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第10話 ローハン

 ルールーの町から東の方角に進む私たち。

 周囲には綺麗な花などが生えており、草原とは比べものにならないほど景色がいい。

 旅を始めて二日目、気分は上々。 

 天気も素晴らしく、私は鼻歌交じりで運転をしていた。


「チドリ様。これって私にも操作することができるのでしょうか?」


「どうなんだろう。リリル、シャルでも運転ってできるの?」


 シャルがキャンピングカーを運転したそうに助手席でそわそわしながらそんなことを聞いてきた。

 そのことをリリルに確認しようとしたのだが……彼女はゆっくりと首を横に振る。


「無理なの。これはチドリ様のキャンピングカーなの。他の人には運転できないなの」


「そうですか……残念ですわ」


 ため息をついて肩を落とすシャル。

 運転したかったらしいが、それができないことに少し落ち込んでいる。

 シャルは旅のすべてが新鮮らしく、色んな物に触れたい、色んなことをやってみたいようだから、運転もできるならやりたかったみたいだ。

 でもできないことを嘆くような性格ではないらしく、すぐに顔を上げる。


「ルキア様の町は、もうすぐでしょうか」


「ナビによると、後20分ほどで到着するみたいだね」


「そうなのですか。便利な力があるようですわね、このキャンピングカーという物には」


「チドリ様の能力であるキャンピングカーは凄いなの!」


 いつものようにリリルが胸を張って自慢げにそう言う。

 彼女の可愛い態度に私はほっこり。

 こんな気分を味わいながら旅ができる。

 それだけでなんだか幸せだなぁ。


「ちなみに、ルキアの町に向かっているけど、当の本人はそろそろ起きたかな?」


「あはは……ずーっと寝てますわね」


 背後にあるベッドでいまだに眠っているルキア。

 私たちが起きてから数時間経過したというのにまだ寝ているとは……どれだけ寝てるのよ、あの子は。

 長年社畜として働き続けてきた私は、朝起きるのが当たり前になっており、朝は自然と目が覚めてしまう。

 早起きする必要は無いけど、でも早起きってなんだか気持ちが良くてそれはそれで良いと思っている。


 とまぁそんなことは置いておいて、そろそろ到着するので彼女を起こしておかないとな。


「リリル、ルキアを起こしてあげて」


「分かったなの」


 リリルは駆けて行き、ルキアを起こすために彼女の体を揺すり始める。


「ルキア、起きるなの!」


「ううん……もう少しだけ。世界が終わるまで眠らせて」


「どれだけ眠るつもり!? リリル。強引にでもいいから現実世界に呼び戻して。惰眠を貪らせすぎたらダメなタイプだ、その子!」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 何とかルキアを起こすことに成功するのと、彼女の町に到着するのは同時だった。

