約束
「八層結界を破れる霊なんていないよ」
「俺らバッチリ襲われたんですけどー」
「手引きをしたのがいたんだろうね。IDの使用履歴と監視カメラの確認をしようか」
「大事になってる」
「大事なんだよ」
「……。」
急遽、Uターンしてきたという白縫局長と剱地先輩の会話を冷や汗をかきながら聞いていた。
侵入してきたという霊は先輩が木っ端微塵にしてしまったため残留思念すらないという。結界の張り直しのために外仕事から戻されたのは根咲さんと磐崎さんという男女二人組だった。
俺は局長と先輩の会話がさっぱり理解できなかったので、こそこそと二人組の方に近づく。初めて会った人達だったので挨拶をしようと思ったのだ。
「あの……」
「ひょえ!?」
「あ、すみません。急に声をかけて……。今日から神社局へ配属になりました……」
「若ぇ男じゃん……」
「はい?」
「なんだこの職場、最高か……?」
「あの……」
俺を見て固まってしまったスーツ姿の女性に何と言って声を掛けたらいいのか分からず困惑していると、背後から肩を叩かれた。
「君が『ユキちゃん』か?」
「……そ、そうです」
「白縫局長から聞いてるよ、期待のホープだって。俺は鎮守班の磐崎だ、ユキ君よろしくな」
「あ、はい。よろしくお願いします」
差し出された手を握り返す。
デカい。そして分厚い手だ。
磐崎さんはスーツの上からも鍛えられた体が分かるほど縦も横も厚みがあった。
「根咲君、ちゃんと挨拶したまえよ。彼は新人だ。先輩の君がきちんと導いてやらねば」
「あっつくるし……。分かっとるわ、んなこと。局長の話でてっきり女だと思ってたのよ」
「仕事に性別は関係ないだろう」
「ちゃうねん。あんまり熱心だったから……つうかチャン付けしてたからさあ……オキニの女だと思うじゃん。まさか男だとは……」
「根咲君、挨拶」
「この筋肉うるせ~」
互いに遠慮なく言い合ってから女性は俺の方を見た。眼鏡のレンズがキラリと光る。
「鎮守班の根咲です。よろしく」
「あ、はい、よろしくお願い……」
「ところで局長とはどういう関係? なんでユキちゃん呼びなの? 好きなタイプは? 男同士は許容範囲?」
「しま……す……」
「止めないか、根咲君」
「いやだってここは一発聞いておかないとさ、仕事に響くわこんなん」
「君の珍妙な趣味を排斥はしないが節度は守るべきだ。見たまえ、彼が固まっているだろう」
「あ、あの……」
「なになに? 実は局長の昔の知り合いだったりするの?」
「……局長からは、自分のことをどんな風に聞いてたんですか?」
「もう聞きすぎて覚えちゃってたんだけどねえ。『ユキちゃんて子が入るからよろしくね。凄く期待してるんだ。楽しみだなあ。僕これからできるだけこっちに戻るように仕事調整するね。うん、きっと伸びると思うんだ。真面目な子だよ、良い仲間になると思う。でも能力自体はまだまだだから実践を積ませないとね。任務はもちろん僕も一緒だよ。最初は剱地君と組ませるけど。ああ、本当に嬉しいなあ』を延々ループ」
「ほわ……」
「マジで途中から暗記したから」
「その節は……申し訳なく……」
「ねえ、凄く能力が高いとか上層部の縁故で御曹司とかなの?」
「いえ……役割は見鬼で……女性霊が憑いてます……」
「だよね。変わった所はそれくらいだけど、あの凄腕の局長がそこまで言うならさあ、なんかあると思うじゃん」
「……。」
「あんまり熱心だったからてっきり公私混同してオキニの子を自分の傍に置こうとしてんのかなって邪推してたわ」
「……。」
「そしたら、君が来たじゃん? 女じゃねーのかよ!」
「すみません……」
