表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/23

第14話 崩れ落ちる塔

 光が弾けた直後、塔全体が低くうなった。

 糸で編まれた壁が解け、空間が軋みながら裂けていく。足元が揺れ、俺たちは思わず膝をついた。


 「塔が……崩れる!」

 ユナが叫び、風の層を展開して崩れ落ちる天井の破片を弾く。


 「急げ! 人々を連れて外へ!」

 レオンの指示に、勇者隊は動いた。

 ガロが倒れた商人を抱え、ミレイが光で弱った者の足を支え、アリスが火で道を切り開く。


 俺は針を走らせ、床の糸を繋ぎ直し、崩落の速度を遅らせた。だが、長くは保たない。


 ◇


 「リオ、こっち!」

 シアラが指さした先に、外へ続く縫い目の道があった。塔の糸がほどける際に生まれた一筋の裂け目だ。

 「ここなら出口へ繋がる!」


 俺たちは人々を導きながら進む。だがその途中、背後から不気味な気配が迫った。


 「……まだ終わっていない」


 黒い影が、塔の心臓の残骸から立ち上がった。

 先ほどの幹部――だが姿は完全に崩壊し、糸の塊となって蠢いている。顔の仮面は砕け、無数の目がそこに生えていた。


 「我らは一人ではない。黒紡会は“縫い手”の総意。お前がほどいた命は、すぐにまた縫い直される」


 その声は、幹部だけではなく、塔の奥に潜む無数の声が重なったものだった。


 ◇


 「しつこい奴だな……!」

 ユナが杖を振り、烈風を放つ。だが黒い影は形を変え、風をすり抜けて迫ってくる。


 「リオ、出口を塞がれる!」

 シアラの声に振り向くと、裂け目の糸が黒い塊に飲み込まれようとしていた。


 「なら……今ここで断つしかない」

 俺は針を構え、仲間たちを見た。


 「リオ!」

 レオンが剣を掲げる。「俺たちも共に戦う!」


 ◇


 戦いは混沌とした。

 黒い影は無数の触手を生み出し、人々を再び繭に閉じ込めようとする。勇者隊が剣と魔法でそれを切り裂き、ユナが風で道を守る。

 シアラは式文を唱え、俺の針に補助を加えた。


 「リオ、最後の解縫を!」


 俺は頷き、針を黒い影の中心に突き立てた。

 「――解け!」


 白い光が溢れ、黒い糸が次々にほどけていく。無数の声が叫び、やがて静かになった。


 影は完全に崩れ、塔の心臓部は光に包まれる。


 ◇


 俺たちは裂け目を駆け抜け、外へ飛び出した。

 振り返ると、黒い塔が轟音と共に崩れ落ちていく。

 夜空に光が舞い上がり、王都の空気がようやく澄んだ。


 「……終わった、のか?」

 ユナが息をつき、杖を下ろす。


 だが俺の針は震えていた。

 塔は崩れた。だが黒紡会の“声”はまだ消えていない。糸の奥で、誰かがこちらを見ている。


 「いいや……これで終わりじゃない」

 俺は針を握り直し、崩れゆく塔を睨んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