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未完成のまま― 最適解に選ばれなかった僕たちへ ―  作者: はるねこ


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第19話 信頼

合体AIが近づく。

動くだけで、圧で全員が押し潰されそうになる。

何度も弾かれた。

何度も潰された。

全ての連携が無駄になった。


レイ「どうしたら……」


レイは考え込む。


ミナ「まだ諦めちゃだめよ!」


ミナがレイを支える。


アイラ「ノアは?ノアの能力なら誰かにバフをかけて何とかなるかも!」


アイラは皆を回復しながら言う。

しかし、レイは首を振る。


レイ「ノアの能力:共鳴調律(レゾナンス・チューン)は、単なるバフじゃなくてあくまで対象のパフォーマンスを上げるためのもの。もしハルトやクロウにかけてもその対象自体の技術が優れていれば、それは微々たる差だ」


レイは下を向き続ける。


ノア「えっ!そうだったんだ!」


ノアはその事実に驚く。


レイ「今の2人の技術や精度は申し分ない。あの個体を倒すのには届かないかもしれない」


その時、後ろからだった。


???「俺たちならいけるはずだ」


レイたちは振り向いた。

そこには、ハルトの姿。

その後ろからはケイルが近づく。


ハルト「俺とケイルの雷が合わされば、あいつを倒せるかもしれん。やったことは無いが、もうそれしか方法はない」


ハルトは鎌を強く握る。


ケイル「……僕、できるかな?もし失敗したら……」


ケイルの顔は暗い。

今までの過去を振り返る。

また失敗してしまうのではないか。

また敗北してしまうのではないか。


ハルト「……ケイル」


ハルトはケイルの肩に手を置く。


ハルト「俺とあんた、1体1(サシ)でやったらどっちが勝つと思う?」


ケイルは迷わず答える。


ケイル「それは、もちろんハルトだよ!僕なんかが勝てるはずは……」


ケイルは更に落ち込む。

しかし、ハルトは首を横に振る。


ハルト「いや、間違いなく俺がやられる」


ケイル「……え?」


ケイルはハルトを見る。

その目には小さく雷が宿っている。


ハルト「あんたの能力で俺の雷は全部吸われる。そうすりゃ俺だって負けるさ。それに、」


ハルトは続ける。


ハルト「ケイルはまだ、本気を出せてないから。本気のあんたなら更にだ。」


ケイル「……本気?いや、僕だって精一杯頑張ってるよ。みんなのために、本気で勝とうとしてる。それでも……」


ケイルは一歩下がる。

顔もどんどん暗くなる。


ハルト「ケイル、」


ハルトはケイルの手を取る。


ハルト「自分の力を信じてみろ」


その言葉で空気が変わる。


ハルト「ラウルが言ってた。ユリカに負けてからケイルは弱った。一度負けたからってくよくよするなよ。こっちまで被害が起きる。ってな」


ケイルはハルトの手を振払う。


ケイル「やっぱり、僕なんか誰も必要としないんだ!もう、僕は……」


ハルト「違う。ラウルが言いたいこと素直に言えないからな。あいつはこう言いたかったんだ」


ハルトは優しくケイルに手を差し伸べる。


ハルト「ケイルはそう簡単に負けるやつじゃない。そして、おまえがいなきゃ、俺はやってけなかった。全部、ケイルのおかげだ」


ケイルは顔をあげる。

そして、ラウルは遠くから叫ぶ。


ラウル「おい!ケイル!!さっさとしろ!こうなった以上、お前が頼りなんだよ!!だから、あの時のケイルに戻ってくれ!!」


今、全員は合体AIの動きを止めている。

吹き飛ばされては、また戻り動きを抑える。

みんな、ケイルを待っている。

そして、ケイルを頼りにしている。


ケイル「……!?」


ケイルの脳裏には、あの時の戦闘。

まだ序盤の頃、ラウルもケイルも1人だった時。


ラウル「ちっ……弱いやつばっかだな」


ラウルは1人で退屈そうに歩く。

その時、物陰に人影。

ケイルだった。

細い体。

伏せた視線。

戦う意思のない立ち姿。


ケイル「お、カモ発見」


ラウルが踏み出す。

普通なら怯える。

逃げる。

命乞いする。

だが、ケイルは動かなかった。

ただ、静かにラウルを見返す。


ラウル「……」


数秒の沈黙。

ケイルは感情のない目。

――いや違う。

底に沈んだ、冷たい覚悟。


ラウル「……こいつ、悪くない」


ラウルは少し笑う。

構えていた拳も緩める。