「いや、怒ってないのよ。むしろ大歓迎。もうぶっちゃけると私そういう性癖の女なの、よろしく」
「よ、よろしく……?」
「ところで何でユキちゃん呼びなの?」
「面接の時からなので……」
「初対面でいきなりユキちゃん呼び始めたの!?」
「あ、あの、子供の頃からのあだ名なので呼ばれ慣れてて抵抗もなく……」
「は~~~~~~!?」
根咲さんが素っ頓狂な声を上げて磐崎さんが溜息をつく。この二人きっと凸凹コンビだ。
彼女の悲鳴を聞きつけたのか、白縫局長が俺達の会話に入ってきた。
「磐崎君、根咲君、彼が今日から配属の……」
「ユキちゃんですよね。ごっつあんです」
「根咲君……」
「局長、私これからどんなサービス残業も休日出勤もどんと来いっスよ」
「サービス残業はさせないけど休日出勤は緊急呼び出しがあるかもしれないから微妙かな」
「根咲君、そろそろ止まってくれないか……」
わいわい賑やかな会話が楽しくて微笑ましい。
ちょっと困ったような顔をした白縫局長と目が合う。
「怪我はなかった? 剱地君と一緒なら大丈夫だとは思うけど……」
「あ、だ、大丈夫……」
『どんなことがあっても、俺だけは貴方の味方です』
条件反射のように大丈夫だと言おうと瞬間、さっきの言葉が突然脳裏に蘇った。
出るはずの言葉が口の中で砕け散る。
「大丈夫、ですけど……やっぱり少し、驚きました……」
「……。」
「まだ覚悟が足りなかったみたいです……。でも、頑張ります。皆さんの足手まといにならないように」
自分の一番正直な気持ちを吐きだすと白縫局長の表情が仮面のように滑り落ちた。
次に浮かんだのはいつもの隙のない笑みではなく、痛みをこらえたような表情だった。
「ごめんね。僕の怠慢だった……。君にそんな顔をさせて……」
「別に白縫局長のせいじゃ……」
「僕のせいだよ。……これじゃ阿坂君に怒られちゃうね……」
怒られた子供のようにしゅんとしている。
思わず目を見開いていると横にいた根咲さんが俺よりも驚愕の表情で固まっていた。やはり彼にしては珍しい態度らしい。
携帯の呼び出し音が鳴ると磐崎さんが素早く応答した。二言ほど話すとすぐに通話を切る。
「……局長、押見君から準備完了との連絡入りました」
「……うん、わかった。すぐに結界のほつれの確認と修復にあたって。磐崎君、根咲君、頼むよ」
「はい」
「はい」
「剱地君とユキちゃんは僕と一緒に監視カメラの確認に行こうか。警備室には連絡してあるから」
「ウイ~っす」
「はい……」
局長の後を追いながら先輩が俺の顔を見てにやありと意味ありげに笑った。俺はそれを見返しながらただただ困惑するしかない。
警備室での確認は結論から言えば徒労に終わった。監視カメラには何も映っていなかったのだ。正確にいうと『そのタイミングだけ偶然にも電波が途切れ撮影されていなかった』らしい。
「機械と相性の悪い奴か~」
「そのようだね」
「相性が良いとか悪いとかあるんですか?」
「あるよ? たまにヘマして映ってる幽霊いるでしょ」
「テレビとか雑誌に載ってる心霊写真って全部加工だと思ってました……」
「まあ、ほぼほぼ加工だね~。あいつらだってそうヘマしないし」
常駐している警備員さんに礼を言って神社局へ戻る。
IDの履歴は人事課の方から折り返しの連絡が来るらしい。きっと阿坂さんにも連絡行くだろうな~、とぼんやり考える。凄い勢いで怒鳴り込んできたらどうしよう。
そんな事を考えていたせいか、廊下を歩く二人から離されてしまった。俺より背が高いせいか歩調も速いので気を抜いているとすぐ置いていかれる。
扉の前にいる二人に気づき慌てて駆け足になった。
「何してんの、ユキっち」
