その攻め、0点です。
大学時代の友人グループの飲み会。
個室の片隅で、翔太は深刻な顔でスマホの写真を見せていた。写っているのは、美咲の笑顔。
「…いや、これはもう“ガチのやつ”やな。」
真剣な表情で写真を見つめるのは、翔太の大学時代のサークルの先輩――滝川。
女の子の9割を2秒で落とす、と言われていたモテ無双男。
「てかさ、正直お前…その顔でまだ落とせてないってどういうこと?」
「いや…そうなんですよ。かわされるんです、全部。なんかこう…手のひらで転がされてる感あって。」
「はは、そういうタイプいるよなー。自覚ない魔性系。あと、年上女子って一筋縄じゃいかないから。」
「どうしたらいいですかね?」
滝川はグラスを置くと、にやりと笑った。
「よし、じゃあ“滝川式・恋の三段活用”でいこうか。」
「そんなのあるんですか。」
「ある。まず、①意外性で揺さぶれ。
年下らしからぬ落ち着きとか、急にドキッとさせる距離感とか。
次に、②あえて引け。押しだけじゃ人は落ちない。引いて様子を見ろ。
最後に、③頼れ。年上って『頼られると放っておけない』生き物やから。」
「…それ、実績あります?」
「3人同時に付き合って振られた。」
「ダメやん。」
笑いながらも、翔太はアドバイスを胸に刻んだ。
⸻
翌日。
カフェテリアで、いつものように出会った美咲に、翔太は少しトーンを変えて話しかける。
「…昨日、飲みすぎちゃって。ちょっとだけ、しんどいです。」
「え、大丈夫?そんな顔に見えないけど?」
「顔は強いんです、意外と。」
言いながら、翔太はわざと目を伏せる。いつもより少しだけ距離を縮めて。
「ちょっと…膝貸してもらってもいいですか?」
「は?」
「冗談です。」
一瞬、ピリッとした空気。けれど、美咲はふっと笑った。
「翔太くんって、もしかして最近、どこかで勉強してる?」
「…はい?」
「口説きのセリフが、ちょっと“作ってる感”出てるよ。かわいいけど。」
「……。」
完全に見抜かれていた。
「でも、面白いなぁって思うよ。そういうの。」
美咲はそう言って、飲みかけのカフェラテに口をつけた。
翔太は撃沈。だけど、負ける気はしていなかった。
彼女の“余裕”の奥に、まだ見えていない何かがある気がしていたから。