表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代恋物語  作者: taku
6/11

あえて引け、なんて無理だった

その日の退勤後。

エントランスを出たところで、美咲は偶然を装って翔太を待っていた。

いや、正確には――あのLINEの返信を、直接言いたかったのだ。


「翔太くん。」


彼の名前を呼んだ瞬間、翔太は少し驚いた顔をした。


「美咲さん…!」


「待ってた。」


「え、え、俺?なにか……ありました?」


翔太の目が泳いでいる。慌ててるのがバレバレだ。


「LINE、読んだよ。」


「あ、うん……気に障ってたらごめんね。」


「ううん。むしろ……ちょっと、寂しかった。」


その一言に、翔太の表情が一気にほころぶ――かと思いきや。


「……やばい、もう限界だ。」


「え?」


「いや、引こうと思ったんです。恋の三段活用の、第二段、“あえて引け”を実践してたんですよ。」


「……なにそれ?」


「大学時代の先輩に、恋愛は押してばかりじゃだめだって言われて。ちょっと引いたら、相手が気になってくれるって。でも……」


翔太はちょっと眉を下げて笑った。


「本当は今日、話しかけたくてたまらなかったです。」


その正直すぎる告白に、美咲は吹き出してしまう。


「なにそれ、子犬か!」


「子犬……?」


「うん、遠くからじーっと見てるのに、名前呼ばれたらしっぽ振って走ってくるタイプの。」


「……それ、めっちゃ嬉しい褒められ方してません?」


翔太がふっと笑い、美咲も肩の力を抜いて微笑む。


「でも、ちょっと嬉しかったよ。翔太くんがそんな風に考えてくれてたの。」


「じゃあ……これからも話しかけてもいいですか?」


「……もちろん。」


言葉の最後に、美咲はちょっと照れながら付け加える。


「私も……話したかった。」


その言葉に、翔太はまるで子犬のように目を輝かせる。


「……今すぐ晩ごはん誘いたいくらいですけど、そこはもうちょっと引いといたほうがいいですよね?」


「うん、それはたぶん、早すぎる。」


「でも、“もうちょっと”なんですよね!」


「……ふふ、うるさい。」


夕焼けに染まる帰り道。

2人の足音は、自然と同じリズムを刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