第14話 暴風のワイバーン②
風を切り裂くようにして岩が飛んで行く。
そしてワイバーンの頭に大きな衝撃を与える。
「当たりましたわ!」
「凄いなぁ……あんなのを放り投げるだけじゃなくて、当てるなんて」
その腕力もさることながら、命中率にも舌を巻く。
そして問題のダメージはどうだろうか。
鳥人達の攻撃は一切通用しなかった。
シャルが投げた岩は痛そうだったが――ワイバーンに効いているようだ。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
きりもみしながら落下していくワイバーン。
何とか体勢を整えようとしているようだが、体の自由がきかないようだ。
左にブレ、右にブレ、想像もつかない方向へと落ち続ける。
そして最終的に落ちたのは――私が燃やしてしまった山であった。
ズドーンという音と共に、地震のような小規模の揺れが生じる。
私とシャル、そしてリリルは山の方角へと向かって走り出した。
「山に落ちた! シャルの攻撃が通用するなら、勝てる可能性もあるかも」
「このまま倒れるといいですが……いいえ、倒せると信じましょう」
「うん。私も協力するから、一緒に頑張ろう」
「リリルもお手伝いするなの!」
戦っていた鳥人たちは周囲に落ち、だが命に別状は無いようだ。
だが激しい傷を負っているらしく、その大半が身動き取れない様子。
「倒れてる人たちを助けてあげて!」
「わ、分かったわ!」
町の中を走りながら、隠れている人たちに助けを求める。
私たちはそのまま町を抜け、山側へと飛び出す。
「いた。まだ動けないみたいだよ」
「このまま倒したいですわね!」
ワイバーンはまだ頭がフラフラするのか、起き上がれないでいた。
シャルは相手が倒れているのを視認し、走る速度を速める。
そしてワイバーンの尻尾を掴み――持ち上げて地面に叩きつけた。
「怪力にも程があるでしょ……」
「シャル、力持ちなの」
地面にめり込むワイバーン。
だが次の瞬間には体はフワッと持ち上がり、再び大地に叩きつけられる。
左右に何度も振られ、叩きつけられ、ワイバーンが弱っていくのが分かった。
「ガァアアアアアアアアアアアア!!」
「‼」
だがワイバーンは力を振り絞り、その尻尾を激しく動かす。
シャルは勢いついた尻尾を手放してしまい、後方に跳躍して距離を取る。
「倒せると思いましたが……うまくいきませんでした」
「でも上出来だよ。だいぶ弱ってきたみたいだしね」
ワイバーンは起き上がるも、その額が割れ血を流している。
片目をつむり、殺意と警戒心を含んだ目で私たちを見据えていた。
「まさかワイバーンに有効打を与えられるとは……後は任せてもらおうか」
「シュウ……もっと休んだ方がいいじゃない? 怪我してるよ」
「怪我ぐらいどうということはない。町の危険を排除するのが、代表としての役目だからな」
比較的軽傷のシュウが仲間たちを引き連れて山へとやって来た。
ついて来た仲間たちもまだ怪我が軽い者たちで、戦闘を続行するつもりらしい。
でも彼らが来たところで、ワイバーンに通用しないんだよね。
言っちゃ悪いけど足手まとい。
相手とまともに渡り合えるのはシャルだけだ。
「ワイバーン、もう少しで倒せるなの」
「リリル、そういうのも分かるんだ」
「うんなの。相手の弱点も分かってきたなの」
「それなら後は我々がやろう。このままで勝ち逃げなどされたら、鳥人の沽券にかかわる」
シュウはそう言って、ワイバーンに突撃を始めた。
もう飛ぶ力は残っていないのか、地面を走ってだ。
しかし鳥人最大の特徴はその飛翔能力にあるのだろう、動きはそう速くない。
「食らえ!」
ワイバーンの開いた傷に剣を叩き込むシュウ。
少しはダメージがあるようだが……痛みに少し身を引くのみ。
