気づきたくなかった気持ち?酔った時は要注意
ここ数日、美咲は翔太とのLINEの返信をあえて遅らせていた。
話したい気持ちがなかったわけじゃない。ただ、あの駅前で見かけた光景が胸に残っていて、素直になれなかった。
(別に、彼が誰と会ってようと関係ない……はずなのに。)
でも、思っていたよりずっと、心がざわついていた。
──耐えきれなくなったのは、金曜の夜。
「ねぇ翔太くん、今って空いてたりする?飲まない?」
メッセージを送ってから、心臓がバクバクした。
3分後に返ってきた「行く!」の一言に、美咲はふっと笑っていた。
⸻
居酒屋の個室で、乾杯から始まった夜は、いつもより気楽で、ちょっとだけ特別だった。
「だから私さ、最近ちょっと考えてたんだよね。男の子って、なんでああも鈍感なのかな~って!」
「えっ、俺?なんかした?」
「うーん……どうだろうね?」
気づけば、美咲の頬はほんのり赤く染まっていた。
梅酒を3杯も飲んで、軽く酔っていた。
翔太が頼んだ唐揚げを1つ取って、「これおいしいね」と笑う彼女の笑顔に、翔太も少し顔をほころばせた。
「なぁ美咲さん。」
「ん?」
「最近、ちょっと避けてた?」
「えー……そんなことない……かも……あるかも……」
ごまかすように、グラスに口をつける。
「俺、なんかしたんなら謝るけど……俺、美咲さんのこと、ちゃんと考えてるよ。」
美咲は一瞬きょとんとした後、笑った。
「……ダメだよ。そんな顔で言われたら、好きになっちゃうかも……」
翔太の手が止まる。
彼女は酔ったように笑っている。けれど、その声はどこか本気の響きを持っていた。
「……え、今、なんて?」
「えー?なに言ったっけ?……んー、忘れた!」
唐突に立ち上がり、お手洗いに向かう美咲の背中を、翔太はただ見送ることしかできなかった。
(……本気か、冗談か。どっちだよ……)
けれど、胸の奥で何かが確かに弾けた気がした。
⸻
翌朝、美咲はソファで目を覚ました。
「ん……あれ、昨日ちゃんと帰ったんだ……」
スマホを確認すると、翔太から「無事に帰れた?水たくさん飲んでね」とメッセージ。
(……そういえば、昨日、何話したっけ?)
断片的にしか思い出せない。けれど、妙に胸がドキドキしていた。






