この胸のざわめきの正体
午後の業務が始まってからも、美咲はなんとなく集中できなかった。
モニターに向かって入力作業をしながらも、頭の片隅にずっと翔太の顔が浮かんでいる。
(…ちゃんと反省してるって顔だったな。あんな顔、初めて見たかも。)
彼はいつも、軽口を叩いては周囲を笑わせている。
けれど今日の彼は、どこか冷静で――遠かった。
(…なんか、こっちが気にしてるみたいじゃん。)
そう思って首を軽く振るが、気持ちは拭えない。
午後3時。休憩室のソファに腰を下ろして、コーヒーを飲む。
窓の外は春のやわらかな陽ざし。でも、その明るさとは裏腹に、胸の内は妙にくすぶっていた。
(毎日当たり前のように話しかけられてたのに、それがなくなったら…)
「なんか、変な感じだなあ。」
ポツリと独り言を漏らす。
(あれが、当たり前になってたんだ…翔太くんが、隣に来てくれるの。)
そのとき、スマホが震えた。
LINEの通知――送り主は、翔太だった。
「さっきは、ちょっと大人げなくてすみませんでした」
「話しかけるの、控えたほうがいいのかなって思って」
「でも、また話したくなったら、教えてください」
その丁寧すぎる言葉が、胸の奥にしんと響いた。
こんなにも気を遣わせてたんだ、という罪悪感。
そして、「また話したくなったら」という言葉の優しさ。
美咲はスマホを見つめながら、しばらく何も返せなかった。
だけど――
(…また話したい、か。)
自分の中で、その気持ちはもう、答えが出ていた。