第11話 特訓をしよう
「いやー……ギャフンなんて言わせられるわけないよ。私はヨワヨワで泣き虫で怖がりで……何もいいところなんて無いし」
「そんなことありませんわ。えっと……」
「……やっぱりないよね!」
私の言葉に驚くルキア。
自虐的なことばかり言う彼女をシャルがフォローしようとするも、彼女の良いところを挙げることができなかった。
ルキアは泣き笑いをし、それを受け入れている。
「まぁまだ出逢って間もないし、ルキアの良いところを知るのはこれからだよね」
「そうですわ。私たちの友情は始まったばかりです」
「そう言ってくれるだけで嬉しい。でも私は無能で、できることなんて一つも無いんだから……」
「そこはちょっと否定させてもらおうかな。ね、リリル」
私の肩に乗っていたリリルの方を向くと、彼女はゆっくりと首を縦に振る。
「そうなの。ルキアは無能なんかじゃないなの」
「私が無能じゃない……?」
「うん。リリルには人の魔力を認知する能力があるみたいなんだ。そのリリルが、ルキアには大きな魔力を持っているって言ってるんだ」
「私に大きな魔力……魔術なんてこれまで使ったことも教えてもらったこともないんだけど」
「魔力量は特訓次第で大きくなるとは聞きますけれど、でも生まれ持ったものもあるとお聞きしますわね」
リリルにはいくつか能力があるのだが、その中の一つに魔力量を認識することができるというものがある。
ルキアは魔術を使ったことが無いらしいが、シャルが言う通り、生まれつきで魔力が大きい者もいるとのこと。
そしてルキアがまさにそれだ。
生まれ持った巨大な魔力。
彼女はそれを知らずにこれまで生きてきたのだ。
「でも、獣人は身体能力の高さが特徴のはずなのに」
「例外ってこともあるんじゃない? 実際ルキアがそうみたいだし」
「魔術……それを使えば、私も狩りをすることができるようになるのかな?」
「そのはずだよ。だからその力を磨けば、町の人たちをギャフンと言わすことだってできる。ルキアには無限の可能性があるんだよ」
ルキアに限った話ではないが、人には無限の可能性がある。
前の世界ではそんな言葉を耳にしたことはあったが、信じることはできなかった。
でも今は不思議と信じることができる。
きっと自分にも大きな力が与えられたからだろう。
だからその可能性を実感することができるんだ。
「……どうしたらいいんだろう、私は」
「どうしたらいいのかじゃなくて、どうしたいか。ルキアの気持ちが一番大事だよ」
「そうですわ。ルキア様がやりたいことを、私たちはお手伝いします。だって友人ですもの」
ルキアは真剣な顔で悩みだす。
どうすればいいのか、どうしたいのか。
それを考えているようだ。
答えはすぐに出ないかもだけど、それでもルキアには自分で考えてほしい。
後悔するようなことはしてほしくないし、彼女が一番納得できる結末を迎えたい。
私が出したのはあくまで提案。
決断はルキアに任せるとしよう。
するとルキアは顔を上げ、私たちの方を見る。
その表情に迷いは無い。
彼女の中で答えが出たのだろう。
「力があるなら私、皆に見せつけてやりたい」
「うん」
「でも皆を懲らしめたいとかそういうんじゃなくて……自分もできるってところを見せたいかな。格好つけて失敗するのは嫌だし」
迷いは無いが、どこか後ろ向きな考えのルキア。
まぁ彼女らしい答えだなと私は苦笑いをする。
「じゃあそうしよう。ルキアは無能じゃない。できることはあるんだって、皆に見せてあげよう」
「で、できる限り頑張ってみます……」
こうしてローハンの連中にルキアの力を見せることとなった。
後はルキアがその力を発揮できるかどうかにかかってるけど……自信無さげな彼女の顔を見てると、こっちまで不安になってくる。
自分の可能性を信じて!
