第14話 崩れ落ちる塔
光が弾けた直後、塔全体が低くうなった。
糸で編まれた壁が解け、空間が軋みながら裂けていく。足元が揺れ、俺たちは思わず膝をついた。
「塔が……崩れる!」
ユナが叫び、風の層を展開して崩れ落ちる天井の破片を弾く。
「急げ! 人々を連れて外へ!」
レオンの指示に、勇者隊は動いた。
ガロが倒れた商人を抱え、ミレイが光で弱った者の足を支え、アリスが火で道を切り開く。
俺は針を走らせ、床の糸を繋ぎ直し、崩落の速度を遅らせた。だが、長くは保たない。
◇
「リオ、こっち!」
シアラが指さした先に、外へ続く縫い目の道があった。塔の糸がほどける際に生まれた一筋の裂け目だ。
「ここなら出口へ繋がる!」
俺たちは人々を導きながら進む。だがその途中、背後から不気味な気配が迫った。
「……まだ終わっていない」
黒い影が、塔の心臓の残骸から立ち上がった。
先ほどの幹部――だが姿は完全に崩壊し、糸の塊となって蠢いている。顔の仮面は砕け、無数の目がそこに生えていた。
「我らは一人ではない。黒紡会は“縫い手”の総意。お前がほどいた命は、すぐにまた縫い直される」
その声は、幹部だけではなく、塔の奥に潜む無数の声が重なったものだった。
◇
「しつこい奴だな……!」
ユナが杖を振り、烈風を放つ。だが黒い影は形を変え、風をすり抜けて迫ってくる。
「リオ、出口を塞がれる!」
シアラの声に振り向くと、裂け目の糸が黒い塊に飲み込まれようとしていた。
「なら……今ここで断つしかない」
俺は針を構え、仲間たちを見た。
「リオ!」
レオンが剣を掲げる。「俺たちも共に戦う!」
◇
戦いは混沌とした。
黒い影は無数の触手を生み出し、人々を再び繭に閉じ込めようとする。勇者隊が剣と魔法でそれを切り裂き、ユナが風で道を守る。
シアラは式文を唱え、俺の針に補助を加えた。
「リオ、最後の解縫を!」
俺は頷き、針を黒い影の中心に突き立てた。
「――解け!」
白い光が溢れ、黒い糸が次々にほどけていく。無数の声が叫び、やがて静かになった。
影は完全に崩れ、塔の心臓部は光に包まれる。
◇
俺たちは裂け目を駆け抜け、外へ飛び出した。
振り返ると、黒い塔が轟音と共に崩れ落ちていく。
夜空に光が舞い上がり、王都の空気がようやく澄んだ。
「……終わった、のか?」
ユナが息をつき、杖を下ろす。
だが俺の針は震えていた。
塔は崩れた。だが黒紡会の“声”はまだ消えていない。糸の奥で、誰かがこちらを見ている。
「いいや……これで終わりじゃない」
俺は針を握り直し、崩れゆく塔を睨んだ。