町を救ってくれた英雄の名ぐらい、覚えておきたいではないか」
シュウはどうしても私たちの名前を聞きたいようだ。
私は嘆息し、仕方がないのでシャルの名前を出すことにした。
「シャルトーチ・ビルライラ。それだけ覚えて帰ってください」
「シャルトーチ・ビルライラ……それは君の名前かい?」
私は助手席に座るシャルを指さす。
『何故、わたくしの名前なんですの?」
「貴族の名前を出しておいた方がいいじゃない? よく知らないけど、将来的に何か恩恵があるかも。私の名前を出しても得は無いでしょ」
「それはそうかもですが……やはりチドリ様の名前も名乗っておいた方がいいですわ」
「なんで?」
「だってワイバーンを倒したのはチドリ様なんですから」
自分の名を名乗るのはどうも気恥ずかしい。
シャルにそう指摘されるも、私は名乗り上げることをためらっていた。
だがシャルの膝に座っていたリリルが、シュウに向かって言う。
「桃山千鳥! それがチドリ様の名前なの!」
「モモヤマチドリ……覚えておこう。私たちを救ってくれた英雄の名前を」
「あはは……じゃあ、お達者で」
「さらばだ、モモヤマチドリ、シャルトーチ・ビルライラ!
車を発進させる私。
ローハンの町が遠くなっていく。
「そしてルキアよ……我らを癒してくれたことを感謝する。達者で暮らせよ」
運転席の後ろからひょっこり顔を出すルキア。
彼女は町にとどまらず、私たちに付いて来ると決めたようだ。
ルキアは笑顔で前方に見える景色を眺めている。
「ルキア、本当にいいの? 町に残っても良かったんだよ」
「いいの。だっても友達と一緒にいた方が楽しいじゃない」
「そうですわね。友人同士で旅をする方が楽しいですものね!」
窓から気持ちいい風が入ってくる。
ルキアは揺られる髪を押さえ、極楽にいるような笑顔を咲かせていた。
「あ、あああ! モンスター! やだ、怖いぃいいい!」
でもモンスターの姿を見て、すぐにそれは恐怖に染まったものに変化していた。
私たちはやれやれと肩を竦め、大笑いするのであった。




