分厚い少女
分厚い。
何もかもが分厚い。
あれはずっと前のこと。
何もかもを手放したら、
何もかもが分厚くなった。
あまりにも
襲いくるものが辛いから、
分厚いものを挟んだらしい。
透明な分厚いものは、
私の全てを覆った。
それから ずっと
経った 今も
目の前は分厚く
そして 私は 箱の中。
接続できなくなった現実は
すべてが糸のように 線のように
細く 色を 失った。
自分の手は ナニカだし
目の前のタオルは ナニカだし
ぬいぐるみは 物体だった。
分厚くなった 私は
何も広げ られなくなった。
動かない。
箱の中では手足が伸ばせない。
ずうっと ギュウっと
一生 このまま
固くなって生きなきゃ
いけないのかな?
そこは水中のよう
泳げなくなった魚
息のできない人間
何も見えなくなってから
ずいぶん経った。
少し 差し込む光が
箱の中に 漏れ出してきた。
その 1ミリの光を
私は 手にとって
まじまじと 見ていた。
糸のような 線のような
かすかな 酸素
必死にもがいて ようやく掴んだ
一筋の光は
私に息をもたらして
外の様子を 見させてくれた。
それは 人間
それは お花
それは タオル
それは ぬいぐるみ
息をしている すべてのものたち。
ピンクは ピンク
青は 青く
黄緑は 黄緑だった。
みんな 息をしている。
タオルの 繊維は
一つ一つ 踊っている。
ぬいぐるみは オハヨーと喋る。
花からは 匂いがする。
なにもかも 分厚かった少女
やっと やっと 1ミリの光
呼吸のしどころ
もう大人になってしまったけど
これから やっと 生き始めた
これから やっと 歩む人生
かすかなハッピーバースデーが聞こえてくる
ヒビが入った 箱の中
何もかもが ここから始まり。