「す、すみません。考え事してて……!」
「疲れたん? 今日一日色々あったもんね~」
「色々ありすぎて……」
「……色々? ユキちゃん他にも何かあったのかい?」
「幽霊に認知迫られたらしいですよ、『父上』って」
ドゴン、と腹に響く重低音が廊下に木霊した。
てっきり防火扉が開いた音かと思ったが局長の手に残るドアノブで考えを改める。
エレベーターの時と同じように緊急サイレンの音が鳴り響いたがすぐ止まった。たぶん部屋の中にいる神鳥谷さんが止めたんだと思う。
「…………『父上』…………?」
白縫局長が油を差し忘れたブリキ人形のような動きで俺を見た。
スタイルが良く顔も整っているせいか、そういう動きをされると本当にマネキン人形のようだ。
「き、局長……ドアノブ……」
先輩が顔を引き攣らせながら震える手でそれを指差す。
俺の見間違いではなく、本当にそれは目の前の防火扉から引き抜いたドアノブだった。
ボロボロの木の扉なら外れることもあるだろう。百歩譲って古いドアならガタが来て外れることもあるかもしれない。しかし、鋼鉄の防火扉に備え付けられたドアノブが外れることなんかあるだろうか。
「あっ」
俺達の視線にようやく気づいたのか局長が目を丸くして自身の手を見る。
「あっ、じゃないんスよ……」
「ドアノブ、外れちゃいましたね……」
「そ、そうだね……ハハハ……」
「ははは……」
「馬鹿力……」
「先輩、シッ……!」
思わず先輩の背中を小突く。
だってありえない。冷静に考えてそんな怪力はおかしい。
先輩が怪異を物理的に蹴飛ばしたように局長の持っている何らかの不思議な力かもしれないが、常識を捻じ曲げないと脳が納得できないことを目の前の人はやらかしていた。
開いたドアの隙間から神鳥谷さんの姿が見える。
「……局長、何か凄い音がしましたけど……」
「ごめん、神鳥谷君。修理の人を呼んでくれないかな……」
「どっ、どうしたんですか、ソレ!?」
「はずれちゃった……」
「はずれるんですかソレ!?」
何も知らない神鳥谷さんが驚きすぎて若干引いている。俺も先輩も痛いほど気持ちが分かってしまい神妙な気持ちで黙り込んだ。
今後、白縫局長には極力逆らわないようにしよう……。
神鳥谷さんが電話してる間に部屋に入れたのだが、何故かそのまま白縫局長の個室に連れていかれる。
壁で仕切られた個室の中はいかにも重役らしい机や椅子、ソファーなどが置かれていた。俺達のいる倉庫らしい雰囲気が残った部屋とは違って人の声や音も聞こえない。まあ、上役の声が平社員に筒抜けだとそれはそれで困るか。
先輩が勝手知ったる部屋とばかりにソファーへ座るので俺もそれに倣う。
局長は自分の机ではなくソファーの方に座った。俺の目の前だ。
腰かけた途端、こちらへ身を乗り出して尋ねてくる。
「……さっきの話だけど」
「……何の話でしたっけ?」
「ドアノブのインパクトで忘れたわ」
「……幽霊に、……その、…………認知がどうのっていう…………」
「ああ、はい」
「その話、必要っスか?」
「……情報はいくらでも欲しいんだよ。できるだけ詳細に教えてほしい」
「わかりました。ええっと、エレベーターの件のあとに先輩と一緒に昼ごはんをコンビニへ買いに行ったんです。戻ってきてから俺が休憩室の自動販売機の所に行って……」
「黒い革のソファーがある所?」
「そうです。そこで少し休んでいたら……スーツ姿の男性が来て……」
「この会社で見た顔?」
「初めて見た顔でしたね」
「IDは?」
「提げてました」
その時の事を詳細に思い出そうと左下に視線をやるがすでに記憶はおぼろげだ。
「自動販売機で買ったお茶をもらったので……」