と、心の中でエールを送っておいた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ということで特訓しよう。魔術の使い方は……リリルが教えてくれるはず!」
「よ、よろしくお願いします、リリル先生!」
「任せてなの!」
ローハンの近くにある山。
ここも自然に溢れた場所で、綺麗な花が咲き、大きな木々が何本も生えている。
険しい道が続いているはずだが、どこかピクニック気分が出てしまう、そんな景色が続く場所だ。
ここにはモンスターが出現するらしいので、特訓には持ってこいと思ったのだが……ルキアは緊張と恐怖でがちがちになっている。
この調子じゃ、すぐに魔術を使うのは難しいだろうなと私は判断をしていた。
「チドリ様も訓練をするのでしょ?」
「まぁ訓練じゃないけど、これを試したいんだよね」
私は一本の刀を手にしている。
それは変哲もない刀。
日本刀だ。
【錬金術】で創れる一覧の中にあったので、これを選んでみたのだが……鍔が桜になっていて可愛い物だ。
カッコいいだけじゃなくて可愛い部分もあり、すでに結構気に入っている。
「私は魔術を使う回路が無いらしいんだけど、武器を使って魔力を発揮することができるらしいんだ」
「リリル様が仰ってましたわね。チドリ様の力を十全に発揮するには、武器が必要だと」
「うん。それを確認するのが目的だから、私のことはルキアのついででいいんだ」
この日本刀には、炎の力が宿っている。
錬金術で炎を付与した物を作ったからだけど……これなら私の魔力を発揮することができるようだ。
力を使えるのはいいことだけど、まずはどんなものかを試してみたい。
ルキアはリリルから魔術の使い方を教わっているようだが……まだまだ使える気配は無い。
すぐに使えるもんじゃないんだなと、私はぼんやりと見ていた。
「あ、モンスターですわ」
「本当だ。またキラービーだね」
「ひぃ!!」
キラービーが数匹姿を見せる。
それを視認したルキアは飛んでリリルの背中に隠れた。
と言っても、ルキアの体の方が随分と大きいから、隠れた意味は無いけど。
「キラービーに追いかけられたの、この山なんですよ!」
「こんなところから逃げて来たの!?」
「わたくしたちが出逢った場所からは随分と距離がありますけど……とんでもない時間逃げていたのですね」
まさかの発言に呆れる私とシャル。
どれだけ逃げ続けていたんだ……強い相手ではなかったけれど、でもルキアからしたら恐怖の対象なんだろうな。
「と、ととと、とにかく追い払って! 私、キラービーはトラウマだよ」
「分かった分かった。じゃあ武器の使用感を試させてもらうとしようかな」
ルキアの魔術よりも、私の能力の確認の方が早くなったようだ。
私はキラービーたちを前にして、日本刀に手を置く。
力の使い方は理解している。
武器を抜くと同時に、内なる魔力を解放してやればいいんだ。
どれだけの力が発揮されるのか、楽しみだな。
私は胸を躍らせて、キラービーたちめがけて抜刀する。
「焼き祓え、焔よ!」
刀を抜くと、鞘から漏れるようにして炎が生じる。
そして炎は肥大化し――キラービーたちを飲み込んだ。
「へ?」
キラービーたちを飲み込んだ炎。
それはモンスターだけではなく、山の自然を燃やしてしまう。
その強大さに驚き、私は言葉を失ってしまう。
「チドリ様……とんでもない威力ですわね」
「あはは、そうだね……って、山火事!!」
炎は自分が想定していた100倍ほどの威力を有していた。
前方の景色を燃やし尽くし、炎の海へと変えてしまう。
「どうしよう……助けてリリル!」
「チドリ様、リリルの能力を使うなの!」
リリルと協力して炎を消していく。
自分のことだけど、まさかここまで威力があろうとは。
背後ではシャルとルキアがいまだに驚いている。
二人の気配を感じつつ、火消しに全力を尽くす私。
これから気を付けて扱わないとな……
自分の魔力の高さに、ただただ唖然とするばかりであった。