ラウル「お前、1人か?」


ケイル「……え?」


初めてケイルが声を出す。


ラウル「ずっと1人で退屈だったんだよ。俺の背中、守ってくれるか」


それが、同盟の始まりだった。

その後の戦闘。

複数の敵。

ラウルは前に出て、暴れる。

しかし、ラウルには傷一つなかった。

背後からの攻撃が逸れる。

死角の敵が崩れる。

足場が崩れる前に倒す。

全部、ケイルだった。


ラウル「俺が戦えているのは――」


ラウルは気づいていた。

戦闘後、振り返る。

少し離れた場所に立つケイル。

目立たない場所で、ただ周囲を見ている。


ラウル「お前のおかげだ」


ケイルは視線を逸らす。


ケイル「……別に」


だがその手は震えていた。

必要とされたことに、慣れていない震えだった。


その頃、合体AIの動きを止めていた者たちが、次々と崩れていく。


カイ「くそ、これ以上は限界だ……」


合体AIへの攻撃はすぐに何事も無かったようになる。

皆は合体AIにより吹き飛ばされ、残り戦場にはラウルだけどなった。


ラウル「はぁ……はぁ……」


ラウルはまたもや攻撃を仕掛けるも、受け止められる。

合体AIの腕が振り下ろされる。


ラウル「……!?」


その瞬間、上空から眩しい光が差し込む。

そこにはハルト、そしてケイル。


ケイル「僕は、必要とされてる。みんなが、信頼してる!」


ケイルの目に宿る雷が、強く光る。


ラウル「ケイル……やっと……戻ったか……」


ラウルは安心し、その場で倒れ込む。


ハルト「ケイル!本気で行くぞ!!」


2人は大きく振りかぶる。

ハルトは鎌を、ラウルは手のひらを。


ハルト・ケイル「位相共鳴(フェイズ・レゾナンス)!!」


2人の雷が、放たれる。

そして、途中で“衝突”する。

融合ではない、衝突と圧縮。

周波数、出力、位相、全部違う雷を――全て重ねる。


「――」


合体AIから音が漏れる。

ノイズのような、小さい音。

合体AIは致命傷を避けようと腕で防ぐ。

しかし、その腕が途中で止まる。


エルマ「させないわよ!」


初めのエルマの攻撃対象は、斬撃を飛ばすため空間そのものだった。

そして今、合体AIに能力を使った。

そのため、エルマの遅延は合体AIに――届く。

雷の柱が、直撃する。


「―――」


胸部から、内側に向けて光が爆ぜる。

全身に亀裂。

ノイズと共に、ゆっくりと崩れ落ちる。


ハルト「ほらな。あんたならできるだろ」


ハルトは静かに言う。


ケイル「……ありがとう、ハルト。これこそが僕だ」


ケイルの顔は明るく、笑顔。

人間が、学習するAIを“超えた”瞬間だった。



世界のどこでもない場所。

光も闇もない、演算だけの空間。

無数の数列が浮かび、プログラムが流れ続けている。

その中央に存在する、一つの影。

高度自律思考プログラム――AI。

全プレイヤーの動き。

感情値

成功率

死亡確率

未来予測

全てが数式で支配されている。

だが今、その流れが乱れる。


【合体ユニット:機能停止】


一つのログが赤く点滅する。

演算が再試行される。

もう一度。

もう一度。

しかし、結果は変わらない。

AIの音声が初めて乱れる。


《……確認。予測誤差、発生》


誤差の発生。


《原因解析――》


再生されるのは、あの一撃の記録。

しかし途中でフレームが飛ぶ。

データが欠落していた。


《……観測不能?》


世界全体のデータベースを参照。


該当パターンなし

類似エネルギー反応なし

予測式、適用不可


黒幕AIが長い沈黙する。


《理解不能》


画面の一つに、人間側の映像が映る。

ハルトとケイル。

その姿は、仲間に支えられている。


非効率

不合理

計算外の感情


黒幕AIが新たなログを生成する。


【人間行動原理:再定義】


『感情値による出力上限突破を確認

 個体間の信頼による同期現象を確認

“奇跡”と呼称される事象を仮定変数に追加』


世界の支配者が、初めて人間を“未知の存在”として扱い始める。


《計画、修正》


最後に、小さなノイズが走る。


《……興味、発生》


人間が計算式の外に出た瞬間。

黒幕AIは初めて、“支配者”ではなく“観測者”になり始めていた。

To be continued…

第20話 残るもの

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