「待ってくれ。まさか飲んだのかい?」
「えっ」
「ユキっち、まさか」
「の、飲みました……」
「……。」
「……。」
「まずかったですかね……?」
「当然でしょ! 知らない怪異からもらったお茶を飲んじゃいけないって学校で習わなかった!?」
「だ、だ、だって、目の前の自販機から買ったお茶ですよ!?」
「んなもんいくらでも偽装できるわ! アンタぼうっとしてるから!」
「えええ~」
「基本的に怪異は電化製品と相性が悪いんだけど、人間に擬態できるほど霊力の持ち主なら君の目を騙すことなんて容易だよ、次からは気をつけるように」
「はい……」
「体調におかしな所はある?」
「と、と、特にないです……」
「何かあったら遠慮せずにすぐ言って」
「は、はい!」
俺から話を聞きだしてるだけの局長と先輩がすでにぐったりしている。そんなにまずい物を飲んでしまったのだろうか。
「【黄泉戸喫】(よもつへぐい)と言ってね、黄泉の国つまり死者の国で煮炊きした物を口にすると黄泉の国の者となり、現世には戻れなくなると言われた信仰があるんだよ」
「死ぬ、ってことですか……?」
「端的に言うとそうだね。もっとまずいのは死者じゃなかったら黄泉以外の世界に連れて行かれることになる。君は幽霊以外も視えるんだったね?」
「はい」
「その可能性も考慮した方がいい」
「……妖怪、とかですか?」
「ここまで来れる妖怪がいるとは思えないな」
局長と先輩がチラリと目線を合わせる。先輩が軽く首を横に振った。
「それで、もらったお茶を飲んでから?」
「えっと……俺は少し、疲れてて……そしたら彼が……傍にきて……」
座っている俺に近づいてきた。
膝をついて、こちらを見上げて、痛みをこらえたような声で。
『どんなことがあっても、俺だけは貴方の味方です』
「……。」
その言葉だけは誰にも言いたくなくて口を閉ざす。
俺より背が高くて、俺より体の線が細かった。
童顔で整った相貌。愛嬌のある笑み。
親近感のある顔の造形に懐かしさに似た妙な感覚が体中を駆け巡っていた。
どうしてだろう。彼の顔は不思議な可愛らしさがあった。
「俺をずっと、待っていたと……」
「…………。」
「そしたら面接の時みたいに、急に照明が落ちて真っ暗になって、……」
「…………。」
「……『父上』と、呼ばれたんです」
「……そう……」
「あの、でも、俺は入社時に申告したとおり独身です! 結婚もしてないし、配偶者もいません!」
「そうだね……」
「あ、でも……」
「ん?」
言おうかどうか迷って視線が床を彷徨う。
これは関係あることだろうか。いや、ない。きっと。でも。
「面倒を見てる子はいます。一緒に住んでないけど……」
「は?」
「え……?」
「いや、でも、違いますね。年齢的に……。すみません、今の話は関係なかったです」
「……。」
「……そう」
妙な沈黙が流れて冷や汗が出る。
なんだろう。
もしかして俺は若くして離婚して離れて暮らす子供の養育費を払ってると勘違いされてないだろうか。違いますけど。でももう一度その話題を持ち出す勇気が俺にはなかった。
「……色々って、他にはあったのかい?」
「……あり、ます……」
「あるんだね」
「たいしたことじゃないと思ってて……」
「聞かせてくれるかい?」
「……。」
俺はこの時点になってようやく、もしかして自分がここに怪異らしき何かを手引きした人間なのではと気づいた。
そうだ。最初にエレベーターに乗ったとき不思議な階に出た。あれで結界とやらに影響を出してしまったのでは……。だとしたら……。ど、どうしよう……。出勤初日に大ミスをやらかすなんて……!