「はぁはぁ……これなら倒せるはずだ」
「下がってください!」
「なっ――」
シュウの服の襟を掴み、強引に背後に引き戻すシャル。
その腕力だけではなく、シャルの扱い方に腹を立てたのかシュウは彼女を睨みつける。
「何をする!」
「何をするじゃありません。このままではあなた方は死にますわ。そんなの黙って見ていることはできません」
「そういうこと。まだ私たちの方が勝てる可能性は高い。中途半端な攻撃じゃ、ワイバーンを逆なでするだけだよ」
「人間が……私たちを愚弄するのか!」
私たちの言葉にシュウとその仲間たちが吠える。
だが私とシャルは冷静に彼らを見据えていた。
「愚弄なんてするつもりはないよ」
「ただ心配しているだけです。これでもわたくしは貴族の端くれ。困る民や人を助けるのは私たち貴族の使命ですの」
「お前の使命など私たちには関係ない! 私には私の使命がある!」
「あなたの使命のために、仲間を死なせても良いのですか?」
「う……」
やられた仲間たちの状態、ボロボロになった町の状態。
それを思い出し、シュウは言葉を失ってしまう。
「そ、そうだよ……無理に死ぬ必要は無いよ」
「ルキア」
ルキアが青い顔をしつつも、私たちの方へと飛んでくる。
ワイバーンの姿にガタガタ震えるが、シュウを見てハッキリとした口調で話す。
「町の皆が私を見下してるのは分ってる。でも見殺しになんてできない……ずっと一緒に暮して来た町の人たちには、死んでほしくないもの」
「ルキア……」
「だから、無理をしないで。チドリさんとシャルさんなら、ワイバーンにも勝てるはずだから。出逢った時もそう、二人はすっごい力の持ち主だから、二人に任せたら皆死なないで済むはずだから。だからお願い、チドリさんとシャルさんに相手は任せて」
これまで怯えてばかりだったルキア。
何も言えなかった彼女の叫びだったからこそ、シュウたちの胸に届いたのか、彼らは静かに頷きワイバーンから離れる。
「分かった。私も仲間たちが無駄に死ぬのは見過ごせぬ。すまないが、町のために力を貸してくれ」
「オッケー。任せておいて。シャル、行こうか」
「はい」
「リリル、相手の弱点は?」
私の肩に乗るリリル。
私がそう聞くと、ワイバーンを見据える彼女の目が光る。
「暴風のワイバーンの弱点――それは炎なの!」
「炎……それって私の得意分野じゃない」
山火事を起こした私の力。
褒められたものではないが、しかしこの力なら通用するかも。
「私がフォローしますわ。チドリ様、とどめをお願いします」
「うん、皆で頑張ろう。ルキアの気持ちも私が受け取ったから。町のために力を使うから!」
「チドリさん……お願いします!」
ルキアに頷き、私とシャルは同時に走り出す。
「グォオオオオオワアアアアアアアアアア!!」
「まさか……まだこんな攻撃を使えるなんて!」
ワイバーンが強烈な風を生み出す。
前方に生じる竜巻。
このままでは近づくことすらできない。
「チドリ様、リリルの力を使うなの!」
「! 分かった!」
リリルと力をリンクし、風を生み出す。
ワイバーンの風と、私たちが生み出した風。
それは衝突し、激しさを増していく。
だがその風同士は対消滅するようにして消え去り、私たちの前に道が生まれる。
「今なら近づけますわ!」
シャルが相手に飛びつき、ワイバーンの頭部に拳を叩き込む。
ゴンッと相手の頭が跳ね、意識を失いそうになる。
だが最後の力を振り絞り、また風を作り出そうとした。
「シャル!」
私はシャルの身を案じ、全力で駆けて行く。
そして刀を抜き――相手の腹部に突き刺した。
「いっけーーーーーーー!!」
刀から生まれる炎
ワイバーンを飲み込み、激しい火柱が上がる。
このまま倒れて!
私は祈るようにして、全力で魔力を解放した。




