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現代恋物語  作者: taku
7/11

すれ違いの予感

土曜の夕方。

美咲は、買い物帰りにふと思い立って、駅前の本屋に立ち寄った。

手に取った雑誌をパラパラとめくりながら、ふと視線を窓の外に向ける。


その瞬間、見覚えのある後ろ姿が目に入った。


(……翔太くん?)


間違いない。あのちょっと無造作に跳ねた髪と、明るめのベージュのパーカー。

隣には、女性がいた。

黒髪のロングに、薄ピンクのブラウス――上品で、どこか柔らかな雰囲気。


2人はカフェの前で並びながら、笑い合っている。


(……デート?)


胸の奥が、じんわり痛んだ。


すると、ガラス越しに聞こえてきた声に、耳が自然と傾く。


「ねえ、覚えてる?私、翔太くんに飲みすぎてだる絡みの電話かけまくってたの。笑」

「もちろん。大学の時でしょ?懐かしいな。」


「なんかさぁ……社会人になってから、そういう風にちゃんと話せる人、全然いなくて。今、彼氏もいないし。」


その言葉に、美咲の指が雑誌のページで止まった。


翔太の反応までは聞こえなかった。

でも、女の子の笑い声が耳に残った。


(なんで、こんな気持ちになるんだろう。)


付き合っているわけじゃない。

翔太が誰とどこで何をしていても、それは自由なはずなのに。


(……今日、LINEしようか迷ってたのに。)


自分の中に芽生えかけていた好意が、足元からすくわれた気がした。

本屋を出て、駅の雑踏に紛れるように歩き出す。


春の風が吹き抜けても、心のざわめきは消えなかった。


(翔太くんって……ああいう子が好みなのかな。)


電車に揺られながら、美咲はずっと胸の奥がざわついていた。

たった数秒、ガラス越しに見ただけ――なのに、頭から離れない。


LINEを送ろうとして、やっぱりやめて。

開いたアプリを閉じる、それだけの動作が、ひどく寂しく感じた。



「……それで、今彼氏いないんだ。」


駅前のカフェで、翔太は苦笑しながら向かいの女性――大学時代の後輩・由依の話に耳を傾けていた。


「そっか。意外。由依ちゃんって、なんかいつも彼氏途切れないイメージだった。」


「えー、失礼!昔はね、でも今は……大人になるといろいろあるの。」


由依がストローをくるくる回す。

翔太はそれをぼんやり見ながら、ふっと言った。


「俺、今さ。好きな人がいるんだよね。」


由依の手が止まった。


「えっ、そうなの?」


「うん。ちょっと年上で、職場も違うし、なんか……距離感つかみにくい人なんだけど。」


思い浮かべるのは、いつものあの笑顔。

人懐っこくて、気配り上手で、なのにときどきちょっと抜けてて。

そして恋愛にはまったく無防備な人。


「たまにすごく近いと思ったら、いきなり遠くに行っちゃう感じがして。」


「へぇ……」


由依が表情を読めないまま、小さくうなずいた。


「でも、そういうところも含めて、好きだなって。」


カップに残ったアイスコーヒーが、カランと音を立てた。



美咲は知らない。

今、翔太が自分の名前こそ出さずに、本気の想いを口にしていたことを。


そして翔太も知らない。

さっきまで、その想いの相手がすぐ近くにいたことを。


すれ違いは、静かに、確かに、2人の距離を試そうとしていた。

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