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第6話交錯する因果、揺らぐ運命の境界




 世界の形が、私の意志によって書き換えられていく。

 光と闇、過去と未来、希望と絶望。

 そのすべてが、無限に絡み合いながら、たったひとつの物語へと収束していく感覚。


 しかし――


 私はまだ、何も知らないのかもしれない。


 運命改変ストーリーリライトの力を持つがゆえに、私はすべてを変えることができる。

 だが、果たしてそれは本当に「私の望む世界」なのだろうか?

 もしも、この力の行使そのものが、誰かの意志に仕組まれたものだとしたら?


 ――否定しがたい不安が、胸の奥で静かに蠢く。


 私の手の中に浮かぶのは、一冊の古びた書物だった。

 その表紙には見覚えがある。しかし、思い出そうとすると、まるで靄がかかったように記憶が遠のいていく。

 それはまるで、何者かによって記憶そのものが「編集」されているかのようだった。


 「アリシア、お前はまた”鍵”を手にしたのか」


 不意に、背後から重厚な声が響く。

 振り向くと、そこにはローブを纏った老人――第5話で邂逅した謎の人物が、静かに佇んでいた。

 彼の目には深淵のごとき知識が宿り、すべてを見通しているかのような気配がある。


 「……あなたは、誰?」


 問いかけるも、彼はすぐには答えず、ただゆっくりと歩み寄ってくる。

 やがて彼は、私の手の中の書を指差し、穏やかな口調で告げた。


 「それは、お前自身の物語だよ。アリシア、お前は未だに”断片”しか見ていない」


 ――私自身の、物語?


 そう呟いた瞬間、頭の奥で何かが弾けたような感覚がした。


因果の交錯


 視界が急激に歪み、次の瞬間、私はまったく違う場所に立っていた。

 見渡す限りの虚無。

 闇でもなく、光でもなく、ただ白紙のような空間が広がっている。

 そして、その中心に、一つの机が置かれていた。

 机の上には、一冊の書物――それは私が手にしていたものと酷似しているが、異なる。


 「アリシア、それは”君が決して開いてはならない本”だ」


 声がした。

 見れば、フェリクスがこちらを見つめていた。

 その顔には、今までに見たことのないほどの焦燥が浮かんでいる。


 「何故?」私は問う。

 「この本が、私の物語なら、私は読むべきじゃないの?」


 フェリクスは首を横に振る。

 「もし君がそれを読めば、“確定”してしまう。君の力は、“可能性”を操るものだ。だが、一度物語が確定してしまえば、君はもう何も書き換えられなくなる」


 ――確定する?


 だが、その言葉の意味を理解する前に、私は無意識のうちに本へと手を伸ばしていた。


 指先が表紙に触れた瞬間、空間が激しく揺れ動いた。


 「アリシア!」

 フェリクスが叫ぶ。


 しかし、私はもう止めることができなかった。


世界の変質


 本が勝手に開き、文字が溢れ出す。

 その文字の一つひとつが、まるで生き物のようにうねりながら、私の意識に直接流れ込んでくる。


 「……これは……」


 それは、私がまだ知らなかった”もう一つの世界”の記憶だった。


 そこでは、私はただの「観測者」であり、「創造者」ではなかった。

 書き換えられるのは、私自身ではなく、誰か別の存在。

 私はただ、記録されるべき出来事をなぞる存在でしかなかった。


 「違う……これは、私の望んだ未来じゃない!」


 私は本を閉じようとする。

 しかし、文字は止まるどころか、ますます激しく溢れ出し、白紙の空間を塗りつぶしていく。


 「アリシア、戻れ!」

 フェリクスの声が響く。


 だが、次の瞬間――


 すべてが、消えた。


揺らぐ境界


 目を開けると、私は再び学園の廊下に立っていた。

 しかし、そこには違和感があった。


 壁に刻まれた記号が、先ほどまでと違う形になっている。

 窓から見える景色も、どこかが異なっている。

 何より、周囲の空気が、微妙に異質なものになっている。


 まるで、ほんのわずかだが、“違う世界”に迷い込んだかのように――


 「……私は、本当に戻れたの?」


 足音が響く。

 振り返ると、そこに立っていたのはエリックだった。


 「……アリシア、お前は”境界”を超えたな」


 その表情は険しく、まるで私が”やってはいけないこと”をしたかのような目で見つめていた。


 「お前が見たものは何だ?」


 私は答えようとする。

 しかし、何故か言葉が出てこなかった。


 いや――言葉を発することが「許されていない」ような感覚。


 これは、一体――


 私は気づいた。

 この世界は、ほんの少しだけ書き換わっている。

 私があの本を開いたことによって、わずかに因果が変動し、何かが変わってしまった。


 だが、その”何か”が何なのか、私はまだ知らない。


 フェリクスの言葉が脳裏にこだまする。

 「君がそれを読めば、“確定”してしまう」


 私は確かに、本を開いてしまった。

 では、私はもう何も書き換えられないのか?


 運命改変の力は、まだ私の中にあるはずだ。

 だが、もしその力が”制限”されていたとしたら――?


 「アリシア、お前はもう……」

 エリックの言葉が、そこで途切れる。


 運命が、何かに干渉されている。

 私は直感的に、それを感じ取った。


 これは、私自身がもたらした”変化”なのか。

 それとも、何者かによって”仕組まれた改変”なのか。


 ――分からない。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


 私が開いた本の先にある物語は、まだ”終わっていない”。


 そして、“本当の敵”は、まだその姿を現していない。


 ――続く。

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