 眠そうにするルキアは町を見て無言になり、またベッドで横になろうとする。


「ああ、現実は無常だ。私は夢の世界で生きていきます」


「おいおい。そんなバカ言ってないでさっさと起きよう。町に戻ってきたんだから、嬉しそうにしないと」


「嬉しいことなんて無い……私、町には戻りたくない」


 布団にくるまり、立ち上がろうとしないルキア。

 そんなに町に戻るのが嫌なのか。

 でもここは彼女が生きていく世界で、帰らないわけにはいかないだろう。


「ほら、私も一緒に行ってあげるから。ね?」


「…………」


 ルキアは死んだような目でようやく起き上がる。

 一体何が彼女をそうさせるのか、確認をしておいた方がいいかもな。


 キャンピングカーを出て、町の前に立つ私たち。


 ルキアの住む町は『ローハン』という場所らしく、まずは自然豊かな印象があった。

 大きな通りの左右には綺麗な花々。

 中央には大木があり、町の向こう側には山が見えた。


 住んでいる人たちはルキアと同じく、鳥族ばかり。

 背中に羽が生えている者たちで構成された、鳥族の町のようだ。


「それで、ルキアの家はどこかな」


「私の家はあっち」


 ルキアが指さす方向は、町の北西――入り口が南だから、ここからは逆側だ。


「とりあえず行こう。ルキアがどんな状況で暮らしてるか知っておきたいし」


「はい……」


 いつもよりどんよりしているルキア。

 会話をする時はもう少し明るいのに、町についてからはずっとこの調子。

 もしかして普段からこんな風に生活してきたのだろうか。


 町を歩くと、すぐに住人がルキアがいることに気づく。


「あ、ルキアだ」


「帰ってきたんだ。食材は採って来れたのかな?」


「無理だろ。弱虫ルキアじゃ食材の回収もできっこないよ」


「確かに。無能も無能だからな」


 周囲の言葉に、ルキアが余計に暗くなる。

 なるほどなぁ、こんな状態じゃ、暗くなるのも仕方ない。

 私だってこんな言葉ばかり投げかけられたら暗くもなるし、ルキアを貶す言葉に腹が立つ。


 それに誰一人として、ルキアを擁護するようなことを言わない。

 ルキアは無能。

 それがこの町の中では周知の事実のような、そんな言い方だ。


 泣きそうなルキアの肩を抱き、彼女の家に前に到着する。

 周囲は木造の建築物ばかりで、ルキアの家もそれは同じだった。

 特に変わったところが見られない、一階建ての普通に家だ。


「上がって行ってくれる?」


「お邪魔してもいいなら」


 ルキアはむしろ私たちに上がってほしそうに、こちらの服の袖を引っ張ってきた。

 家の中は数人が囲めるテーブルと、大きなベッドがある。

 それ以外にはめぼしいものは無く、生活するには困らなそうな家であった。


「なんですの、町の人たちは! あんまりじゃありませんか」


「リリルも腹が立つのなの。ルキアのことイジメるの良くないなの!」


 家に上がるなり、シャルとリリルが怒り出す。

 ああ、どうやら私と同じ気持ちだったようだ。

 

 友人であるルキアを貶す人たちを許せない。

 そんなの当然だよね。


 ルキアは乾いた笑い声を出しながら、テーブル席に座る。

 そして私たちの方を見ながら説明を始めてくれた。


「この間までは両親が生きていて……私のために狩りをしてくれていたの。だから生活に困らなかったんだけどね。でも今は自分の力で食材を集めなければいけない」


「そうなんだ……だから怖いけど、食材のために町の外に出たんだね」


 彼女を守ってくれる親はすでに他界したようだ。

 大きなベッドは、家族で眠っていたであろう痕跡がある。

 家族がいなくなって寂しい中、放り出されるようにして食材探しに駆り出されたようだ。


 私は胸の辺りが痛くなり、ルキアの頭をそっと抱きしめる。


「寂しかったね。家族がいなくなって悲しかったね」


「お父さんもお母さんもこんなに早く死ぬなんて思ってなかった……まだ親孝行もしてないのに……こんな弱虫の私を愛してくれて……もっと一緒にいたかったのに!」


 私の胸が濡れていく。

 家族を失った悲しみと喪失感。

 これまでそれを吐き出すこともできなかったのだろう、ルキアは大声を出して泣き出す。


「うわあああああああああああああああああああああ」


「…………」


 シャルが私と同じように、逆側からルキアの頭を抱きしめる。

 リリルがルキアの頭を撫でる。

 皆がルキアの悲しみを癒すように、彼女の傍にいる。


「ありがとう、ありがとう、皆」


「わたくしたち、友人ですもの。当然ですわ」


「リリルも傍にいるなの」


「うん。ルキア、町にいたくなかったら一緒に冒険してもいいんだよ? 私たちと来る?」


「うん。チドリさんたちと一緒にいたい。こんな町にはいたくない」


「そうだよね。じゃあこれから私たちと旅をしよう」


 私の胸で大きく頷くルキア。

 私は彼女の頭を撫でながら、話を続ける。


「でもさ……このままじゃ逃げたみたいで癪じゃない?」


「え?」


「どうせだったら、町の皆をギャフンと言わせてから旅に出ようよ」


「え、え……どういうこと?」


 顔を上げてキョトンとするルキア。

 私の意図は彼女に伝わっていないようだ。

 そして私は、これから何をするのか彼女に話を始める。 

 彼女を侮辱した町の人たち、それが間違いだったと証明するための提案を。

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