真っ青になっていると局長が気づかわしげに首を傾ける。
「何か心配するような事があったのかい?」
「……そ、その……」
「うん?」
「もしかして、俺が……その地下へ……手引き? をしてしまったんじゃないかと……」
「……そう思うような事があったんだ?」
局長の落ち着いた声と反比例して冷や汗が背中を滝のように流れていった。
でも、ここは、早めに対処すべきだ。俺のせいなら、そこで原因究明の作業をしてる人達の仕事は終わる。
両手を血の気が無くなるまで強く握り締めた。
「……はい。阿坂さんが来る前に、実は一人でエレベーターに乗ったんです。早めに地下の階に行こうと思って」
「そうなんだ」
「……自動ドアが開いて、出ようとしたら、何も、無くて……」
「何も無い?」
「……真っ暗で、何も無かった……何も見えなかったんです……」
「……。」
「そのまま急いでボタンを押してドアを閉めたんですが……もしかして……それが……理由かもと……」
生唾をゴクリと飲み込む。
その時の光景を思い出しても悪い夢のようで自分の妄想のように思えてくる。だけど、間違いなくあれは現実だった。何度瞬きしても消えない光景。
局長は口元に手を当て考え込んでいた。胃の底がキリキリ痛む。
「ユキちゃん」
「はい……」
名前を呼ばれて心臓が大きく波打った。
「違うよ」
「はい……?」
「それは別の階の話だと思う」
「……別の、階……?」
「うん。ドアが開いたら真っ暗だったんだろう?」
「は、はい……」
「ちゃんと実在する階だから大丈夫。それが理由で怪異を呼び寄せたんじゃないから」
「そ、そうなんですか……?」
「うん」
「よ、よかった~~~~~……」
両手で顔を覆ってしまった。安心して今にも泣き出しそう。
ぐすり、と鼻を鳴らすと溜息をついた先輩が局長に尋ねる。
「真っ暗な階って何スか? 俺もまだ知らないとこあるんだ?」
「あるよ。剱地君やユキちゃんのIDだと行けないはずの階だ。不思議だね、阿坂クンから新IDをもらう前に旧IDで行けてしまったんだ?」
「ぐすっ、は、はい……そうです……」
「だとしたらおかしいな。すでにその時点でエレベーターの故障か破壊されたとみるべきかもしれない。その線でも調査してみよう。ユキちゃん、泣かなくていいからね。お菓子あるんだ、食べる?」
「い、いただきます~……」
「食うんかい」
頂き物だという高そうなクッキー缶を出されて先輩の目の色が変わる。
「俺、コーヒー淹れてきます!」
「そこにあるコーヒーマシン使って」
「デロンギじゃん!」
「使い方わかる?」
「こういうの得意なんスよ~。うひょ~、たのし~」
コーヒーマシンの前で先輩が子供のようにはしゃいでいる。気持ちは分かる。俺もこんな気分じゃなかったら同じように近くで見てテンションが上がっていたかもしれない。
「……剱地君は機械類が得意なんだよね」
「たしかに似合いますね……」
「濡れタオルを持ってこようか?」
「大丈夫です。……会社で泣いてしまって、すみません……」
「君は少し我慢しすぎだよ。これが剱地君だったら、最初の怪異に遭遇した時点で大騒ぎだった」
「……はい。もっと早く報告すべきでした」
「怒ってるんでも注意してるんでもないよ、僕の君への評価だ」
「……せっかく、局長から期待されていたのに……申し訳ないです……」
「そうじゃないんだ。もっと頼ってね、ってこと。君はここで一番の新人なんだから」
局長が励ますように笑いかけてくれて優しいなあ、と感動してしまう。
まっすぐな俺の目線に彼が苦く笑った。そういう表情がとてもよく似合う人だ。
「……本当は僕が君を一番に迎えに行くつもりだったんだ。それなのに阿坂クンと先に着いてたから、少し腹を立ててしまった」
「え……」
「だから今、ちょっと反省してるよ。すぐに出発しないでこうやって君の話を聞いておけばよかったなって……」
「局長がそんな風に思う必要なんてありません。お、俺が……色々ミスったり、運が悪かったりしただけなんで……!」
「君は何も失敗してないよ」
「え?」
「僕が思っているより、周りが思っているより、どうやら君はとても強い霊力と因縁を持ってるみたいだ……」
「俺が……?」
「うん。その力を伸ばすために、今はたくさん周囲に頼って欲しい。君の周りはとても強い人達ばかりを集めたから、どんなに寄りかかっても平気だよ」
少し寂しそうに笑う局長がとても放っておけなくて必死に言葉を探す。
「た、頼りにしてます」
「うん、みんな強いよ」
「局長を、一番頼りに思います。信頼、しています」
「……。」
「きっと、局長の期待に応えてみせます。約束します」
あまりに慌てたせいか何の飾りもないストレートな言葉になってしまった。まるで片言で話す子供のようだ。恥ずかしさに少し照れ笑いしていると局長が懐かしそうに赤い目を細める。
「……うん、約束しよう……」
先輩が淹れたてのとても良い香りがするコーヒーを持ってきてくれた。優しい味のクッキーを頂戴して俺はやっと人心地がついた気分になったのだ。




